第29話「盗作騒動」

 Side 木里 翔太郎 


 理不尽と言うのは本当に唐突に起きる。


 何時もそうだった。

 

 そしてそれの解決手段は何時も暴力だった。


 もし次に、高校になってから理不尽に見舞われた場合は暴力に頼らない解決手段を模索しよう。


 俺はそう誓っていた。

 だが結局は暴力頼みになった。

 

 コンビニの事件も。

 そして早瀬との一連の騒動も。

 相川 タツヤとの出会いとなったキッカケの事件も。


 手毬は昔から分かっていたのだろう。

 

 新たな諍いの始まりはふとした事件がキッカケだった。


 朝の通学路。

 手毬と一緒に通っている最中、そこで事件を知った。


「ライトノベルの盗作騒動?」


「ええ。今その話題で持ちきりよ。何でもウチのクラスにラノベ作家志望者がいて――で、その原稿を盗作されたと言って他の生徒に殴り掛かったのよ」


「今俺たち小説書いてるのに、なんつーかタイムリーな事件起きたな」


 縁起が悪く感じたが、自分達には関係ない事だ。

 俺と手毬は人助けを生業としているワケでも無いのだ。


「で? 盗作がどうして発覚したんだ? ウェブ小説サイトに投稿しただけって言うなら全削除して謝罪すればいいだけだろ。ウチの学園、早瀬の一件で警察沙汰にはしたくないだろうし」


 早瀬――正確には新島 ハルヤと藤沢 クルミ、そして不良グループの学校襲撃事件は凄いニュースになった。

 まるでも何も、不良漫画の世界だからだ。

 しかも下手すれば死人が出た可能性すらあった事件だ。

 学校の教職員は皆、顔を真っ青にして大騒ぎして保護者会議も紛糾して、警察も立ち入り捜査して今でも警察車輌が学園の周辺を頻繁にパトロールしている。

 

 学校側も大事にはしたくないだろう。

 俺は楽観的にそう言った。


「それで済めば良かったんだけどね。その盗作された小説――大賞を受賞しちゃったらしいのよ。そして本として出版されて、それで事態の真相を知ったのよ。これは盗作だってね」


「また大事になったなおい・・・・・・しかもウチのクラスで?」

 

 そんな大事なら自分の耳にも入ってそうな物だと思い頭を掻いた。


「証拠はあるのか?」


「さあね・・・・・・ともかく放置しておきましょう。私達には関係ないわ」


「そうだな」


 俺達には無関係な事件だ。

 そう思っていた。



 俺と手毬は何故か担任の教師に呼び出しを食らっていた。

 

 相薗 スミカ。

 

 長い黒髪を一房に纏めてお下げにした、均整の取れたプロポーションを持つクールビューティーが売りの人気がある教師だ。

 だが手毬は「見た目だけで中身はダメな残念美人」と厳しい意見を突き付けている。


 手毬の評価基準はシビアだが、前回の早瀬や新島 ハルヤの事件の時はぶっちゃけ事後処理しか活躍らしい活躍がなかった。

 俺も正直嫌いな・・・・・・いや、嫌いになってしまったタイプの人種だ。


 中学時代ではこの手の性格はいいが役に立たない教師は何人もいた。そう言う奴に限ってマニュアル通りの対処しかやらず、事態を悪化させてきた。

 

 学園ドラマを夢見て教師になったのか、それとも手に職持つ感覚で教師になったかは知らないが、邪魔にならなければ別にどうでもいいや程度に感じていた。


 応接室を間借りして向かい合う。

 黒塗りのソファーと膝ぐらいの高さのテーブルを挟み、相薗先生は緊張した面持ちで口を開いた。


「手毬さんと木里君を呼び出したのは――もう噂になっている、ラノベの盗作騒動について――」


「さて、帰るか手毬」


「そうね」


 俺達は立ち去った。

 

「ま、待て! 話ぐらい聞いてくれ!」


「どうせ私達に事件解決して欲しいって言うんでしょ。このぐらいのトラブル、自分で解決出来ないで生徒に任せるようじゃこの先教師なんかやっていけないですよ。嫌ならさっさと転職考えた方がいいですよ」


 と、手毬は丁寧な口調で怠そうに言った。

 厳しい意見だがこの意見には同意だ。

 この先停年まで教師を続けるつもりならこれぐらいのトラブル自力で解決しなければやってられないだろう。


「今回の事件は特殊な部分が多くてだな。その道のスペシャリストの力を借りたかったと言うか何と言うか・・・・・・」


「つまり話を纏めればどちらが盗作したかどうか調べて欲しいと言う事ですよね?」


「そ、そうなのだが・・・・・・」


 もう相薗先生教師の威厳は殆ど感じられない。

 そんな態度を見かねてか手毬はふぅとため息をついた。

 

「だけどこの問題、ただ盗作の真実を明かしただけじゃまた暴力沙汰になるデリケートな案件よ」


「だよなぁ・・・・・・」


 もしも盗作が真実で一発殴っただけで済ましたのなら相手は余程根は善人なのだろう。


 俺だったら院少入る覚悟で病院送りにしてる。

 

「たぶんこれ、創作者にしか分からない感覚ですよ。仮にですよ? 仮にその人が盗作されたのが真実だったら正直殴る程度で済んで良かったと言えますよ」


「でも、暴力は暴力だ・・・・・・そこは譲れない」


 この言葉に手毬は「そうね・・・・・・」と返した。


「で? 私達に解決させるって事は当然、盗作疑惑のラノベはあるんですよね? それと盗作の元となった原本も」


「えーと、すまない・・・・・・」


 その事に手毬がキレた。


「段取り悪いわね! アンタ事件解決する気あるの!? それでも教師続ける気あるの!?」


 大声で怒鳴り散らした。

 

「いい!? 皆が最初にアンタへ頭を下げてるのわね!? アンタが偉いからとかじゃなくて教師と言う肩書きに頭下げてるのよ!? ただ教科書の内容を教える程度なら誰だって出来んのよ! 本当に教師続ける気あんなら教師として必要最低限の事だけをやるんじゃなくて、教師としてキッチリやる事やりなさい!」


 ゼイゼイと息を切らせながら手毬は黙り込む。

 あまりの手毬の迫力に相薗先生は絶句して半泣きになっていた。



 取り合えず教室に戻る。

 クラスの人間はヒソヒソと事件の中心人物について語り合っていた。

 正直雰囲気はとても悪い。


 俺は相川と合流。


 手毬は牛島さんと豊穣院さんの方へと向かった。


「やっぱり話題になってるな」


「ええ。しかし、今度はクラス内で盗作問題ですか・・・・・・以前の事件といい、退屈しませんねこの高校は」


「ああ・・・・・・俺にとっちゃぁ中学時代よりかはマシだ。死人出たからな」


「・・・・・・よく高校入れましたね」


 相川は仏頂面を変化させて簡潔な感想を述べた。「今でも不思議に思ってるよ」と返して本題に戻す。


「しかし今回の事件の人とは知り合いでは無いのですか?」


「趣味が同じだからと言って仲良くなれるワケじゃないからな。同じロボットアニメが好きでも、マジン●ーZとかスーパー系が好きだったり、リアル系ロボットアニメが好きだったり、かと思えばボトム●とかパトレイ●ーそう言う路線のロボット物が好きだったりとか・・・・・・ロボットアニメだけでもこれぐらい好みの差があったりする場合は多いんだ」


「中々難しい世界なんですね」


「ああ単純に見えてな」


 本当にこの世界はそんな感じである。

 

「それに創作趣味って言うのは相手も同じ趣味で同姓とかでもない限り普通は仲良くなんかなれないんだ。俺の場合は手毬とかの繋がりで牛島さんと仲良くなれたわけだし・・・・・・オタクの人付き合いも難しいもんだぜ?」


「ふむ・・・・・・人付き合いと言うのも難しいもんですね」


「ああ」


 ちなみに情報ソースはラノベもあるが、実体験も含まれている。


「で? 何をしてるんですか?」


「取り合えず盗作騒動になってるラノベのチェック。こう言うのは大体検証サイトとかが出来ていたりするからな・・・・・・それに今回は大賞取ったラノベが盗作となるって言う話題性もある。そうなるとネットの世界も週刊誌と変わらなくなる」


「週刊誌読んだ事あるんですか?」


「恐い物見たさでな・・・・・・そういや、ある漫画で週刊誌の作り方に触れてたが、その漫画によれば社会の勝者のアラ探しを徹底的にやって嫉妬心をやわらげて、敗者の弱点を突いて読者に優越感を与えるらしい。日本人が快感を得る原則と言うのはそう言う風になってるらしい。SNSとかも注意深く眺めていると当て嵌まる部分は結構あるよ」


 快感原則云々の話が本当ならばSNSが自然とそうなるのも無理からぬ話だ。

 登場キャラの一人が「卑しい民族だ」と評したが、今の日本の負の部分に目を向けると返す言葉もない。


「その漫画何て言うタイトルなんです?」


「パト●イバー・・・・・・遂最近牛島産や豊穣院さんととかと一緒に劇場版とか見たばっかだけど、パト●イバーは本当に未来を予知しているよ。」


「・・・・・・今度読んで見ます」


「中古書店駆けずり回るより、漫画喫茶とかで読むか、金があるなら電子書籍で購入した方が時間の手間が掛からずに済むぞ」

 

 そう言っているウチに件の小説サイトに辿り着いた。

 タイトル名は「魔法少女戦記」。

 昨今のラノベにしては珍しくシンプルなタイトルだ。

 表紙カバーも魔法少女と銘打っている割にはドギツイ絵柄の魔法少女が描かれている。

 手毬とかが好きなタイプだ。

 

 ペンネームはりりかるウサギ。

 

「それが今話題になっている?」


「ああ・・・・・・魔法少女戦記。盗作騒動の話題になっている奴らしい。出版社は現在、事実確認を急いでいる状態とかなっているな・・・・・・」


「・・・・・・問題は本当に盗作なのかどうかですね。そう言うのって分かる物なのですか?」


「人の感じ方とかもあるが、もし原本とこのラノベを見比べたら一発で分かる筈だ。まあ仮にそんな事しなくても、続きを書かせれば一発で分かるんだけどな」


「そうですね。自分もある程度小説を読んだり書いたりしたから分かりますが、やはり人それぞれのクセの様な物が出ますからね」


 そうだ。

 物書きと言うには個人差はあれど、書けば書くほどその人独特のクセの様な物が出て来る。

 それは文章だけでなく、物語の展開や登場キャラの台詞や言い回し、劇中の描写などにも現れるのだ。

 

 これはもう、百パーセント模倣できる物ではない。

 他の有名な作家さんと似ていると感じていても、それは部分的だろう。


 だからこそ、本当に盗作した場合分かってしまうのだ。

 

「まあ、今回は首を突っ込んで事件解決する義理もないしな・・・・・・だけど、魔法少女戦記の原本と続きがあるならちょっと読んで見たいって気分はある」


 これは偽ざる本音だ。

 もしも本当に「盗作だったならば」と言う枕詞が付くが・・・・・・読んでみたいと思う。

 

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