第28話「ラノベを書いてみることにした2」
Side 木里 翔太郎
どう言うワケか俺たちは――手毬 サエ、相川 タツヤ、牛島 ミクさんや豊穣院 ミホさんと一緒に小説を書く事になった。
キッカケは豊穣院さんのこの一言だ。
「以前、三人でラノベを一緒に書いたとか――」
「うん。そうだよ」
と、笑みを浮かべて牛島さんが返答する。手毬は小声で顔を赤らめながら「そんな事もあったわね」と呟いた。
俺もあの時の事を思い出す。
どう言うワケかサエと二人で、牛島さんの熱意に当てられて牛島さんの小説を批評するだけでなく書くと言う行為に至った。
結果は泣き笑いして「何でもありません。ただ嬉しかったんです」と言ってくれたが・・・・・・正直あの時はヒヤッとした。
「てなわけで私も皆さんの事を知るために書いてみようと思います」
「どうしてそのための手段がラノベを書くことなんでしょうか?」
それはごもっともだ牛島さん。
別に小説を通じて書くことだけが相手を知る手段ではないと思うのだが。
だけど豊穣院さんは「それに私も書いてみたいですし・・・・・・」などと顔を赤らめて言う。
長い黒髪のおとしやかな大和撫子風な顔立ちでそんな表情されたら断れない。牛島さんもどうするべきか視線で手毬に助けを求めている。
とうの手毬は「好きにすればいいんじゃない」と言っていた。
「ふむ、そう言うコミュニケーションの取り方もありますか」
「おい、まさかお前まで書くつもりなのか?」
まさかの相川 タツヤ参戦。
もういっそ文芸部でも始めた方がいいかな?
などと考え始めていた――手毬ならたぶん「どっかの学園物じゃないんだから無理して立ち上げる必要なんてないわよ」と切り捨てるだろうから思考の彼方に追いやった。
それがさっきまでの話。
現在、人気の少ない自販機がある廊下で壁に背を預けて肩を並べてタツヤと一緒にスマフォをポチポチ操作する。
さっきまでコーヒーの紙パックを飲んでいた。
「ラノベと言うからにはイラストも描かないといけないんでしょうか?」
「いや、そんな事は無いぞ。正直ラノベの定義ってけっこう曖昧だしな・・・・・・それよか相川、俺はともかく部活とかは入らないのか?」
誰しもが抱えている当然の疑問を投げ掛けた。
スポーツも出来るし、体格も恵まれている。地味に重要なコミュニケーション能力もまあ独特だが相川 タツヤは優等生の教科書みたいな人物だと思っている。
「よく言われますね。ですが真剣に取り組もうと考えた事はないのです。そう言う木里さんこそ、部活に入らないのですか?」
「過去と決別する意味でもアニメ研究部に入ろうとしたけど手毬に凄い暴言吐かれて結局そのままお流れになった」
「アニメ研究部ですか――正直木里さんも運動系の部活でもやっていけると思うんですが・・・・・・」
「正直運動系の部活には碌な思い出が無くてな・・・・・・中学に入学してから絶対何かしらの暴力沙汰を起こすから公式戦どころか他校との練習試合すら出来ない状態が続いてな。荒れ放題だったよ」
「殺伐としていたんですね」
その通りだ。
最初はタバコを吸っていたとか万引きだとかでそれ原因になって部活に影響を与えてしまい、下級生の部員の制裁で上級生がリンチにしたのが始まりだ。
そこから――少なくとも俺が通っていた中学の運動部はおかしくなった。
そこから暴力は連鎖していき、俺がいた中学の運動部全てが廃部同然の同好会みたいな状態になってしまった。廃部にしなかったのは諸説あるが、スポーツで更正と言う何世代か前の学園ドラマを学校側は夢見ていたかもしれない。
スポーツ推薦なんてもう夢物語状態だ。
純粋にスポーツをやりたい奴は学校の部活には入らず、外のチームだかさっさと他の学校に転校していった。
ほんと、酷い中学時代だよ。
「まあそんなワケで現実に嫌気が差してきたんだ・・・・・・手毬がいなかったらたぶん俺、ここにいなくて不良の仲間入りして荒れた高校に入ってたかもしんねーな」
「それがオタクになったキッカケですか?」
「まあ、理由の一つかな」
理由の一つとなった手毬のピュアリア趣味は牛島さんには言ったが、ここでは何となく暈かしておく。
「で? ラノベ何を書くか決めてる? 今回は短編、掌編アリだから」
「短編は何となく分かりますが掌編とは?」
「ザックリ解説すると掌編って言うのは短編よりも短いお話の事。まあこの辺りも人によって感覚が違うからな。電○文庫の場合の大賞で短編として応募する場合は――えーと・・・・・・42文字×34行で・・・・・・1428文字。それを15~30枚で納めるのが規定範囲らしい。ちなみに長編の場合は80~130枚だそうだ」
「短編で15枚書くとして・・・・・・1400文字×15枚で・・・・・・最低でも二万一千文字書かなければいけないのですか・・・・・・」
「まあ書き慣れた連中ならどうにか納められるだろうな」
「そうなんですか?」
「ああ。そこまで書く事自体はそんなに手間じゃないしな。メモ帳で言うなら40kbぐらいかな?」
「メモ帳?」
「メモ帳は小説書きが最初に触れる基本ツールだ。大体一万文字で20kbってぐらいに容量数でどんぐらい書いたか分かるから便利なんだよ。ちなみに普通のラノベで大体本文は200kb前後だからな」
「つまり雑誌に投稿するには十万文字書かないとダメなんですか?」
一般人からすれば途方も無い文字数だろう。
だがこの業界でやっていくにはそれぐらい出来ないといけないのだ。
「ああ、その通りだ。だけどただ書くだけなら誰でも出来る。よく勘違いする奴が多いんだが、基本投稿時の小説は物語が完結した状態じゃないとダメなんだわ。ラノベとして単行本として出す際に連載向けに作り替えられて出版されるのが普通なんだ」
「そうなっているんですか・・・・・・詳しいんですね」
「うん。まあな」
ふとキョロキョロと視線を動かして手毬がいないかどうか確認する。
アイツがいたらまた何かラノベをディスリそうだからだ。
不審に思ったのかタツヤが「どうかしたんですか?」と問い掛けてくるが「何でも無い」と俺は返した。
「ああ、そうそう。大体掌編は多くて800文字だな。WEB小説とかの短編とかも実のところ大体これぐらいの文量だ。正直どれぐらいか掌編か短編かと言うのはWEB小説では曖昧だし無理して長く書かずに物語として完結させる事を優先させた方が良い。面白さは二の次だ」
「と言われましても・・・・・・どうしてもプロの作品と比較してしまいますね」
「それは創作者なら誰もが通る道だ。それで無理して頑張って書いて未完の大作となって書く気力を失って終わってしまう。書き慣れた人間でも何度も経験してしまう失敗パターンだ」
「なんか不思議と説得力ありますね」
「気のせいだ」
けっして自分が書いたあの黒歴史小説。
今ならスマ○太朗とか言われているあの小説と五十歩百歩の小説を思い出したわけじゃないぞ?
ちくしょう・・・・・・あの原文が手毬の元にあると知ったら少し死にたくなって来た。
「まあともかく、俺が言えるのはそれぐらいだ。それでも上手く行かないなら桃太郎とかシンデレラとかの昔話とか参考にしてみればいい」
「そうですか」
そう先輩風を吹かして俺は去って行く。
手毬が居たら「なに、かっこつけてんのよアンタは」とか「あんな黒歴史小説書いておいてよくそんな口叩けるわね」とか言うのだろう。
「先輩風気取るのは楽しかった?」
「いたのかよ手毬・・・・・・」
いました手毬さん。
廊下の影からじっと見張っていたらしい。
「いたのかよは無いでしょ。それにしても随分と偉そうな口を叩いてたじゃない。せっかくだし、参考がてら相川君に貴方の黒歴史小説を送信しておこうかしら」
「まじ勘弁してください」
鬼だ。
鬼がいるよ・・・・・・
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