第20話「最後の戦い」

 Side 木里 翔太郎


 俺は学校の自販機の横で安藤 リュージと連絡を取っていた。


『お前の情報通りだ。遠くから見てるが数十人いる』


「新島 ハルヤのバックにはやっぱり何かしらのグループがいるのか?」 


『ああ。ファミレスで別れた後、色々と調べたんだが新島 ハルヤはいわゆる女の売春斡旋業者みたいな事をしていたらしい。藤沢 クルミともその辺で利害が一致していたんだろう』


「屑だな――バックにいる連中は?」


『新島 ハルヤの中学時代の不良グループだ。昔はどうだったか知らないが今は携帯があるからな。学校変わったぐらいで早々繋がりは切れないさ』


「そうか」


『後、藤沢 クルミの姿も確認できた』


「一緒に行動しているのか?」


『みたいだ。女の色香を使って唆しているのかどうか知らんが・・・・・・まあ後は警察に垂れ込むなり、恨みのある同業者に連絡するなり、何なりとだな――』


 手を下す必要もなくカタが付きそうだ。

 その事にホッとする。 


『待て――あいつら急に動き始めたぞ』


「どう言う事だ?」


『分からない。心辺りあるか?』


「心辺り――」


 そしてふとこの情報を持ち込んできたあの取り巻きの事を思い出した。

 そのやり取りの中で「教師か警察に言うよ」と俺は言った。


「クソッ! 俺のミスだ!」


『どうした!?』


「たぶん俺に情報を垂れ込んで来た奴がその情報をアイツらに売ったんだ! アイツら廃工場から逃げ出すつもりだ!」


『なに!?』


 迂闊だった。

 平和ボケし過ぎていたらしい。

 ついつい温厚そうな口調に油断して余計な事を口走ってしまった。


『つっても拠点に出来る場所なんて限られてるしな――ドローンでも使って後をつければ・・・・・・』


「ど、ドローン?」


『やろうと思えば何でも出来るもんだ。仲間にそう言うのに詳しい奴がいてな。金と資材さえあれば簡単な奴ぐらいなら作れるんだわ』


「は、はあ・・・・・・」


 不良の世界も思った以上にハイテク化が進んでいるらしい。

 不良漫画はアテにはならんな。 


『つかこの方向・・・・・・アイツら何処に向かってるんだ』


「なんだ?」


『いや・・・・・・まさか・・・・・・』


「どうしたんだ急に?」


『なあ、お前が今通っている高校って歩いて行けるぐらい近所だよな?』


「まあな」


『お前さっき警察や教師にチクるって言ってたよな』


「ああ・・・・・・まさか・・・・・・」


『まずい!! そっちの学園に向かってるぞ!!』


「・・・・・・はあ、退学覚悟するか」


『俺もそっちに向かう! もうお前はカタギなんだから無茶すんなよ!』


 そう言って通話が切れる。

 俺は手毬の元へと向かった。   



 馬鹿は来る。


 ガンダ●Wで仮面のパイロットが言った言葉だ。


 その後、大部隊が待ち構えている基地にガンダ●が単機で突入してほぼ全滅に追い込むのだが今とは関係の無い話なので割愛。


 今この高校もその危機に陥っていた。

 正直一刻の猶予もない状況だ。


『これより避難訓練を行います。生徒達は体育館に集まってください――』

 

 今牛島 ミクさんが放送室に突入して架空の避難訓練の説明を始め、豊穣院さんは職員室でワケを話し、俺達二人は校門に来ていた。


 牛島さんも豊穣院さんもよく動いてくれている。

 警察にも連絡した。


 常駐している警備員では一溜まりもないだろう。


「とにかく警察が来るまで持ちこたえればいいな」


「そうね。アイツらも国家権力にケンカ売る程馬鹿じゃないだろうし――」


 だがそんな未来予想図を裏切るようにチンピラ達がバイクに乗って大挙して押し寄せてきた。

 凄い爆音だ。バイクの排気管弄くってるのだろう。

 

「正門を閉めておいて正解だったわね」


「ああ」


 だがバイクでは正門を乗り越えられない。

 だからよじ登って正門を開けようとしてくる。

 教師や警備員はどうにかしようとしていたが数の暴力を目の当たりにして及び腰になっている。


 まあこんな漫画みたいな展開に遭遇すればこうなるわな。


 手毬は木刀とスタンガンの変則的な二刀流で着実に無力化していく。


 俺の方にも来るが、昔取った杵柄で膝を鳩尾に打ち込んでからの首への肘撃ちで意識を刈り取る。

 凶器を手にする奴もいるが大振りなので攻撃の予測はし易く、カウンターで隙を突いて殴り倒す。


「規模からしてただの不良グループじゃ無いわね。なんなのこいつら?」

 

 手毬の言う通り十人どころじゃないざっと三十人近くはいる。


「そこまでは聞きそびれた。恐らく高校に入ってから勢力拡大した口だろう――この分だと警察二、三人が来た程度じゃとまらないぞ」


 不良にとって悪事はステータスだ。

 ある程度の段階になると国家権力は名を挙げるターゲットになってしまう。


「それよりも逃げなくて良かったのか?」


「今更なによ。退学は覚悟してるわ」


「そうかい・・・・・・」


 脳裏には牛島産や豊穣院さんの事が頭に過ぎる。

 彼女達は突然の事態に対しても二つ返事で頷いて自分達に出来る、思いつく限りの最良の選択肢を取ってくれた。

 

 後はもうそれに全力で答えるだけだ。


「援軍か?」


 もう一人を殴り飛ばしたところで、新たなバイクの爆音が鳴り響く。

 現れたのは――


「いや、違うわね」


「リュージが来てくれたのか?」


 リュージだった。

 配下を連れて次々と不良達を殴り倒していく。

 数的にはリュージ達が不利だがリュージのケンカの強さはよく知ってる。


「よく持ち堪えたな! ここは俺に任せろ!」


 そう言ってもう一人殴り倒した。


「ここで出来る事はもう無いわ。私達も行きましょう」


「ああ」


 そこでスマフォが鳴り響く。

 こんな時に誰がと思いつつスマフォに出た。

 画面の表示は牛島 ミクの名前が映し出されていたが――


『よぉ、ちょっと屋上まで来いよ・・・・・・』

 

 だが聞こえたのは男の声だ。


「テメェは・・・・・・」


『新島 ハルヤだよ。もう分かってるとは思うがこのスマフォの主は人質だ』


「テメェ、牛島さんをどうした?」


『さあな・・・・・・だが早く来ないとどうするか分からないぜ』


「少しでも手を出してみろ・・・・・・後は言わなくても分かるな」


 そこで電話は切れた。

 

「どうしたの?」


「牛島さんが人質に取られた。屋上まで来いだとよ」


「こいつらを囮にしたワケね」


「みたいだ。この場をリュージに任せて屋上に向かうぞ」


「ええ」


 そして俺達は屋上へと向かった。

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