第19話「終焉への兆し」

 Side 木里 翔太郎


 早瀬 ミナトとまたしても密会する事になった。

 場所は以前の密会と同じく校舎内の人気が少ない廊下だ。

 内容は停学中の二人――新島 ハルヤと藤沢 クルミだ。


「本当にすまなかった」


「頭下げるよりも頭下げない努力して欲しかったんだがな・・・・・・」


 手毬なら間違いなくそう言うだろうな。

 

「で? 二人とは連絡取ってるのか?」


「いいや。何も――」


「そうか」


 まあそんな事だろうと思った。

 と言うより今や友人である筈の早瀬より、俺の方が二人の事について詳しいと来たもんだ。


「豊穣院さんはどうしてる?」


「手毬が張ってる。アイツは素の強さもあるが、用心深さは一級品だ。下手なボディガードよりも頼りになる」


「は、はあ」


 実際間違ってないからな。


「あの二人がいなくなってから正直周りの雰囲気が変わったよ。何と言うか気が楽になった」


「だろうな・・・・・・」


 片方は早瀬を御輿に担いで甘い汁を啜り、片方はヤンデレと来たもんだ。

 それが一気にいなくなれば雰囲気もよくなるだろう。


「その様子だと、僕よりも二人の事詳しそうだね」


「まあな。お前を利用して色々とあくどい事をしていたようだぜ」


「・・・・・・」


「その様子だと何となく気付いてたみたいだな」


 中途半端な善人は時として下手な悪人より性質が悪い。

 早瀬 ミナトはそのカテゴリーに入る。

 

「一応言っておくが、二人に関わるのはもう止めとけ。アイツら不良グループに目を付けられてる。死にたくなかったら尚更な」


「え? それはどう言う・・・・・・」


「言えるのはそこまでだ。どうしても知りたいなら二人の口から聞け。後、もう二度と俺と関わるな」


 俺は早瀬を置いてけぼりにしてその場を後にした。



 教室で手毬と合流した。

 豊穣院さんと牛島さんは他の女子のグループと一緒にいる。 


「何か急に友達増えたな。豊穣院さん」


「藤沢 クルミの悪行がそんだけ酷かったってだけよ。それで仲間意識みたいなもんが出来上がったみたい。私も似たようなもんよ」


 人間って単純だなとか思った。


「で? 早瀬とはどうだった?」


「なんも。収穫無し。正真正銘、利用されてただけみたいだな。俺達利用して二人を排除しようとしたとかは考えられるが・・・・・・」


「まあ、もしそれが本当だったら多少は評価習性してやってもいいかしらね」


「お前らしいな」


 やはり普通の人間とは感覚がずれてるな、手毬。

 人の事はあんまり言えんけど。


「リュージはどう?」


「あの二人、放っておいても何かしらの制裁が下るだろうなって話だった」


「そう・・・・・・いっそ何もかもゲロって人生やり直した方がいいんじゃないかしら」


「そんな考えが出来るんならそもそも悪行なんて重ねねえよ」


「そうね」


「ところでこのまま終わると思うか?」


「愚問ね。最後に何かしらあるわよ」


「そうじゃないといいんだがな・・・・・・」


 正直二人とも八方塞がりになりつつある。

 こう言う状態に陥った時、人間が取る行動は限られている。

 あの二人はどう動くかは分からないが、来るなら正攻法では来ずに何かしらの方法で俺達に襲い掛かって来るだろう。

 

 国家権力を巻き込む方法で嵌めるとか、無関係な周囲を巻き込んで派手に散るかだな。


「あの、木里君に手毬さんですよね」


「うん? お前は――」


 唐突に男子生徒がやって来た。

 見覚えのある顔だ。


「早瀬の取り巻きよ」


「ああそうか」


 手毬がくれた顔写真のリストに載っていた顔だ。

 

「何の用だ?」


「いえ、俺も今回の騒動よく分からない部分が多くて・・・・・・突然恐い不良連中に新島の事をアレコレ聞かれたりして・・・・・・新島君もまるで別人みたいな態度で電話してきて・・・・・・正直何が何だか・・・・・・」


「苦労してるんだな・・・・・・」

  

 本当にただ早瀬と連んでただけの一般人なのだろう彼は。

 それよりも聞き捨てならない事がある。


「それよりも新島が電話して来た事と俺に何か関係があるのか?」


「ええ。正直どうしたもんかと思いまして。新島君、どうにかして手毬さんと木里君を呼び出せとか、さもないとどうなるか分かってるんだろうなとか・・・・・・普通じゃありませんよ」


 どうやら仲間以外には本性隠していたようだな。


「・・・・・・何処に呼び出せって言われたんだ?」


 色々と疑問点があるが、その事を尋ねる事にした。


「町外れの廃工場だそうですけど・・・・・・何の事か分かります?」


「まあな」


 不良の世界にある程度詳しくないと分からないだろう。

 町外れの廃工場。

 この近辺で思い当たる場所はあそこしかない。

 様々な不良連中が根城にして来た場所だ。


 新島 ハルヤのバックには何か不良グループが付いているのだろうか?


「藤沢 クルミからは何か聞いてない?」


 入れ替わりに手毬が尋ねた。

 

「藤沢さんですか? 藤沢さんとはラインどころかメールもしてませんから。自分達のグループって細かい壁とか上下関係みたいなもんがありましたからね」


「仲良しこよしのグループじゃないのね」


「どちらかと言うと、早瀬君ののグループに入ったのは単にクラスの地位を確保するためじゃなくて、身の安全を図るために仲良くして置いた方がいいって言う暗黙の了解みたいなもんがありましたからね。新島君とかそれで好き勝手していて、教師も手を焼いていたみたいですし」


 との事だ。

 やはり早瀬のグループは一枚岩とは程遠かったようだ。


「藤沢さんとかは早瀬君に気がありそうな女子に対してあからさまに態度が悪かったですけどあんな凶行に走るなんて・・・・・・余程豊穣院さんの事が気にくわなかったんですね」


「だろうな」


 学校内で凶行に走るぐらいだ。

 余程頭に来たのだろう。


「色々と教えてくれてありがとうな」


「正直嫌な予感しかしないんですけど行くんですか?」


「いや、教師か警察にでも伝えるよ」


「そ、そうですか。それじゃ。自分はこれで」


 彼は去って行った。


「本当に教師か警察に言うの?」


「いや、リュージにちょっと連絡取ってみる。今どうなってるか知りたいしな。それともうちょい新島 ハルヤについて背後関係洗ってみる」


「分かったわ」


「それにしても何時までに廃工場に行けばいいのか聞いてないしな。切羽詰まった様子みたいだったし放置しておけばあっちから何かしらのアクションを仕掛けてくるだろう」


「それもそうね」


 もうそろそろこの一連の騒動も山場だろう。

 

 とにかくリュージに連絡を取る事にした。

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