第3話「理想の将来」

 Side 木里 翔太郎



 理想の将来。

 それは誰しもが一度は思い描くこと・・・・・・だと思う。


 そう自信を持てないのは手毬 サエのせいだ。


「ねえ? 将来どうするの?」


「なんだ藪から棒に?」


 教室でラノベ読んでたら突然そんな事を聞いてきた。


「とにかく身の丈にあった大学に進学かな?」


「何となく生きて何となく就職する感じ? そんな人生プランでブラック企業が笑う今の時代生きていけると思ってんの?」


「お前本当に小学生の頃から冷めてるって言うかドライって言うか・・・・・・」


 小学生の頃から手毬 サエはこんな感じの少女だ。 

 何度も言うが本当は転生者とかじゃないのだろうか?


「んじゃあ何か? 頑張ってラノベ作家目指しますとか言えば良いのか?」


「アンタ本当にラノベ作家目指してるの? WEB小説からの書籍化デビューとか狙ってる感じ? アレってプロデビューは出来るけど、実力足らないと後が続かないわよ」


「お前オタク毛嫌いしてるクセによく知ってるな・・・・・・」


「アンタと付き合い長けりゃ自然とそう言う知識も蓄えられていくわよ。それに一般人だってアニメーターの仕事がブラック通り越してるぐらい知ってるわよ」


「ああ、そうなんだ」


 そいつは初耳だ。

 意外と知られてるのな、アニメーターの現場。

 

「日本のアニメ現場とかもそうだけど、日本ってどうして長期的な目線でのコスト管理とか出来ないのかしら。そんなんだから消費税幾らあげても国良くならないのよ」


 と、的確かつ簡潔に日本の問題点をあげる。


「・・・・・・お前将来政治家になるのか?」


「はあ? 馬鹿じゃない? 政治家になる奴なんて自殺願望があるか、余程のドMか、世間知らずか、頭がパーか、精神が狂ってるか――ロクな奴いないわよ」


「ヒデェ物の言い方だな」


 政治に明るいワケでは無いが、そこまで酷く言われる程に日本の政治は終わってるのかと内心危惧してしまう。

 手毬は言う事は毒が多分に含まれているが間違った事は言わないからだ。

 その点に関しては付き合いの長い自分が一番よく理解している。


「そうね、一番下から上まで私の言う事に従ってくれるのなら日本を建て直す事は出来るわね」


「それ独裁政治って言うんじゃねえのか」


 だけど出来そうだと感じてしまうから恐い。


「こんな事言っちゃ何だけどその独裁政治にすら劣るのが日本の政治なの。てか下手すると部分的には紛争している国にも劣るわよ。年間十万人近くが自殺で死んでる国よ? まだ戦争でもした方が死人は少なくなるんじゃないかしら」


「そ、そうなのか・・・・・・」


 年間十万人も自殺しているのか。知らなかった。


 ちなみにこの数は第二次大戦中の原爆投下とか米軍の大都市の空爆とかで一度に亡くなった犠牲者数に匹敵する数字である。

 2011年の東北の大震災で亡くなった数でも約三万人だ。

 毎年そんだけ自殺してりゃ日本は段々不景気になるわな。

 

 手毬 サエの発言は過激だがそう言いたくなる気持ちも分かるもんだ。


 だからあえて「ちゃんと選挙に行かないとな」とかは言わなかった。

 きっと鋭い毒舌が来るのだろうから。


「話戻すけど、手毬の将来は何なんだ? 皮肉ばっか言って煙蒔くのは無しな?」


「うっ・・・・・・」


 俺は前以て釘刺しながらそう質問した。

 

 そうすると彼女は極めて珍しいことに、顔を真っ赤にして俯き、目を閉じて深呼吸した。


「ど、どうした?」


「そうよね。フェアじゃないわよね」


「え?」


「こっちの話よ・・・・・・」


 少しの間を置いてこう言った。


「この腐りつつある国でも・・・・・・お、お嫁さんになって、温かい家庭を築くことよ」


 俺は少しの間を置いて。

 何故か体や顔が熱くなるのを感じて――


「いいんじゃないのか?」


 とだけ返した。

 手毬は「そ、そう」とだけ呟き、体を縮こませて「意地悪な事言って悪かったわね」とだけ言って去って行った。


 俺はあえて「誰と温かい家庭を築くのか?」深く考えないようにした。

 



 

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