第10話「世間知らずのお嬢様」
Side 木里 翔太郎
豊穣院 ミホと言う少女がいる。
長い黒髪でオットリとした大人しそうな顔立ちをしている綺麗な容姿と思慮深い大人しげな素行。
スポーツも出来て特に勉強が出来る。
正直その成績でどうしてこの学園に来たのかは未だに分からない上に、手毬 さえや牛島 ミクのグループに入っているのが謎な女の子だ。
そう言う点を除けば欠点は無いかと思えるが彼女には重大な欠点があった。
どんな人生を歩んで来たかは分からないが超世間知らずなお嬢様なのだ、豊穣院 ミホと言う女性は。
ゲームをやった事がない。
漫画も読んだことはない。
テレビもあまり見た事がない。
映画もあまり行かない。
漫画に出て来るお嬢様をそのまま再現したかのような女の子だ。
牛島さんとかは「こう言う人、本当にいるんだ」と驚いていた。
サエも「どんな人生歩めばこうなるんだか・・・・・・」と疲れ気味な表情でぼやいていた。何かあったのだろうか。
「あの調子だと、社会に出たら間違いなく想像の斜め上を行く方向で滅びるわね」
「それぐらいのレベルかよ・・・・・・」
校内の自販機の壁を背にしつつ肩を並べあって、サエは俺に豊穣院 ミホについて語っていた。
「ええ。とにかく何にでも興味を持つの。子供がそのまま成長しちゃったみたいにね。意外と虫とか平気だし、何にでも興味を持って放って置いたら行方不明になって。あの年齢で迷子になってショッピングモールの迷子の呼び出し利用したのあの子ぐらいよ」
「んな事があったのかよ・・・・・・」
と、げんなりしていた。
手毬 サエが完全に保護者か何かの表情になっている。
ここまで追い詰めるとはある意味、豊穣院さんは逸材かもしれん。
「話も基本は質問攻めね。あの容姿と性格だけならスクールカースト頂点のグループとかに入り込んでそうだけど、性格も独特でキチンと規律守るタイプだし。小銭拾ったら交番に届けるタイプよあの子」
「逆に迷惑するだろうな、交番の人」
今の時代、交番に小銭届ける人間なんているのだろうか?
想像もつかないがあの少女ならやるだろうと思った。
「俺も豊穣院さんと何度か話した事があるんだけどな」
「なに? 変な事してないわよね?」
「いや、手毬と同じく漫画とかラノベとかの事聞かれたりもするんだけど、たまーに歴史の話とかで盛り上がって?」
「歴史・・・・・・ああ、ブリテンの王とか織田信長とかジャック・ザ・リッパーとか何でも女体化しまくってるあの課金ゲーの影響?」
「ちょっと偏見が過ぎるが間違ってはないかな?」
はまってるんだよなアレ。
学生でアルバイトもしてないから流石に課金とかはしてないけど。
アルバイトしようかな?
「ゲームの影響で歴史とかに詳しくなる人って多いって聞くけど、強ち間違いじゃないわよね。私もそっち系の漫画とかゲームとか読んでニンベン師とか知ったし」
「ニンベン師とかカタギの人間はまず知らないよな」
ニンベン師とは、平たく言えば違法に書類などを偽造する人種だ。
例えば架空の身分証明書を作ったり、警察の筆跡鑑定の目を誤魔化すために対象者の筆跡を真似た書類などを作ったりする事を生業とする職業の人だ。
嘗ては知名度はそんなに高くは無いが、有名な人気ゲームで登場した事から知名度は以前よりも高い方になっている。
そのゲームによれば現代のニンベン師は画像加工ソフトを使ってアイドルのグラビア写真などを見栄え良く加工したりするのもやってるらしいが真相は定かではない。
「で、何の話題で盛り上がったの?」
「マリー・アントワネットについて」
「色々言われてるけど、最近名誉回復して来ているフランスのプリンセスね」
マリー・アントワネット。
昔はベルサイユの薔薇。
最近はとある人気ゲームシリーズのせいで再び知名度が高まっている姫様。
食糧難の市民を見て「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない」とか「革命運動が盛んになり幽閉されるまで何不自由のない暮らしをしていた」とか何かと悪評が大かったが最近は名誉回復が行われている。(日本のオタク達の界隈だけかも知れないが・・・・・・)
「それでマリー・アントワネットについて教えて貰ったの?」
「まあそんな感じかな? 逆にゲームの事についても聞かれたけど、興味を持った歴史上の偉人物とかで話が合うんだよ」
「貴方からすれば好きなゲームのキャラで盛り上がってる感じよね」
「まあな。教え方も上手いし、歴史の先生とかになればいいんじゃないのか豊穣院さん」
「ふーん。でも気を付けた方がいいわよ」
「うん?」
唐突な忠告に首を顰める。
「性格はともかく豊穣院さん見た目がアレだし大人しそうだから各方面の男子に人気があるのよ。ああ言うのが男子に受けるのかしらね? それで仲良く会話しているもんだからアンタに僻んでいる男子も多いのよ」
「はぁ~あ。中学の修羅の時代に逆戻りとかイヤだぜ」
俺は頭を抱えた。
その手の輩は正論を説いても無駄な場合が多い。
逆恨みして強硬手段とかに出て、大抵泥沼になる。
そう言う人間の醜い部分を昔から手毬と一緒に嫌と言う程見て来た。
「まあ、私の悪名があるからね。下手に手を出せば――後は分かるわね」
「はあ・・・・・・」
そうだ。
俺は中学の悪名が未だに轟いている手毬 サエとの関わりが深い。
周囲もどう思っているかは知らないが、下手に手を出せばどうなる事やら・・・・・・
「もういっそルート確定しようか?」
「なに? ラノベ系主人公そんなにイヤなの?」
「あっちこっちに見境なしにフラグ立てまくって身固めしない男は好きかい?」
「言うようになったじゃない。まあ誰とのルート確定するかは聞かないでおいてあげるわ。そう言うのは男の口から言うもんよ」
そう言い残して、手毬 サエは去って行った。
「・・・・・・何時がいいのかな。こう言うのって」
俺もそう言い残してその場を後にした。
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