第4話「木刀」

 Side 木里 翔太郎


 手毬 サエは小学校から中学校の期間は不良漫画みたいな時期だったと言って良い。

 これを上手く整理して小説として発表すれば賞取れそうだ。


 だからなのかある程度暴力沙汰が収まった高校に入っても武器を持ち歩いている。

 木刀とかそうだ。


 学校への登校中、俺はふとその話題を振った。


「これ警察に検査されたら捕まるぞ・・・・・・」


「大丈夫よ。ちゃんと法律は守ってれば捕まらないわよ」


「それでか?」


 と言って木刀が入った竹刀袋に目をやる。

 竹刀袋と言うのは剣道で使う道具の竹刀を入れる袋の事であり、それには輪っかがついていてそこに腕を通して背中に背負うようにして持ち運ぶ物だ。

 

 彼女を竹刀袋を持ち歩くのは趣味とかでは無く、色々人を殴って試したら一番手に馴染んだのがそれだと言う話しらしく、中学時代を半ばに過ぎた時にはもう既に持ち歩いていた。


 俺は手乗りタイガー2号、もしくは後継者の称号をくれてやった。

 いや、ある意味本家を超えてるかもしれないが・・・・・・


 少なくとも凶暴さと戦闘力と実績はこっちが上だ。


「私も持ち歩きたくて持ち歩いているわけじゃないんだけどね」


「お前自分で気付いているかどうか知らないけど、それ振るっている時のお前血に飢えた獣みたいだったぞ・・・・・・」


 その時の事を思い出してゾーっとなった。


「まあね。何だかんだで暴力って振るう側は楽しいみたいだし」


「おい、そこは否定してくれ! 普通こう言う時は「アンタ私の事何だと思ってるの?」とか「丁度目の前に口五月蠅いサンドバックがあるわね」ぐらいは言ってくれ! ヤバイ人だぞ!?」


「朝っぱらから大声で五月蠅いわよ。深夜のテンションでハイになってるの? それに木里ってそう言う理不尽に暴力振るう女の子が趣味なわけ? 現実とラノベごっちゃにしてない?」


「お前が言うか・・・・・・」


 少なくとも手毬に現実とラノベを混同しているとか言われたくない。

 いや、手毬の場合は現実とヤンキー漫画を混同していると言おうか・・・・・・


「それに木刀はあくまで最終手段で威嚇のためよ。誰だって木刀持ち歩いているような女の子にケンカ売る命知らずはいないでしょ?」


「理屈は分かるが冷めた表情で自分で言うのは悲しくないのかね?」


 はあ~手毬はため息を付いた。


「アンタねぇ。ギャル風なファッションして「私、男を誘ってません」とか言ってるのとレベルは同じよ?」


「例えは分かるが何でそこでギャルなんだ」


「うーん、相方の好みの把握のために色々と?」


「相方って何だ相方って。漫才コンビか何か俺達は」


「じゃあ下僕とか奴隷とか言われたいドMなのアンタ? 流石に私も引くけど?」


「ああ、うん。俺が悪かった」


 早々にこの話題を切り上げないと深味に嵌まってしまう。

 手毬 サエと付き合うコツはとにかく傷が浅いウチに素直に認める事だ。

 万が一ぷっつんして毒舌合戦になったら100%負けて、手を出したら殺される。


「それに高校に上がってから暴力沙汰もメッキリ減ったじゃ無い」


「ゼロじゃ無いって言うのが恐いところだな」


 その点に関してはこいつ何かに呪われてるんじゃ無いのかと思う時がある。

 そう例えば――


「うん? 何か騒がしいわね」


 偶々通り掛かった通学途中にあるコンビニでアラームが鳴り響いて。

 ヘルメットを被った黒い革ジャンの男がバックと包丁片手に飛び出てきて。


「どけ! ブッ刺されてえか!」


 フィクションの世界でしかお目に掛かれないコンビニ強盗が此方に向かってきて。

 ああ、恐怖を感じない。

 馴れって恐いな。


 俺はチラッと横目で見て巻き込まれないように退散した。


 顔の上半分が真っ暗になって、餌に飢えた野獣のように口元を広げて。

 そして肩に背負った木刀を竹刀袋に入れたまま素早く突き出した。 


「ヒィ!?」


 よく武術漫画とかで三倍段の法則と言う物を聞く。

 詳しくは忘れたが戦いにおいてリーチの長い獲物を持つ人間が強いと言う法則を解説した物だ。


 素手の人間が刀を持った相手に勝つには刀を持った相手の三倍の実力がなければならない。刀を持った人間が槍を持った人間に勝つには槍を持った人間の三倍ぐらいの実力がなければならないと言うものだ。

 

 その法則で行けば見掛け小学生の手毬 サエは最弱も良いところだ。

 手足の流しもそれ相応である。

 

 この時相手が飛び蹴りとか噛ませば話は違ったかもしれないが、相手はコンビニ強盗で慌てていて片手は金が入っていると思われるバッグ、もう片方の手は包丁であり、それを突き出しながら迫ってくる。


 そして手毬が持っているのは木刀。

 リーチは当然こっちが長い。


「ぐぇ!?」


 包丁が届くより先に木刀の突きが腹部に直撃――鳩尾に当たった。

 迷いの無い、殺すつもりじゃないかと思える一撃だった。

 相手の実年齢は分からないが体格だけ見れば運動系の部活とかでやっていける体格だ。それがくの字に折れ曲がって後ろにゴロゴロと転がり込んだ。


 そのまま動かなくなった。例えるなら殺虫剤蒔かれて死ぬ寸前の害虫みたいになっている。ヘルメットのガラスはゲロ塗れになっていた。


 店員さんは唖然となった。どん引きしているようにも思える。そりゃ普通の人間はこうなるわな。

 

 俺は「やっぱりこうなったか・・・・・・」と相手に同情した。

 お前は弱くない。相手が強すぎたんだ。

 臓器破裂とかになってないよな?

 

 手毬はアレだな。と●ドラと言うよりデュララ●とかの世界の住人だな。

 平和島 静●と戦ったらどっちが勝つんだろうか? ちょっと興味が沸いてくる。

 

「て、お前何やってるんだ!?」


 脳内で解説に没頭していたら何時の間にか木刀を無言で振るおうとしていた。

どうにか寸前で止める事が出来た。


「包丁持てないように両腕を潰して、逃げられないように両足を潰しててるだけよ」


「お前何でこう言う時は律儀なんだよ!? 粉砕骨折するんじゃねえのか!? てか過剰防衛で捕まるってこれ!?」

 

「それもそうね。久し振りの暴力だったからエキサイトしちゃったわ。私もまだまだね」


「お前言ってる事がバトル漫画のキャラになってるぞ」


 普通は我を忘れていましたと言うより、的確かつ無慈悲に対処しようとしていたように見えない。

 やっぱこの女は恐ろしい。

 将来のお嫁さんになるかもしれないのかと思うとマジで恐い・・・・・・あくまで可能性だが。


「まあ木里に免じてこれで許してあげる」


「あが!?」


「お前スタンガンまで持ち歩いてるのかよ!?」


「私の中学時代を忘れたわけじゃないでしょ」


 中学と言うのは人生が既に詰んでるアホなクソガキが周辺の小学校から集まる、生徒だけでなく教師にとっても大変にブラックな環境の世界だ。

 

 そんなだから手毬は平穏に過ごせるワケがなかった。

 一体何度惨劇が起きた事やら。

 

 そんな経験をしたから高校生になっても重武装なのだ、この女は。  


「スタンガンって何度当てれば良かったんだっけ?」


「ってお前何やってんの!?」


 気が付いたら何時の間にかスタンガンを取り出していて何度も何度も軽く押し当てていた。


「正当防衛」


「過剰防衛だろどう見ても! スタンガンは一回押し当てるだけで十分だろ!? 何度も何度も押し当てるもんじゃねーよ!?」


「念の為よ。実は演技してて反撃の機会を・・・・・・」


「何でお前はそう荒事になると思考がバトル漫画寄りになるんだよ!? キモオタ笑えねーぞお前!?」


「じゃあ最低でも両腕は潰した方が」


「やめんかあああああああああああ!?」


 その後、犯人は無事保護・・・・・・じゃなくて警察に捕まり、俺達は学校を休み、警察と教師にこってり絞られました。何で俺まで・・・・・・


 またニュースで流れたり新聞記事やネットに載ったりしてちょっとの間だけスター状態になりました。

 

 手毬との付き合い、考え直そうかな・・・・・・

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