第38話「終焉」
Side 木里 翔太郎
数日後。
和泉 ツカサの傍に俺はいた。
一躍時の人になった彼は学園でも色々な意味で注目を集めている。
盗作騒動は鑑 ほのかが真相やその経緯を自白する事で決着した。
レッドスターはあれだけの騒動を引き起こしたのだ。
警察の摘発で解散を逃れられない形だ。
赤城 セイトも捕まったしな。
雑誌編集部内外での暴力沙汰は警察に通報され、その流れで一斉にと言う形である。色々と余罪があって報道関係を賑わせている。
俺と手毬、そして安藤 リュージも結局警察の事情聴取を受ける事になったが、厳重注意処分で終わった。
相薗先生や中村編集者が一緒に証言してくれたのも多い。
何と言うか結局不良漫画みたいな展開になった。
それはそうと、どうして安藤 リュージがあの都合の良いタイミングで現れたかと言うと、手毬が手を回していたのもあったが、リュージも俺達の状況を探りを入れていたらしい。そして裏には渡 マトメと言う、もう懐かしく感じる情報屋の少女の姿があった。
それを聞いて俺は「成る程ね」と思った。
それはそうと今回の一件だが・・・・・・ハッピーエンドではないだろうが、あれ以上の結末はなかったと俺は思う。
さて、他の面々について語ろう。
先ずは騒動の発端となった鑑 ほのか。
鑑 ほのかは停学処分になった。
退学にならなかったのは、事情は複雑であるが、レッドスターの赤城 セイトに脅されての行動だからだ。
転校したかったらしいが親が許してくれず、反省させる意味を込めてあえて今の学園に通わせるつもりらしい。
次に和泉 ツカサ先生だが・・・・・
まず鑑 ほのかに対しては「許すつもりはない」らしい。
同時に「これ以上事を荒立てるつもりもない」だそうだ。
根が優しいのだろう。彼も色々と複雑な気持ちだろう。
また彼の作品であり、盗作された魔法少女戦記はHNを和泉 ツカサ先生の物に変えられ、出版してちゃんと正式に原稿料や賞金を渡された。
そして編集長や編集者であり、担当でもあった中村 ユウヤ氏が直々に家にやって来て謝罪し、そして和泉 ツカサ先生は正式にプロ作家の仲間入りを果たす事になった。
更に和泉先生は慰謝料変わりに条件を出した。
魔法少女戦記は一巻限りで打ち切りで重版はもうしないで欲しいと言う物だった。
そしてWEB場での無料公開と続編の執筆許可。
その変わりもう書籍化は無しの方向で――との事だ。
編集者サイドは最初は驚いたらしいが、和泉先生の意見を聞くウチに承諾してくれたようだ。
これは作家にしか分からない心理だろう。
俺もオリジナルキャラを作ってストーリーを作ったから何となく分かる。
例えどんな理由があれ、盗作されたと言う事実は変わりようがない。
自分の考えたストーリーが、キャラクターはまるで鑑 ほのかの物になってしまったような。続きを書いてもまるで二次創作を書かせてもらっているるような心境なのだろう。
そして編集者サイドは、手毬が言うにはWEB小説の書籍化ラッシュで編集者の質の低下を嘆いていたがそれでも彼達は多くの作家を見てきた事実には変わりはない。共感する部分はあったのだろう。
それに今回は第三者から見てもあまりにもエグイ事件だった。
和泉先生は下手すれば人間不信になって引き籠もりになってもおかしくなかった。
犯行動悸も正直、和泉先生は運が悪かったとしかいいようがない。
今は筆休めしつつ適度に創作活動をしているらしい。
何か俺や手毬との出会いや編集部の一件で色々と創作者としてのインスピレーションが刺激されたらしい。まあ確かに衝撃的な出来事ではあったが・・・・・・それを聞いて俺は和泉 ツカサ先生は運ではなく、本当に実力で大賞掴み取ったんんだなと思った。
色々と微妙な気持ちだが彼の人生にとってプラスに働いているので怪我の功名と思っておこう。
それと編集者の中村 ユウヤ氏はこの件の責任を取って辞職――する筈だった。
和泉先生が言うには信頼出来る腕利きの担当を見付けるのが最後の仕事にするつもりだったが、編集長に説得されて和泉先生の担当に収まったそうだ。
今回の事件解決を持ち掛けた相薗 スミカ先生は一ヶ月の謹慎処分。
更に給料減俸処分となった上に俺達に謝罪した。
何でこんなに処分になってるのかと言うと彼女なりに色々と今回の事件で思う所があったらしく、更に目の前で教え子がぶん殴られるのを恐くて止められなかったと言う責任とそれを甘んじて受け容れたのもある。
更にはここまで事態を悪化させた責任を取りたいと言う意志もあるようだ。
また俺達に事件の解決を依頼した負い目もあるそうだ。
まあ今回の一件は新人教師には正直荷が重すぎるしベテラン教師でも手が余る事態だ。一応先生に対しては思う所はあるが、全部が全部先生の責任ではないだろう。
そして俺達はと言うと――
☆
図書室のテーブル一スペース。
そこで手毬は小説を読んで貰っていた。
傍には牛島 ミク。
豊穣院 ミホ。
相川 タツヤなどが並んでいた。
手毬はとても緊張していた。
何しろ眼前にいるのは金賞取った実績のあるラノベ作家様なのだから。
「手毬さんって思った通り、よくある題材でも個性的で面白い小説書くね」
と、和泉 ツカサ先生にベタ褒めされて顔を真っ赤にしていた。
牛島さんとかは羨ましそうだ。
「しかし、どうしてですか・・・・・・その、イズミさん?」
「ははは、ツカサで良いって言ってるのに」
「はあ・・・・・・」
そう。
和泉 ツカサ先生は俺達の小説の先生になってくれていた。
他の人の作品を読むのも勉強になるからと言う理由もあるが・・・・・・
「君達二人が真剣に書いた小説、金払ってでも読んでみたいな」
と、最大級の殺し文句で言ってきた。
何と言うかあの編集部の一件以来、俺と手毬の事をメチャクチャ気に入ったのだ。
牛島さんとか豊穣院さんとかにも俺達の事を聞いてくるらしい。
「あの時二人、まるでラノベの主人公に見えたんだ。とても格好良かった」
と言う事らしい。
つまり俺達のファンになったと言う事だ。
何か「木里君の黙って殴られて断固とした態度を取るところに本当の格好良さを見たとか」、「手毬さんがまるで名探偵に見えた」とか、「二人のアクションシーンが本当に凄かった! 金を払ってでもまた見たい!」とか、「何時か君達二人をモデルにした小説を書いてみたい」とか言われてその短編まで早速作ってもうなんて反応して良いのやら。
んでまあ手毬の頼みと言う事もあって牛島さん達の小説も見て貰う事になった。
本当は書いている事は知っていたし、本音を読めば読みたかったらしいのだが異性と言う壁や、年齢を重ねる毎に増していく、出会いや仲良くなるキッカケとかそういうのが掴めなかったそうだ。
今でも本当は「金賞を取ったラノベ作家」と言う色眼鏡で見られるんじゃないかと言う意見もあるが、手毬のお得意の毒舌説教を聞いているウチにそんな気持ち吹き飛んだらしい。
何でも手毬の奴、「どうせ金賞取ったラノベ作家とか言う色眼鏡で見られるのが不安で仕方ないんでしょう」とか「ミクもそう思われたくないんだったら尚更小説の腕を磨いて見せ付けてやりなさい」とか「プロになるだけが作家のゴールじゃないんだから。ここからが作家としての本番よ」とか、とにかく色々と言ったらしい。
そして和泉 ツカサ先生は笑いを堪えキレず爆笑するぐらいに大受けして益々気に入られて手毬が珍しい事に引いた程だったそうだ。
どうやら和泉先生は実は相当な変人らしい。
とまあそんなワケで今に至るのだ。
「折角だし、木里が昔書いた中二病小説でも・・・・・・」
「お前唐突になにエグイ事しようとしやがるんだ!!」
俺は必死に止めに入った。和泉先生は「見ていて飽きないね君達」などと言っている。
まあ何はともかく、何時も通りの日常に戻れてなによりだ。
今回の一連の騒動で語るべき事は以上だろう。
あっても今回の事件で安藤リュージの所属するグループがまたシマを拡大出来たとか、渡 マトメが相変わらず情報屋やっているぐらいだ。
結局、俺も手毬もどうしてここまで深くこの事件に関わろうとしたのだろう?
勿論、自分達に飛び火するのを防ぐためと言う自分勝手の理由もあった。
だがなんだかんだで正義感とか貧乏くじ精神とかに突き動かされたのもあったのかもしれない。
それを考えると人間の心ってのは本当に言葉で言い洗わせられないぐらい複雑だと思う。
まあとにもかくも、今回の事件や真相、その後はこれで以上だ。
また何か事件が起きるかもしれないがその時はその時だ。
こうして俺達は何時もの日常に戻る。
END
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