第37話「騒動の果てに」
Side 木里 翔太郎
赤城 セイトは大人二人に取り押さえられた。
セイトは必死に藻掻く中、鑑 ほのかに真相を告白した。
「和泉君に近付いたのは――彼しかいなかった――あ、誤解しないでね? 頼れる人がいないとかじゃなくて、接する事が出来る人が貴方しかいなかっただけよ?」
「それはどう言う」
和泉先生の言う事ももっともだ。
ほのかは付け加えるようにして説明した。
「最初は分からなかったんだけど、今なら分かるの。私男子も女子とかじゃなくて、心の奥底では人間が恐くなってて・・・・・・本当は早瀬 ミナトに近付こうかと思ったんだけど・・・・・・無理だった」
ここで早瀬 ミナトの名前が出て来て少し驚いた。
前の大騒動の時に原因の一因を担っていた男子生徒だ。
ほのかは「まあその判断は結果的に正しかったみたいだけどね」と付け加えた。
実際ヤンデレ女やら不良グループと繋がっているチャラ男とかいたしな。
運が良かったのだろう。
話を戻そう。
どうやら鑑 ほのかはその生い立ちから段々と疑心暗鬼と言うか軽い対人恐怖症の様な物を煩っていたようだ。自己申告だし本当かどうかは分からないが、人間その物に対して軽い恐怖を感じていたようだ。
「僕に近付いたのは・・・・・・」
「そう。この男、しつこくてしつこくて・・・・・・本当はもっと骨のありそうな男にした方が良かったと思うけどね」
「・・・・・・」
何とも言い難そうな表情をする和泉先生。
自分と違って同情の心が湧いて出てるのだろう。
「信じてくれないと思うけど、小説面白いと思ったのは本当。だけどそいつは――赤城 セイトは本当は原稿を燃やすつもりだったの」
「え、だってさっきは――」
「そう。確かに最終的にはそう言う判断をくだしたのは確か。私が金になるかもしれないって囁いてそう言う話に持っていったの――後はもう知っての通り。それが真相よ」
それで話が終わる筈だった。
だが手毬は待ったをかけた。
「だけど最後に疑問点があるわね」
「疑問?」
「貴方はどうして自分の名前を使って投稿したのか・・・・・・よ」
「それは金目当てに・・・・・・」
手毬は首を横に振った。
「それこそ分からないわよ。貴方だって大賞受賞するかどうか分からないのに、金を貰えるかどうか分からないのにどうして態々こんな事を? 推測は幾らでも出来るけどね」
「・・・・・・手毬さん。貴方もけっこうエグイ性格してるわよね」
「よく言われるわ」
鑑 ほのかは涙を浮かべながら微笑んだ。
「まさか・・・・・・いや、そんな・・・・・・」
和泉先生は何となくだが分かりつつある様子らしい。
「まさかとは思うけど僕を庇うために?」
そして鑑 ほのかはクスッと笑みを浮かべる。
「動悸はね、正直私でも分からないの。ただの気紛れか、もうセイトの言い成り道理に物事が進むのがウンザリしていたのか・・・・・・」
「この辺りは女の勘としか言い様がないわね」
ほのかの説明に手毬が補足する。
「経緯や動悸はどうあれ、お前を守るためだったんだよ」
そして俺が和泉先生に伝えた。
「僕を守るために・・・・・・」
本当に複雑な心中だろうなと思った。
「そう。だけど大賞を受賞するなんて思いもしなかったけどね。後の経緯は知っての通りよ・・・・・・セイトの奴があんな事をしたのも想像通り。こいつ金に目が眩んだのよ」
「そうなのか・・・・・・」
「言っておくけど、私も金に目が眩んだ口だからね? 私の我が儘何でも聞いてくれた親だけど、段々と教育方針に危機感を覚えたらしくてそれで小遣い減らされてきてたのもあったし・・・・・・やっぱり無理して今の学校行った辺りから何か薄々と感づいていたみたい。それと最後はやっぱり親に叱られて人生が破滅するのがイヤだったのもあるからね。まあ今となってはもうどうにでもなれって感じだけど」
「こう言う雰囲気でこんな事言うけど、とんでもないビッチね」
「うん、そうね」
手毬の一言に鑑は笑顔で肯定した。
だが俺は――最後の台詞だけは何だか少しだけ嘘くさく感じた。
しかしあえてそれを追求しようとは思わなかった。
何故だかそうした方がいいように思えたからだ。
「セイト。私疑問に思ったんだけど、貴方はどうして私の事を好きになったの?」
さっきから取り押さえられて大人しいセイトに鑑 ほのかは呼びかける。
「・・・・・・容姿がいいし金がある。それに見掛け以上に度胸もある。俺の周りに群がるのはどいつもこいつも馬鹿女ばっかりだった」
「度胸なんてないよ。ただ自分の身が可愛いだけ。それに馬鹿女が群がるのは暴力頼みの生き方してるからだよ」
「・・・・・・ふん。こう言う時に限って本性出しやがって」
「そうでもないと出せなかったよ。どの道私達の関係は長続きしなかったし、させるべきじゃなかった。他人を不幸にしてまで得られる幸せなんてね」
「お前がそんな事言える権利あるのか?」
「そうだね・・・・・・」
と、ほのかは自嘲気味に肯定する。
「おら、いい加減に退けやがれ!!」
大人二人を突き飛ばして立ち上がる。
ヤレヤレと言った感じで赤城 セイトは体の彼方此方を気怠げそうに動かす。
「キレすぎて逆に頭が冷えたぜ・・・・・・どいつもこいつも気にいらねえ・・・・・・ほのか、俺はテメェを諦めるつもりはねえぜ」
「どう言う・・・・・・」
ほのかは何が何だか分からない様子だった。
「そう言えば外が騒がしいな・・・・・・」
ふと、編集者の中村 ユウヤ氏が痛そうに立ち上がりながら周囲を見渡す。
すると、ぞろぞろと赤いカラーの星のバッジ・・・・・・レッドスターの人間が入ってきた。一人や二人ではなく、十人近い人間が入ってくる。手には凶器を持っていて中には真新しい血をこびり付かせている奴までいた。
セイトは「遅かったじゃねえか」と、そう言ってスマフォを取り出した。
恐らくだが会議室の会話の内容をスマフォを通話状態にして聞いていたのだろう。
突入したのは会話に含まれる何かしらの言葉がトリガーか、彼達の独自の判断かは定かではない。
「貴方正気なの? こんな事すればタダでは済まないわよ?」
手毬は冷静な様子でファイティングポーズを取る。
俺もファイティングポーズをとって赤城 セイトをやる。
一人で乗り込んでくるとは思わなかったが、正直ここまでやるとは思ってなかった。
想像以上のイカレ野郎だ。
この状況だと警備員が駆け付けてくる事なんてないだろう。
警察が来ても一人や二人じゃ手に負えない。
「ハッ、ポリ恐くてカラーギャングやってられるか。おら、ほのか。帰るぞ」
「いや。断る。もう貴方の女を辞めさせて貰うわ。金だって払わない。私は貴方のお飾りでもATMでも肉便器でもないの」
「お前まさかその二人がお前を守ってくれるとは思ってないだろうな?」
「思ってない。それにアンタは気に入らなければ容赦無く女にだって拳を振り下ろす奴だって事も知ってる」
「そこまで分かってるのにか?」
「ええ・・・・・・」
「じゃあ決まりだ。そうだな。ほのかには手を出すな。テメェらは他の連中をいたぶれ!」
その想像を超える内容にほのかは唖然となった。
俺も、そして手毬でさえも一瞬目を丸くする程である。
「ちょっと! 他の人は関係ないでしょ!」
「そうだな! 関係ないが、その態度を見る限り効果はあるみたいだな。特に和泉の奴は二度と小説が書けないように腕を――」
俺は赤城 セイトの顔に一発打ち込んでいた。
赤城 セイトの巨体が揺らいだ。
「リーダー!?」
「大丈夫ですか!?」
慌てて部下達が駆け寄る。
「テメェ・・・・・・一瞬意識飛びかけたぞ・・・・・・こんな良いパンチ打てるのにどうしてさっきは何もしなかった?」
「平和的に解決したかったんだ。ただそれだけだった。だがアンタが暴力で俺や、手毬や無関係な人間までも巻き込むんだって言うんなら戦うしかないだろう」
「へっ、良いツラ構えになって来たじゃねえか。今お前底冷えする様な冷たい瞳になってるぜ」
「言ってろ」
鑑 ほのかは悪女だ。
だがその悪女ですら御しきれない男がこの赤城 セイトなのだろう。
「おら、ボサッとしてないでやれ!! こいつは俺がやる!!」
「おい、このケンカは流石にマズイんじゃねーか」
聞き慣れた声と一緒に扉の前にいたレッドスターの構成員が蹴り飛ばされた。
「リュージ!!」
「よお、翔太郎に手毬――相変わらず厄介事に首突っ込む性分だな」
と、気軽に挨拶するような感じで安藤 リュージが呼びかけてきた。
「赤城・・・・・・お前の他の面子も俺の仲間に潰されつつある。後はテメェらを潰せばしまいだ」
「テメェ・・・・・・安藤!? この場で戦争したいのか!?」
「勘違いするな。俺はな、本当に敵に回したくない奴を敵にしたくないだけだ。それに今テメェら潰すのが絶好のチャンスだと思ってな・・・・・・赤城、お前はもっと賢い男だと思ってたんだがなぁ」
「どいつもこいつも馬鹿にしやがって!! 気にいらねえ!! ぶっ殺してやる!!」
「そう言うところが馬鹿なんだよ・・・・・・」
今の赤城 セイトはまるでバーサーカーだ。
拳を振り下ろして机を叩き折り、怒鳴り散らし、目も血走っている。
そして安藤 リュージに襲い掛かった。
「テメェ達は他の奴を片付けろ!!」
「コイツは俺が抑える! 手毬と翔太郎は他の連中を片付けろ!」
そして赤城 セイトと安藤 リュージのノーガードの殴り合いに発展した。
バトル漫画でしか聞こえないような音が響くが気のせいだろう。
俺は言われた通り会議室に入り込んだレッドスターの面々と相対する。
全員武器持ちだ。
スタンガン。
鉄パイプ。
金属バット。
アイスピック。
改造しているだろう電動ガンかガスガン。
スプレーの噴出口にテープでライターを巻き付けた簡易火炎放射器。
ぶっちゃけ手を出されなくても正当防衛が成立する凶悪装備見本市だ。
手毬は次々とローキックで相手の足に打撃を与えて、体勢を崩したところを右ストレートで顔面を撃ち抜く。
手毬はとても小柄な少女なため、どうしてもこう言う小柄を活かして相手の懐に飛び込んで撃破する戦法になりがちだ。
まあ手毬は武器を持って攻撃するよりも生身の方が痛いんだけどな。
一応手加減していると思うが本気で蹴ったり殴ったりしたら相手の骨を粉砕、もしくは叩き折る破壊力がある。
実際中学時代もそうだったし。
歩く人間凶器だな。
それ程のパワーなので漫画みたいに壁へと叩き付けられていく。
軽くホラーだ。
暴力慣れしている筈のレッドスターの面々も「ヒィ!?」と女みたいな悲鳴を挙げている。
俺も手毬程じゃないが、次々と一発で沈めていく。
右ストレート。
鳩尾。
頭を掴んでの腹部への膝蹴り。
何か骨が折れるような音がしたが気のせいだろう。別に折れてても相手は武器持ちで無関係な人間を襲おうとしたのだ。同情する余地はないだろう。
そうこうしているウチにあっと言う間に殴り倒した。
「ちっ、使えない連中だ!!」
「相手が悪すぎたな・・・・・・」
セイトは舌打ちするがリュージは同情する様な視線を倒れ伏したレッドスターの面々に向けていた。
「降参しろ。赤城 セイト。レッドスターはもう終わりだ。警察も馬鹿じゃない。例え俺達を倒しても――」
「ウルセェ!! こうなったらお前達も道連れだ!!」
「結局こうなるのか!!」
怒りの矛先を俺の方に向けてきた。
リュージとの戦いでかなりダメージを受けているのか顔や体の彼方此方がボロボロになっている。
それでも信じられないタフネスだ。
俺は身構える。
「一気に決めるわよ、木里」
「ああ、手毬」
傍に手毬が駆け寄ってくる。
軽くそんなやり取りをして手毬は素早く相手に潜り込むようにして近付き、黄金のローキック。
俺は左のジャブを胴体に打ち込む。
「グハァ!?」
唾液を撒き散らし、体をくの字に折り曲げてどうにか堪える。
俺は赤城 セイトの巨体の頭部を掴んで膝蹴りを腹部に打ち込み、手毬は俺の体をよじ登り、それに合わせるように俺も体を低くする。
平らの台になった俺の背中を踏み台にして手毬は勢いよく跳躍した。
「これで終わりね」
見事な跳び蹴りが相手の顎に入った。
天井に届きそうな勢いの信じられない跳躍力だ。
赤城 セイトの巨体が宙を舞う。
ドスンと言う音とともに、赤城 セイトはKOされた。
まるで殺虫剤を吹き掛けられた害虫のようにピクピクと痙攣している。
「ナイスコンビネーション。お前達本当に敵に回したくねえわ・・・・・・んじゃあな」
「ああ。ヘマすんなよ」
安藤 リュージは顔を真っ青にしてその場を立ち去った。
外の喧噪も静まり、シーンと静寂が包み込んだ。
「あ、貴方達一体何なの!? 噂に聞いてたけどそんなにケンカ強かったわけ!? まるでアクション映画みたいだったけど・・・・・・いいや、そんな事を言いたいんじゃなくて・・・・・・」
代表するかの様に鑑 ほのかが内心の溢れ出す気持ちを吐き出そうとしているが上手く言葉に出来ないでいた。
そして相薗先生や中村編集者も同じような心中だろう。
一人和泉 ツカサ先生はと言うと・・・・・・
「すげぇ・・・・・・本当にすげぇ・・・・・・!! こんなの現実に実在したんだ!! ああもう、不謹慎だけどちゃんと撮影しとけばよかった!!」
などと興奮気味な表情で何か作家らしい事を語っていた。
その後警察が駆け付けて来て事態は収拾されていく。
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