第36話「真相」


 Side 木里 翔太郎


 鑑 ほのかには正直謎は多い。


 何故ラノベの盗作騒動を引き起こしたのか?


 鑑 ほのかと言う女性を知れば知る程、その一点がどうしても謎になるのだ。


 だが答えは出た。


 まだ推測の域は出ないが――その答えを知るために、和泉 ツカサ、鑑 ほのか、そして編集者の中村 ユウヤと俺と手毬――レッドスターのリーダーである赤城 セイト、そして俺の暮らすの担任の先生の相薗 スミカが会議室に集まった。


 相薗 スミカからは学校で行うように――と言うお願いをされたが手毬が一蹴した。

 

 だが最初から既にもう刑事事件に発展しているのだ。


 昔はどうだったか知らないが下手に学校側が隠匿すれば余計に騒ぎが大きくなるだけだ。


 会議室内は沈黙どころか一触即発しそうな雰囲気が漂っている。


 特に赤城 セイトは和泉 ツカサを睨んでいた。

 ポケットに手をつっこんで足をテーブルの上に乗せていてとても行儀が悪い。

 そんなセイトを手毬と俺とで牽制しているような状況だ。


 鑑 ほのかは無理して愛想笑いしているような感じだ。


「正直今回の一件だけど、渡したから提案があるの」


「提案だと?」


 手毬の提案に何故か赤城 セイトが睨んでいた。


「そうよ。こう言う時は続きを書かせればいいの。挙げた作品をWEB上に名無しでUPして投票して貰えばいいのよ」


「そんな事する必要があるのか? 認めてるんだからよ?」


「貴方が態々自宅までいって脅迫してね。その事WEB上でバラしてもいいのよ」


「テメエ、ケンカ売ってるのか?」


「別にいいけど、その場合は不良の戯れ言が社会で何処まで通用するか身を持って味わう事になるわよ」


「ちっ・・・・・・」


 その事は分かっているのかワザとらしく舌打ちする。

 今度は編集者の中村 ユウヤが立ち上がった。


「正直君達二人には――今の段階ではこう言うしかないと思うけど、この事件で大勢の人間が迷惑を被っている。この僕もそうだ。もしかしなくてもたぶんこれが編集者として最後の仕事になる。だからこそ真相をハッキリとさせたいんだ」


 と静かな口調で、そして覚悟を決めた真剣な眼差しで皆を見渡した。

 彼の言葉は無関係である筈の俺の胸の中に重く突き刺さった。

 

 そして暫くの沈黙の後――手毬が口を開いた。

 

「私はこの事件にある推測を立てた。鑑 ほのか・・・・・・貴方の事は出来うる限り調べさせて貰ったわ。赤城 セイト、アンタの事もね」


「わ、私の事?」


「テメェ勝手に個人のプライバシー侵害して、それ犯罪じゃねえのか?」


 ほのかと違い、セイトは喧嘩腰だった。


「人様の家に脅迫しにいくような奴が都合良くプライバシー語ってんじゃないわよ」


「あぁ?」


「そもそもどうして貴方まで来てるのよ?」


「どうせ俺のほのかに濡れ衣全部おっ被せて犯罪者扱いにしようって言う腹だろう?」


「この会話の内容は全部録音してるからそのつもりで。後でネットで挙げてもいいわよ」


「テメェ・・・・・・」


 苛ついた表情をしながらこめかみをピクピクさせている。

 和泉先生はビクビクしていた。


「さて、あくまでこれは推測よ。ある程度の意義や申し立ては認めるわ――」


 そうして手毬は事件を語り始めた。


「まず和泉さんの主張によれば貴方が魔法少女戦記の原稿を受け取ってそれを勝手に大賞に応募したと言うけど――これは第三者的な視線でみれば正直証拠はないわね」


「え?」


 これには和泉 ツカサ先生が驚いた。


「何しろ設定とかプロットとかそう言うファイルがPCにあったとしても決定的な証拠にはならない。もしも盗作すれば容易に作れるから。それは鑑さん、貴方にも言える事よ」


「た、確かに・・・・・・」


 何故か和泉先生が納得していた。


「犯行動機にしてもそう。どう言う目的かは分からない。そもそもこんな事態になったのは本当に運が悪かっただけとしか言い様がないわ」


「結局お前は何を言いたいんだよ?」


「本番はこれからよ赤城君」


 苛ついた赤城をピシャリと言い止めた。


「だけど鑑 ほのか、貴方は大賞確定後に、そしてこの騒動が起きた暴力沙汰でどんどん不審な行動を始めた。貴方が疑われる理由は突き詰めるとそこよ」


「そ、それは・・・・・・」


 鑑 ほのかは何か言おうとしたが上手く言葉に出せないでいた。


「これも決定的な証拠にはならない。私の友達に変わりに続きを書かせようとした時に言った言葉もある意味では筋が通ってるけど疑われる理由は分かってるわよね?」


「う・・・・・・」


「そして赤城 セイト、貴方のお願いもそう」


「あん? 俺も悪いってのか?」


「あの人数で家に押し掛けてお願いするのって客観的に見れば脅迫にしかみえないわよ。だけどこれも証拠にはならない。」


「だったら」


「だから最終的にはいっそ、正々堂々と続きを書かせてインターネット上で発表する」


「で、でも私ちゃんと続きを書いて――それに例え私が負けたとしても本当にどうかは分からないじゃない!?」


 物凄い理論をぶちまけた。

 確かに言ってる事は分かるが、あまりの内容に誰もが仰天する。

 俺もビックリして目を丸くした。

 

 だが手毬はふぅと息を吐いた。


「どうしてもイヤだっていうの?」


「私悪くないもん! だって私は――」


「仕方ないわね――これで済めばよかったんだけど」


 俺もそう思う。

 手毬は本当に話したかった推測を話すつもりだ。

 それを話した場合、必ず赤城 セイト、そしてレッドスターとケンカ沙汰になるだろうからだ。


 手毬は「じゃあ終わらせるしかないわね・・・・・・」と呟いて推理を語り始めた。


「私の推理はこうよ。鑑 ほのか――貴方は確かに盗作したけど、それは貴方の指示ではなく、赤城 セイト。貴方の指示じゃなかったの?」


 赤城 セイトは一瞬表情を変えるがスグに元に戻す。

 

「・・・・・・証拠はあるのか?」


「部下にするなら口の堅い部下を持つべきだったわね」


「ちっ・・・・・・」


 とセイトは舌打ちをする。


「それはどう言う事だ?」


 和泉先生は当然の疑問を浮かべる。


「赤城 セイトは昔からこう言う奴だったって事よ。不良に共通する事だけど、気にいらなければとにかく暴力に走る。病院送りにしてもドが過ぎなければ大してお咎め無しで放置されるからタチが悪いのよ。この対応の手温さが凄惨なイジメの温床となっているのよ――こいつ、ほのかにホの字だったの」


「テメェ・・・・・・」


 恨みが篭もった低いうなり声と一緒にキッと手毬を睨み付ける。


「調べるのは楽だったわ。ほのかと仲が良さそうな男に陰から暴力奮って来たのよね――」


「俺の女に色目使う奴がウザかっただけだ。文句あるか?」


 そう、開き直り始めた。


「私も人様に説教できる立場じゃないからあんまりどうこう言うつもりはないけど、ある問題が発生した」


「問題?」


 ここで編集者の中村 ユウヤが疑問を挟む。


「そう。別々の学校に別れてしまったのよ。学力だけはどうにもならなかったのよね。それに鑑 ほのかの両親は娘を甘えさせてる節があるけど、今の赤城が通うような高校に通わせる程馬鹿じゃ無いわ。虚ろ反対されるからね。正直私達が通う高校ですらギリギリのラインだったんじゃないかしら?」


 赤城の怒りのボルテージが更に上がっている。机をドンと叩いた。

 鑑さんは「どうしてそれを・・・・・・」と言う感じだった。

 手毬の推理は当たっていたようだ。


「だけど逆に言えば鑑さんとしても都合が良かったんじゃないかしら? 何時までもそんなお付き合い出来るわけないもの。マトモな神経している女なら普通は御免こうむるわ」


「おいどうなんだほのか!?」


 赤城 セイトは怒鳴り散らす。

 ほのかは「そ、それは・・・・・・」と口を濁していた。


「大体今は盗作騒動をハッキリさせる場だろうが!? どうして俺達のアレコレの話になってんだ!?」


「そりゃアンタがしゃしゃり出て来るからでしょう。鑑 ほのかは同時に大切なヒモだもんね。それにアンタ彼女いるとか自慢してたけど、女結構はべらかしているらしいじゃない。どれが貴方の彼女なの?」


 その言葉にほのかは沈痛そうな表情で黙り込み、赤城 セイトは怒りを各層ともせず、「テメェ何処まで俺達の事知ってやがるんだ・・・・・・」と手毬をにらみつける。


「さあね。まあそう言うワケで鑑 ほのかは大切な資金源でもあったのよ。だけど鑑さん、貴方もそんな関係に嫌気を差していた。だから他の男を求めた――」


「・・・・・・もういい」


 涙目になりながら鑑 ほのかはポツリと呟いた。


「全部話す・・・・・・どうせ私は容姿と金に恵まれてるだけの女よ」


 そう前置きして彼女は語り始めた。


「私は――元々ね、金があるだけの普通の女の子だった。そのつもりだった。だけど何時の間にか女子のクラスカーストとか、そう言うメンドくさいのに巻き込まれて行った。だから私女子に嫌われても何とも思わなかった。虚ろ蹴落とし、蹴落とされるが当たり前だと思った・・・・・・だから私は男子にチヤホヤされる方が良かった。だけどそれも虚しいだけだった。勘違いする馬鹿まで出始める始末よ・・・・・・そこに都合良く現れたのが――貴方なの」


 それを聞いて赤城 セイトは無言だった。


「その様子だとある程度理解していたみたいだね。勉強できないのにそう言う所は賢いんだから・・・・・・貴方と言う後ろ盾を得て私は快適を得たと同時に――より虚しくなって来た」

 

 そして窓を見詰める。


「どんなに悪さをしても、我が儘を言っても親は許してくれる。条件付きだけどね」


 その条件を言い当てたのは手毬だった。


「大方、「将来医者になれ」とか「病院の後を継いで欲しい」とか言われてるんでしょう」


 鑑は「手毬さん大正解よ」と言って話を続ける。


「だから我が儘が許されたり、ありえないぐらいの小遣いを貰ったりしているの――高校を変える時も大変だったわ。まあ想像通りに落ちて自分の頑張りは何だろうと肩透かしになったけどね」


「それはテメェが・・・・・・」


「あの中学に転校したのもイジメが苦で転校したのよ!? 今の高校選んだのもあの両親ですら反対だったのよ!? クラスの担任からも「もっと良い高校選べる筈なのになんでっ?」て言われたぐらいなのよ!? 貴方は何? 貴方は確かに私の都合通りに動いてくれたわ! 上手く行かなかったらネチネチ文句言って・・・・・・アンタのやってる事完全にストーカーと変わらないわよ!!」


「テメェ都合良く被害者面しやがって何様だゴラぁ!!」


「いた!!」


 そう言って赤城 セイトはほのかを殴り飛ばした。 

 突然の事に驚いて俺と手毬以外は反応出来なかった。

 俺もよく持った方だろうと思う。

 手毬も似たり寄ったりな考えだろう。


「なんだ? 邪魔するのか?」


「正直この女を守るギリもないが、これ以上邪魔するのなら先に帰ってな。それにここは学校じゃないんだし、録音もされている。鑑 ほのかさんが告発すれば立派な刑事事件になる。そうなれば都合が益々悪くなるんじゃないか?」


「テメェ・・・・・・」


 後ろで殴られながらもほのかが立ち上がる。

 そしてこう言った。


「木里・・・・・・そいつはこう言う奴なのよ。気に入らない奴は全員こうやって、腕っ節で黙らせる事しか知らない。レッドスターなんて組織作ったのも気に入らない事を正当化するためでしかないのよ」


「ほのか、テメェは黙ってろ!! 大体お前が人様に説教できる立場なのか!?」


 その物言いに赤城 セイトは激昂する。

 しかしほのかは怯まなかった。


「最初は私を庇ってたのに自分の言う事を聞かなくなったぐらいでそんな事を言うのね! そんなに自分の都合のいい女が欲しければ他の女に乗り換えればいいじゃない!」


「調子にのりやがって!」


 そして再び殴り掛かろうとする。

 しかし木里が体を張って受け止めた。


「何でその女を庇うんだよテメェは!?」


「これ以上話を拗れさせたくないだけだ。平和的に物事を解決したいだけなんだよこっちは。だからもうこれ以上は――」


「ウルセェ!!」


 そしてもう一発、二発と拳を木里に打ち込んでいく。

 騒然となる。

 しかし木里は怯まないし、やり返しもしない。


「なんでやり返さないんだ!?」


「言っただろ。平和的解決したいだけなんだよ。これ以上話をややこしくしたくないだけなんだよこっちは・・・・・・既にもう正当防衛が成立してお前を気兼ねなくぶちのめせるんだけどな・・・・・・俺は既に敗北している奴を痛め付ける趣味はねえ」


「俺が敗北だと!?」


「これは手毬の台詞だけどな、法治国家で、日本で生きるって事はな・・・・・・暴力で解決する事じゃないんだ。暴力は正真正銘の最終手段にするべきなんだよ」


「そんな理屈俺達の世界で通用するか!」


 思い切り振りかぶって顔面にパンチを叩き付けようとするが、それを相薗 スミカと西村 ユウヤに抑え込められる。


「すまない、突然の事で出遅れた!」


「私もすまない。手毬さんの言う通り私は教師失格なのだろうが、せめてもの義理は果たす!」


 そう言いながら赤城 セイトの恵まれた長身の肉体を押さえつけていた。 

 野暮な事は言いっこ無しだ。

 二人に感謝する。


「さてと邪魔者は消えたわね・・・・・・木里? 大丈夫?」

 

 手毬が珍しく心配そうに、そして可愛らしい表情で見詰めてくる。

 俺は「これぐらい大丈夫だ」と言ったが納得しておらず「嘘つき・・・・・・」と返された。


「どうして私を庇ったの?」

  

 鑑 ほのかがそう言ってくる。

 何か信じられない物でも見たような顔をしていた。

 後ろには和泉先生もいた。

 彼も咄嗟に暴力沙汰で動いた口だろう。


「さっきも言っただろう。俺達はただ平和的に解決したかっただけだって。だけど誰もが幸せになれるハッピーエンドなんて言う高望みはしてはいない。それは君自身が一番よく分かってるんじゃないか?」


 俺の偉そうな語りにほのかは「そうね・・・・・・」と返した。


「真実を明かすわ・・・・・・」


 そして彼女は今迄のキャラクターが嘘のようにポツポツと自らの口で真相を語り始めた。

 

 

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