シーズン3

第39話「昔語り」

 Side 木里 翔太郎


 高校帰りの途中の夕方。

 俺は何時ものファミレスで安藤 リュージと駄弁っていた。

 安藤 リュージも俺も珍しい事に暇をしていたのか今回は男二人でテーブルについている。


「しかしお前らカタギになるんじゃなかったのか?」


「言うな。手毬の奴だって気にしてるんだ」


 唐突にリュージがもっともな事を言ってくる。

 

 中学時代は本当にロクな事が無かった。

 世間的には毎年死人出る程の悪名高い学校で「控えめに言って呪われている」とまで言われていた。

 俺達は「悪魔の子供達」とか「悪魔の世代」何て言う二つ名まで付けられてしまう程だ。

 きっと近隣の高校では中学その物がブラックリストに入っているだろう事は想像するに難くない。逆の立場なら自分でもそうする。


 もうそんな時代には戻りたくない。


 普通の高校生をやろう。


 そう思ったて高校生活を過ごしていたのだがまだ一学年の三分の一も経ってないにも関わらず、学校や編集部で大乱闘を繰り広げてしまった。

 他にも細かい事件を考えれば「未だに停学どころか退学になってない」のが奇跡のようだ。


 俺はそこまで思って深くため息をついた。


「まあだけどアレだ。まだ死人が出てないだけまだマシだな」


「普通の学校生活でまず死人はでねーんだよ・・・・・・リュージ」


 精々一人ぐらいだろう。

 死因も自殺か事故死とか、ドラマティックなので病死とかぐらいだ。

 

 早瀬 ミナトの一件で危うく死人が出かけたが・・・・・・アレも大騒ぎだった。

 そしてレッドスター、赤城 セイトとの編集部での大乱闘。


 両方の事件でよく死人が出なかった物だと思った。

 まさに奇跡だ。


 リュージは俺に指摘されて「ああ、普通はそうだな・・・・・・俺も感覚狂ってやがる」と頭を抱えていた。


「どれもこれもロクな事件じゃなかったな。一クラスで複数人死人が出た事件とかもあれば、教師も殺害された事件もあったし・・・・・・それが毎年のように起きるんだもんな」


「ああそうだ。正直よく俺達、生きてあの中学卒業できたな」


「何度も言うけどお前と手毬がどうして少年院送りにならなかったのか今でも不思議だよ」


「俺が聞きてーよ」


 本当にこの辺りは謎だ。

 今思えばいっそ少年院に入った方が平和に過ごせたかもしれない。

 それぐらい中学時代は酷かった。

 

「卒業式も案の定騒ぎ起きたし――雨の中、屋上で何お前殴り合ってるんだ?」


「仕方ないだろ。爆弾仕掛けられて死人が出るかもしれなかったんだぞ?」

 

「そもそも中学生が爆弾テロやる時点でおかしいけどな」


「ああ・・・・・・まあな・・・・・・」


 忘れられる筈もない。

 犯人は中学の様々な猟奇的事件に関わったせいで復讐鬼に変わった男子生徒だ。

 そいつと雨の中、屋上で殴り合った。

 近くにも爆弾があったが構わず戦った。


 俺は今を生きる人を守るために。


 片方は愛する人の無念を晴らすために。


 後味が悪すぎる最悪の事件だった。

 爆弾で死人は出なかったが家庭科室と理科室の分は起爆して大騒ぎになった。

 今あの中学はどうなっているのか・・・・・・正直もう関わりたくないがどうしても気になってしまう自分もいるが、まだ尋ねるには早過ぎる。

 

「やめようかこの話題?」

 

 リュージに言われて「そうだな」と同意した。


「そう言えば女帝はどうしてるんだ? 何か未成年部門の女子格闘のリングに上がったのは聞いたけど」


 とリュージは女帝の話題へと切り替えた。


「ああ、確か絶対王者になったとかなんとか・・・・・・もうプロレスとか総合格闘技のチャンピオンになったとしても俺はおどろねーよ」


 まったくだと俺は思った。

 女帝。

 俺とリュージの中学時代の先輩だ。

 とにかくケンカが強かった。

 手毬も強いがそれ以上の女性だ。

 それでいてとても綺麗だ。

 

 だが悪評と相俟って綺麗な雌ゴリラ呼ばわりされてよくぶち切れていたのは今でもよく覚えている。


 それがいまやプロの世界で大活躍している。

 これで中学の悪評も少しは薄れてくれるといいのだが。


「お前も格闘技の世界に行ったらどうだ?」


「リュージはどうなんだよ」


「いや、俺はいい。中学時代で身の程って奴を思い知らされたからな」

 

「そうか」


 リュージはいけると思うのだが・・・・・・正直勿体ないと思った。


 こうしてアレコレと駄弁りながら時間は過ぎ去っていった。

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