第40話「闇のテーマ―パーク」

 Side 木里 翔太郎


「なあ手毬・・・・・・」


「なに木里?」


「久し振りにここに来たけどまだやってたんだな、このテーマパーク」


 俺と手毬 サエ、そして牛島さんや豊穣院さん、和泉先生に相川さんなどの面々であるテーマ―パークに来ていた。

 

 テーマパークの暗黒面。

 様々な危ない予感がする二つ名を持つテーマパーク。

 

 その名もファンシー世紀末ランドだ。

 

 幾ら何でもド直球すぎるネーミングである。


 ここをデートコースに選ぶぐらいならまだ一緒に牛丼屋にでも行った方が百倍マシだ。


 だが名前通りのヤバ過ぎるテーマ―パークは国内だけでなく海外からも反響を呼んで毎年大勢の人が集まっている。


 連れて来た牛島 ミクや豊穣院 ミホ、相川 タツヤや先日ラノベの盗作騒動を経験した和泉 ツカサ先生なども皆、落ち着かなさそうにキョロキョロしていた。

 

 荒廃した町並みのセットに凶悪な外見をした世紀末の悪党みたいなファッションをしている人間がゴロゴロしているからだ。

 従業員なのか、それともこのテーマ―パークに染まりきった客なのか分からない。


「ここなんか話には聞いてましたけど本当に危なくないですか?」


「大丈夫よ。見た目はこんな感じだけど治安はとてもいいから」


 牛島さんは不安がってキョロキョロするが常連の手毬はとても落ち着いていた。

 ちなみに俺も何気に常連である。


 人の死体のセット――死刑された善良な市民と銘打たれた小道具とか見慣れたものである。実際俺と手毬は本物の死体を間近で何度か見た事があるので今更動じない。 


「入場ゲート前の反対デモも相変わらずだったわね」


「まあ気持ちは分かるな。ネットで何時潰れるか賭けが起きてるぐらいだし――こう言うのを炎上商法っていうんだっけ?」


「何かこのテーマ―パーク色々と終わってませんか? てかあの人生相談所、なんであんなに人集りが・・・・・・」

 

 牛島さんの言う通り色々と終わっている。

 そう思う傍らふと人生相談所に長蛇の列が出来ていた。


「ああ、確か元極道で人を殺して刑務所に入った人が面会所を模したセットで人生相談してくれるのよ」


「え? ソレ本当なんですか?」


 牛島さんの反応は普通の人間として当然だ。

 俺と手毬以外、皆それぞれ驚きの表情を見せている。 


「本当よ。一回マスコミとか調査してたし。ネットの特定厨とかも動いてたりして――支配人曰く腐っていたところを拾ったとかどうとか」


「世の中には苦労している方が多くいるんですね」


「ミホさん! 何かずれてるよ!」


 豊穣院 ミホは何か盛大な勘違いをしていた。

 心配になったのか牛島さんはとりあえずツッコミを入れる。

 

 ・・・・・・皆を招いておいてなんだが俺も不安になってきた。


「あの献血所も随分人が来てますね」


 ふと相川さんが指を指した。


「ああ、あそこで献血して自分の血液型を言うと輸血袋呼ばわりされながら体にペイントしてくれるんだ。」


「輸血袋ってなんですか・・・・・・」


 牛島さんの疑問はもっともだ。

 だが何となくは察しているとは思うが一応説明しておく。


「マッドマック○で人間を血液パック代わりにして人に直接繋げたりするんだ。それが元ネタ」


「さすが世紀末。発想が狂ってますね」


 相川の一言に全てが集約されているがそれだけで終わらないのがファンシー世紀末ランドだ。


「土産物コーナーでは釘バットとかタブルバレルショットガン、世紀末ファッションセットとか、缶詰とかドッグフードとか置いてある」

 

 俺は丁寧に解説する。

 

 それを聞いて「もしかしてドッグフードって人間に食べさせるんですか?」と牛島さんが尋ねたので俺は「おお、分かってきたなミクさん」と返した。

 

 すると牛島さんはげんなりした様子で「ええ。段々と・・・・・・」と返事した。


 世紀末のお約束。

 ドッグフードでも食えるのなら食え。

 て言うか世紀末の世界観ではご馳走である。

 

「世紀末の世界観に合わせてるせいか食べ物は基本、お客様に嫌悪感が出るか出ないレベルを狙ってるんだ。ドッグフードはまだマシなラインだな」


「そうね。場所によってはヤモリの形をしたグミとかも販売してるわね。人肉風味バーガーは販売中止になったけど」


「何考えてるんですかこの遊園地・・・・・・」


 牛島さんの言う通りこのテーマ―パークは明らかに何かがおかしい。

 きっと支配人はヤクでもキめてるんだろ。


「さて、どっから回る? 刑務所エリア? 核戦争後エリア? それともゾンビアポカリプスエリアか?」


「麻薬エリアとかロボットの反乱エリアとかも捨てがたいわね。宇宙戦争エリアとかサメエリアとかナチスエリアとかも・・・・・・」


「ごめん。二人が何を言っているのかサッパリ分からない」


 てか宇宙戦争とかサメとかナチスとかどの辺りが世紀末なのだろうと、牛島さんはこのテーマ―パークの思考についていくのに苦労しているようだ。


 豊穣院さんは「これが狂っていると言う意味なんですね」と感心していたり、タツヤは「妹を連れて来なくてよかった」とか和泉先生は「どうして今迄ここに来なかったんだろう」とか違った反応を見せていた。



 なにをどう間違えたのか手毬と俺とみんなは刑務所エリアに来てしまった。


 刑務所のくさい飯定食やら何やらマジックミラー越しに「借金をかたに豚小屋に閉じ込められた人生の負け犬ども」とかを観察できる名所がある。


「あ、あの人まだいるわ。まだ借金返済出来てないのね」


「もしくはこんな衆人観衆に晒されてまで賭け事に夢中になって未だに脱出できないんだろうな」


 などと俺と手毬は達観した目でマジックミラー越しに畳部屋でギャンブルしている一人の人生の負け犬に哀れみの目を向けていた。


「え? あの人達本当に借金してるんですか?」

 

 当然な疑問を豊穣院さんが投げ掛ける。

 手毬は「そうなのよ」と即答した。


「一応苦情は来たんだけどね」

 

「そりゃ来るでしょ」


 タツヤが当然の反応をした。


 幾ら何でも教育に悪すぎる。本当にここは日本なのだろうかと。

 俺も何度かそう思った。


「だけど人権って言うのは過度に求めすぎると逆に生活が苦しくなったりするのよ。例えば子供が働くのを禁止したりとかね。アイツらもどうせマトモな社会に適応できなくてここに来たんだし、野放しにして問題おこすぐらいならここに幽閉して一生見世物として過ごして反面教師として世の仲に役にたった方がいいと言うのが支配人の考えよ。あと見てて面白いし」


 と、手毬は語るがすかさず牛島さんが「言ってる事、それなりに筋が通ってるぽいけど最低ですね支配人。それとサエちゃん何かヤバイ一面が漏れてるよ?」と心配そうに言った。


「大丈夫だミクさん。手毬の奴は昔からこう言う奴だから」


「木里さんも、もう少し注意した方がいいんじゃ・・・・・・」


 手毬は昔からブラックなところがあるが俺にとっては今更である。


「あそこで死刑囚の処刑体験装置とかあるけどやってくか?」


 俺が指さす方ではバンジージャンプするための高台があった。

 そこでは布袋を頭に着せられたゲスト(遊園地の客の意味)が遊園地のキャストに蹴り飛ばされて悲鳴を挙げていた。


 相川さんはそれを見て「頭に布袋着せられてバンジージャンプするんですね・・・・・・」と、げんなりした様子だった。

 

 ちなみにその時の瞬間は写真撮影してくれるそうだ。

 いやな記念だ。

 

「一時期電気ショック体験コーナーとかあったけど、死人が出て中止になったのよね」

 

 ふと手毬がそんな昔話を語る。

 そういやそんな事件もあったな。


「どうしてその時閉鎖しなかったんですかこのテーマ―パーク・・・・・・」


 牛島さんが言う通り謎は深まるばかりである。



 次に来たのはサメエリアだ。

 隣にはナチスエリアやゾンビアポカリプスエリアがあり、一部合併している。

 

 手毬の解説によればサメとナチスとゾンビはクソ映画的に関わりがあるため実質一纏めにされてぶち込まれたらしい。


 ナチスエリアはヨーロッパに完全にケンカを売っているような景色――ヒトラーの演説とか流れてるし、ナチスドイツグッズとかこの遊園地の人気キャラの一人であるらしいサメナチスとかのヌイグルミとか置いてある。


「ここは比較的マトモね。シューティングゲームでナチスが発射してくるサメを撃ち落とすアトラクションとかあるわ」


「やっぱり発想がおかしい」


「いや、サメとナチスだからそれぐらいは普通だろ」

 

「え? 和泉先生なんで理解してるの?」


 思わぬ和泉先生の手毬への援護射撃に牛島さんは困惑する。

 だがまあ折角なのでアトラクションを体験する。


 ナチスが発射したサメを迎撃するパニックシューティングアトラクション、シャークミサイル。


 ナチスの円盤に乗って資本主義の豚どもを焼き払うと言う主旨のこれまたシューティング系アトラクション、ナチスの逆襲。


 ウォータースライダー系アトラクション、サメか人類か。


 ゾンビが大量に迫り来るのを迎撃するジェットコースター系アトラクション、ゾンビアポカリプス。


 ヒトラーの指示に従って戦闘機に乗り、最前線の戦場の空を駆け巡るジェットコースター系アトラクション、アカの空。


 まともなのもあるが絶対何かおかしいがそれがファンシー世紀末ランドだ。



 それから他にも世紀末パレード――攻撃的に魔改造された車やら戦車やらゾンビやらサメやらナチスやらレトロフューチャーなロボットやら宇宙人やら世紀末の住民とか、檻に入れられて酒を飲んで怠そうにしている人生の負け犬とかが行進しているのを眺めたり――


 麻薬のレプリカが栽培されてるのを観賞できる展示展を見て回ったり――木の枝に人の模型が裸の状態でロープで首を締められ吊るされていた。 


 麻薬エリアのアトラクション、デッド・オア・ドライブでは麻薬の売人となって国境線を強引に突破するカーチェイスを体験したり。


 土産物店では合法ドラッグとか魔法の粉とかギリギリな物が並んでいた。

 

 ロボットの反乱エリアではショーを楽しんだり。

 どう見ても味方側のロボットがシュ○ちゃんだったり・・・・・・

 何故かナチスが出て来てナチスのロボット兵器と戦うアトラクションで遊んだりした。


 宇宙戦争エリアでは宇宙人が地球の環境に適応できず全滅するクソエンドを目の当たりにしたり、密林に潜むエイリアンにオーバーキルとも思える程の弾幕を張ったりした。

 またここでもナチスが出て来て、月面からのナチスの侵略を阻止するアトラクションとかにも参加した。


 そして世紀末エリアでは災害用品がやたら多く売られていた。

 綺麗な水とか、缶詰とか、人でも食えるドッグフードとか。

 後何故かガソリンとか。

 世紀末のカーチェイスを体験できるコースター系アトラクションでは何故か輸血袋席なる物があってそこには「度胸試し」と称して豊穣院さんが拘束された。(比喩にあらず)


 ともかく色々とクレイジーだった。



「久し振りは楽しかったわね」


「そうだな手毬」


 常連の手毬と俺は笑っていた。


「意外と面白かった・・・・・・」


 ツッコミばかりだった牛島さん結構楽しめたらしい。

 他の面々も同様だった。


「今度はマトモなところに遊びに行きましょうか。映画館とかそういうの」


「あ、映画行くんですか? 何を観るご予定で?」


 手毬の提案に豊穣院さんがくいつく。

 何故か手毬は顔を赤らめこう言った。


「ニチアサのピュアリアの映画とか?(この世界におけるプリ○ュアみたいな奴)」


 俺は慣れているので「時期的にまだ早いんじゃないのか?」と返し、豊穣院さんは「そうなんですか?」と普通に対応していたが、牛島 ミク、相川 タツヤ、和泉 ツカサの三名は耳を疑った。


 たぶん凄いギャップを感じてるんだろう。


 まあ、とても人生の負け犬を観て楽しんでいた奴とは思えない言葉だからな。

 

 牛島さんと相川さんの二人は取り合えず「ええ、そうですね」、「そうしましょうか」、当たり障りの無い返事をしていたのが印象的だった。

 

 和泉先生だけは「こう言うのもアリか」などと言っていた。


 END

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