第31話「鑑 ほのか」

 Side 木里 翔太郎


 唐突に始まったクラスのラノベ盗作騒動。


 正直、俺には関りのないまま終わるかに思えた。


 だがそんな楽観はある出来事で幻想に終わる事となった。


 話は少し脱線するのだが、俺達は皆小説を書いている。


 書くレベルも様々で趣味の範囲から、真剣にプロデビューを目指す範囲でだ。


 その矢先に今回の騒動が起きて不吉なものを感じたが、それでも無関係――そう思いたかった。


 何しろ俺も手毬も死人が出るような荒れた中学時代を過ごしたせいで何かしらの無関係な騒動が自分に関わってくるように感じていたからだ。


 まあこればっかり仕方ない。

 遂先日も新島 ハルヤとの抗争とかあったばかりだ。

 時間と共にこの感覚も無くなって行く事を祈るばかりだ。 


 ・・・・・・正直俺と手毬は呪われてんのかな?


 中学時代、教師からは「暗黒時代」とか「悪魔の子供達」とか「悪魔の世代」とか色々と言われたが・・・・・・この学校にも広まってないかどうか心配だ。


 さて、話を戻そう。

 

 正直この件は静観するつもりだった。


 だがそうも行かなくなったのだ。


 キッカケは牛島 ミクさんに、鑑 ほのか、ラノベ盗作の容疑が掛けられている容疑者――PNりりかるウサギが接触して来たからだ。


 問題は理由だ。


 それを聞いた俺は手毬を連れて近くのファミレスに急行した。 


 テーブルには手毬、牛島さん、鑑 ほのか、そして俺がいる。

 鑑 ほのかと牛島さんが反対側にいる感じだ。


 鑑 ほのかは首元まで伸びた横髪、後ろ髪に左側サイドポニーの茶色い髪の毛が特徴のゆるふわ系な可愛らしい女の子と言う感じだ。


 だからこそ左頬に張ってある湿布が目立つ。右の拳で思いっきり殴られたのだろう。

 可愛い女性相手にここまで怒りに任せた拳を男子が振るうのは余程怒りが篭もってなければ出来ない。


 他の特徴と言えば胸が大きい。体も均整が取れている。

 とても小説を書いているようには見えない。

 どちらかと言うと読モだかグラビアアイドルやってそうだ。

 本当に十五歳なのだろうか。 


 性格も見た目通りのほんわかした性格で・・・・・・手毬が一番嫌うタイプで俺が警戒するタイプでもある。

 

 テーブルは早くも険悪な雰囲気になっている。


「で? 続きを書いて欲しいとか言うふざけた事を抜かしてるのは本当なワケ?」


「うん本当だよ♪」


 手毬の怒りを込めた愚痴に笑顔で返す。

 まだグレーの段階だが、もう「盗作したの認めます」と言っているようなもんだ。


「だけどちょっと違うかな? 編集者さん、大賞取ったのにあれもこれもダメだしして・・・・・・「運良く大賞取れたけど」、続きとか思いつかなくて――もう他人に任せちゃおうかな~とか思ったり」


(おい、手毬。この女やばいぞ)


(分かってるわ。牛島さんには手に負えないのも無理ないわね。こいつとんでもない腹黒女よ)


 などと小声で手毬と会話した。

 この女、あくまで「運良く大賞取れた」と言うカバーストーリーで話を進めて行くつもりらしい。

 証拠も何もない。

 

「今盗作騒動で騒がれてるけど、こう言う場合面白い続編を作れたら無実が証明されるんでしょう?」


「だから手伝えって?」


「うん? そだよ?」


「馬鹿じゃないの?」


 手毬じゃなくてもそう言うだろう。


「どうしてですか~?」

 

 分かってるのか分かって無いのか首を傾げる。

 俺はハァとため息をついて説明した。


「手伝えって言うんなら魔法少女戦記の続きは何処まで出来てるんだ?」


「次どうなるのかはまだ分からないよ~」


「でもプロットはある程度出来上がってるんだろ?」


「プロット?」


「まさか一から十まで書かせるつもりでも無いだろ? 手伝わせると言っても読んで見た感想とかアイディアとかを聞いたりとか・・・・・・それぐらいだろうな」


「え、あ、うん・・・・・・」


(反応が要領を得ないな・・・・・・もしかして全部丸投げするつもりだったのか?)

 

「だけどこんな騒ぎになったから全然手が付けられなくて・・・・・・」


「まあ、だろうな・・・・・・」


 のらりくらりと躱されている様な感覚だ。

 限り無く黒に近いグレー。

 そんな印象さえ持ってしまう。

 これが物語の世界なら何かしらのどんでん返しがあるだろうが現実と言う奴は単純だ。

 間違いなく黒。

 そう思ってしまう。


「じゃあプロット作りから手伝ってくれる?」


「それこそ担当に相談するべき案件だろう。言っちゃ悪いが俺達はアマチュアだ。担当の方が物語作りに関してはプロだ。そっちに任せた方が良い」


「で、でも・・・・・・」


 正論を吐いてもなお食い下がろうとする。

 何か言われる前に俺は行動する事にした。


「牛島さん帰るぞ」


「そうね」


「う、うん」


「あ、待って――」


 そうして俺達はその場を後にした。

 


 牛島さんと手毬は俺と一緒に近くの公園へ場所を移した。


「ごめんなさい。こんな事に巻き込んでしまって」


「本来なら愚痴の一つも言いたいけど・・・・・・アレは小物の部類だけど一種の怪物ね。人間を平然と食い物にするタイプの女よ。アレで無自覚だったらタチが悪いわ」


「どうする手毬? 正直放って置いても自滅するけど、その自滅に巻き込まれるのは嫌だぜ?」


「そうね・・・・・・あの担任じゃ荷が重い相手だわ。自分の意見を前言撤回するのもアレだけど、謝罪の意味を込めてこの事件に首を突っ込みましょうか。何だか嫌な予感がするし――」


 手毬の言う通り俺も同じ物を感じていた。


「二人はこれからどうするんですか?」


「ともかく編集部に言ってくるわ。丁度ICレコーダーで会話の内容を録音しておいたし・・・・・・」


「あ、ICレコーダー持ち歩いてるんですね・・・・・・」


「まあな。いざと言う時は最大の武器になる」


 法治国家日本ではICレコーダーは最大の武器にもなりえる。

 ともかく善は急げだ。

 行動する他ないだろう。 


 

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