第13話「一触即発」

 Side 木里 翔太郎


 以前言われていた事だが豊穣院 ミホと俺とが仲良く話している事で手毬からトラブルが起きるかもと言う話をしたと思う。(*第10話参照)


 それが現実に起きた。


 学年で話題の青年がいる。

 背も高く、髪型も整えていてスキンケアにも力を入れてますと言うファッション系男子。運動部向きの体格ながら運動部には所属しておらず、もっぱら同じグループと率いて行動している。

 

 名前は早瀬 ミナト。

 女子に人気がある美男子だ。


 それが豊穣院 ミホと関わったのが全ての始まりだった。


 別のクラスなのに取り巻きと一緒に突然上がり込んできて、


「今度一緒に遊ばないか?」


「君の事をよく知りたいんだ」


 とか言う感じで迫ってきた。


「はあ・・・・・・」

 

 手毬や牛島さんと一緒にいた豊穣院さんは困った様子だった。

 牛島さんはどうすれば良いのか分からないと言った感じだったけど、手毬の奴は目付きが鋭くなっていた。まるで愛しい愛娘にちょっかい出されている現場を目撃したかのような、保護者の目付きだった。


「イヤならちゃんと断りなさい」


「え? ですけど?」


「手毬さん。僕は豊穣院さんと話してるんだけど?」


 目に見えて調子を変えた。

 取り巻き連中は手毬達をジロジロと見ている。

 そして取り巻きはこう言い放った。

  

「こんなオタク連中と連んでると豊穣院さんまでオタクになっちまうぜ」


「もっと友達選ぼうよ」


 手毬、そして牛島さんを抉るような一言だ。

 教室の温度が下がった気がする。

 

「大体手毬さんの彼氏からしてオタクだしさぁ」


「豊穣院さんも、もっと色んな事を知った方がいいと思うよ」


 それを知ってか知らずかドンドン悪口がエスカレートする。

 今時漫画でもみない堂々としたオタク批判だ。

 

「余計なお世話です」


 悪意を感じ取ったのかピシャリと豊穣院さんは斬り捨てた。


「友人はちゃんと自分で選べます。それとオタクだからと言う理由で私の友人を貶す事は許しません。どうかお引き取り願います」


 と、強い調子で豊穣院さんは言ってのけた。


「折角の誘いを断るの?」


「こんな機会滅多に無いよ?」


「ご心配なく。私は大した理由もなく、平然と人を貶す様な人とお付き合いするつもりはありません」


 手毬も顔負けな強い口調だ。

 旗色が悪いと見たのか早瀬 ミナトはこっちを少し見た後、その場から立ち去った。


「大丈夫か?」


 俺は直ぐさま傍に駆け寄った。


「ええ――緊張しましたが、手毬さんならどうするかと考えたらあんな風になってしまいました」


「はあ・・・・・・」


 豊穣院さんの中では手毬の奴はどうなってるのだろうか。

 少し気になる。


「アンタにしては良く言ったじゃない。見直したわ」


「手毬ちゃんの言う通り、意外でした」


 手毬や牛島さんの言う通り豊穣院さんの毅然とした態度は中々格好良かった。

 手毬が珍しく褒めるのも納得だ。


「それにしても何時か目を付けられるとは思ったけど、まさかこうなるとはな」


「うん。あんまり良い噂を聞かないけど、この高校に入学する程度の連中よ。昼ドラちっくな少女漫画みたいな事はするだろうけど、不良漫画みたいな事はしないでしょうね」


「お前戦闘態勢に入ってないか?」


 手毬の奴、何か臨戦態勢に入ってるな。

 だが手毬の心配も分からないでもない。

 俺も手毬も嘗ては人の汚い部分を数多く見た。

 

 それを経験して得た結論は「馬鹿は馬鹿をやる」である。


 つまり自分の常識に当て嵌めて楽観視するのは危険だと言う事だ。


 そしてこの直感は後に的中する事となる・・・・・・

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る