第9話「作家志望者のお話その2」
*今回は牛島 ミクの視点で物語が進行します。
Side 牛島 ミク
昔から私は一人で誰にも知られず文章を書いてました。
だけど恥ずかしくて中々見せる事が出来ませんでした。
書き始めたキッカケは一冊のラノベ。
ラノベを題材にしたラノベでした。
自分でも出来るかもしれない。
輝けるかもしれない。
そう思って私はこの世界に踏み込み、物書きの魅力に取り付かれました。
だけどWEB小説を発表した物の、中々評価はよろしくなく、「自分には才能が無いのだろうか?」と思い悩んでいました。
そんな時、放課後の行きつけの小さな本屋で有名なクラスメイトに出会いました。
手毬 サエさん。
何時も木里 翔太郎君と一緒にいる小学生ぐらいに見える小さな女の子。
有名なラノベのキャラクターに雰囲気とか色々と似ています。
竹刀袋とカバンをぶら下げていて、ラノベを物色していました。
「て、手毬さん?」
「うん? 牛島さん?」
その時私はどうして私の名前を!? と思いました。
その事について尋ねましたが。
「クラスメイトの名前は全員把握してるのよ」
「は、はあ」
何気に凄い特技だと思った。
「アンタもラノベとか読む口? 結構良く見掛けるけど?」
「え、ええ・・・・・・まあ・・・・・・手毬さんも読むんですか?」
「木里の奴が何気にラノベ作家志望な節があるから手を出してみたら結構面白いのも多くてね。面白い奴はここで新品で買うようにしてんのよ」
「そ、そうなんだ?」
「アンタは何読んでるの?」
「わ、私は――」
そこから話が弾み、友達の輪が一気に広がりました。
好きな話題でここまで盛り上がったのは産まれて初めてかもしれません。
時には手毬さんが色々と教えてくれたりします。
私がラノベ作家を目指しているのを知っているのか「成る程」と思うような知識を披露したりしてくれて大変勉強になったりします。
「ふーん、ラノベ作家目指してるんだ」
「う、うん」
ある時、思い切って放課後の図書室の隅の方でその事を打ち明けました。
特に驚いた様子も見せずに淡々と受け止めたようです。
「雑誌に投稿したりしてんの?」
「ま、まだかな?」
「WEB小説とかで投稿してる感じ?」
「そ、そうだけど」
「評価はどんなもん」
「えーと」
ちょっと言い難い。
「作品は完結しているの? 連載中?」
「れ、連載中だけど」
「そう。書籍デビューを目指すつもりか、それとも道楽で書いてるかは知らないけど、しっかり完結させないとダメよ。あの馬鹿の小説みたいに黒歴史になるから」
「あの馬鹿?」
「木里の奴も小説書いてたのよ。黒歴史的な内容で二度も見れたもんじゃないけどね」
「は、はあ」
どんな酷い小説なのかそれはそれで興味があります。
「取り合えず言える事はこれでお終いかな?」
「え? あ、それは――」
「言っちゃ悪いけど、友人としての関係を続けたいならあんまりその話題はしない方が良いわ。私の性格何となくだけど分かってるでしょ? 何の作品に影響されたか知れないけど、自分の夢の手助けをして欲しい、小説を読んで欲しいなんてなったらきっとケンカ別れして、関係はそれで終わりになるわ。まあ・・・・・・」
そう言って間を置いてこう言った。
「それでも良いって言うんなら読んで感想送るわ」
手毬さんは小さな体躯でそう告げました。
だけど、今の手毬さんはとても大きく見えて、凄い威圧感を放ってます。
彼女の言う通りです。
もしこれ以上、私の願望を押し付けたら今迄の関係は終わってしまう。
だけどここで引いたら関係は元通りになる。
「もう一つ言っとくけど、本気でプロデビュー目指すんなら生半可な覚悟で挑むのは止めときなさい。仕事選べば社会人として生きる片手間に書くと言う選択肢もあるわよ」
そんな考えをお見通しだと言わんばかりに彼女は現実を突き付けて来ました。
「何をするにしても資格なんていらないわよ。だけど現実見ないとね」
私は何も言えませんでした。
置き去りにしてその場から彼女は立ち去りました。
泣きました。
とてもとても泣きました。
手毬さんに怒ったわけではありません。
自分の不甲斐なさに泣いたのです。
そして私は行動に移しました。
「で? 書いて来たと言う事は今迄のなあなあの関係は終わりって事で良いのかしら?」
放課後の図書室の片隅に呼び出し、私は新作と共に頭を下げました。
「はい――それと私のWEB小説が掲載されてる場所も教えます」
「分かったわ」
それが私と手毬さんの、今の関係の始まりでした。
最初はとても辛かった。
だけどちゃんと私の作品を見てくれている。批判だけでなく、ここをどうすれば良いのかを言ってくれている。厳しいけど優しい人。それが手毬 サエなんだと分かるようになりました。
「正直以外だったわ。見掛け以上に根性あるのね」
「ええ。私も驚いてます」
何度も繰り返していくウチに意外そうな顔してそう言われた。
それが何だか嬉しかった。
「まあ根性だけあっても実績が伴わなければ意味ないけどね」
「あうう!」
だけど厳しいです。
そしてある時、手毬さんの相方である「木里 翔太郎」さんも評価に加わって来ました。手毬さん曰く「私だけだとどうしても評価が偏るから」だそうです。
木里さんは見掛けはとてもかっこいい人です。
背が高く、体格も良くて、短い黒髪に切れ長の瞳。
バトル系ラノベの主人公としてやっていけそうな容姿をしています。
だけど彼もまた穏やかな口調ながら辛口な評価で更に過酷になりましたがドンドンと小説が、文章力が根本的に上達していくのを感じました。
ですけど、こう言うのも変なのですが・・・・・・まるで少年漫画の修行パートを面白おかしく体験しているみたいで楽しかったです。
それを繰り返しているウチに、嬉しい出来事が起きました。
何と二人が小説を書いてきてくれたのです。
二人とも照れくさそうに「参考になるかなと思って」とか「これ照れ隠しで言ってるだけだから」と言い合いをしつつ私の評価を待ってくれました。
ようするに私のために書いてくれたのです。
こんな嬉しい事はありませんでした。
そして二人とも凄いと思いました。
(木里さんは単純な学園恋愛物・・・・・・よくある題材でここまで面白く書けるんだ・・・・・・)
まず木里さんの小説。キャラクターも文章も活き活きとしていました。
ちょっと肩の力入りすぎてるかなと思った部分もありましたが完成度が高く、物語もちゃんと完結していました。
(手毬さんは魔法少女物・・・・・・)
最初は手毬さんらしからぬ題材で面食らいました。
だけど此方もキャラクターが活き活きしていて、設定は長編物向きながら独特なキレがあります。
手毬さん曰く「長編物ならバトルロワイヤル物にしたかったけど、私の実力じゃ無理ね」とか不吉なことを呟いています。
ともかく一日で書いたとは思えない程に凄い作品でした。
「ちょっと牛島さん!? どうしたの!?」
「あれ? 私何かやらかしちゃった?」
「お前こんな時でもドライなのかよ」
私は泣きながら「何でもありません。ただ嬉しかったんです」と微笑みました。
私のためにここまでしてくれる友人に恵まれた事が。
お二人の気持ちが。
そして手毬さんの厳しさの裏に隠された優しさが。
それが二人の作品から伝わってくるんです。
今私はとても幸せです。
この二つの作品は生涯の宝物になりました。
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