第24話「皆と映画鑑賞と政治ドラマ」
Side 木里 翔太郎
「どうしてまた俺の家なんだ?」
また俺の家に女達が上がり込んできた。
手毬と豊穣院さんに今度は牛島さんも一緒だ。
「今回は牛島さんのための勉強みたいなもんよ」
「牛島さんのために?」
その疑問は牛島さんが照れくさそうに解説した。
「見ている作品とか偏りすぎだからもうちょい幅を広げなさいって言われて・・・・・・」
成る程、そう言う事か。
「ま、そう言う事。出来れば牛島さんが見て無さそうなチョイスで頼むわ」
「つってもなぁ・・・・・・」
手毬は簡単に言うが選ぶ身からすれば結構プレッシャーだ。
どんなのが良いのだろうか。
「豊穣院さんは?」
取り合えず豊穣院さんにも質問を投げかける。
「私は何でも。古いのでも新しいのでも――これも社会勉強ですから」
と笑みを作って言うが何か不安だな豊穣院さん。
電○文庫の乃木坂さんみたいにならないだろうか?
自分で言っといて何だがネタが古いな。
「うーん、プレデ○ー(無印)、ダイ・○ード、ラン○ーに・・・・・・」
「偏ってるわね。アンタ豊穣院さんをテロリストにするつもりなの?」
「安いから購入したんだよ。それに何でアクション映画持ってるからってテロリスト養成する事になるんだ?」
その理論だとアクション映画好きは皆、テロリスト予備軍になるぞ。
酷い言い方だ。
「テロ組織は少年兵を育成する一貫で、アクション映画を見せまくったりするのよ」
「あ、うん。なんかごめん」
そう言えばそんな話聞いた事がある。
手毬の言いたい事は分かった。
豊穣院さんは純粋無垢だ。この手のアクション映画はまだ早いと言いたいのだろう。
サブカルチャーが現実に与える影響というのは馬鹿に出来ない物があるからな。
(どれにするか・・・・・・)
ふと劇場版パトレ○バー2に目が言きそれを手に取った。
「劇場版のパトレ○バー2? 中々渋いチョイスね?」
手毬の言う通り渋いチョイスだと思う。
ロボットアニメであるが、この劇場版の二作目に限っては内容的に硬派で社会派な物語だ。
普通の人間は退屈して途中で切ってしまうかもしれない。
そもそもロボット物の劇場版と言えば全編に渡ってロボット同士のバトルを想像する人が多いだろう。
だがこの作品はそう言う描写が殆どない。派手な爆発や破壊はあれど、ロボット同士の戦いはラストにある程度だ。
どちらかと言うとロボットは物語を面白くする舞台装置と言うか端役的な役割でメインは人間ドラマや政治劇だ。映画のロボット物の中では異端とも言える。
だから評価は真っ二つに分かれる。特に海外では評価は悪い。
その事を豊穣院さんと牛島さんに伝えた。
「評価は真っ二つに別れたと言う事は面白いと言う人もいるんですよね? どの点が評価されたんですか?」
「そうですね。豊穣院さんの疑問も尤もだと思います」
豊穣院さんの意見に牛島さんも同じ疑問を持ったようだ。
「まあその辺りは見れば分かると思うわ。分からなかったらその都度解説をいれる。少なくともワケの分からないパチモンのB級映画を見て時間を無駄にしたと思う事は無いでしょうから」
と、手毬は言うが手毬の評価は高評価だ。
ある意味彼女の好みと合っているからだ。
手毬は今でもピュアリアシリーズのファンを続けている少女チックな側面を持つがやはりリアリストな部分がある。
それにこの作品は手毬 サエの本音を濃縮して代弁したような作品でもあるからだ。嫌いになどなれる筈がないだろう。
「さて、取り合えず物語始めるぞ」
劇パト2は大人向けにチューニングされた難解な作品だ。
ある程度日本の政治事情に精通してないと楽しめない部分もあるが、そこは手毬が丁寧にフォローする。
そうして二人は成る程と頷く。
「この作品は日本の問題点を視聴者に提示している作品よ。当時からまるで今の日本の姿を見通していたかのように思えてしまう物語よ」
劇パト2が公開されたのは1993年。
しかしそれから21世紀に突入して二十年近く経過した今の日本の問題点を明確に指摘している。
言い換えれば三十年以上の時間が、いや・・・・・・それ以上の時間があったにも関わらず何一つ日本は問題を解決出来ていないと言う証明でもある。
ファンの中にはこの作品に起きる出来事は的中――いや、既に現実で起きていると言っている。
この作品に影響を受けたクリエイターはとても多いだろう。
中でも「戦争に気付くのが遅すぎたんだ」のくだりは今でも忘れられない。北のあの国がふと何か思い出したかのように唐突にミサイルを日本目掛けてぶっ放した時なんかよく思い出す。
手毬も意識してか無意識か時折このネタを引っ張り出す時がある。
手毬は日本をディスりまくるのは逆に日本を想う気持ちへの裏返しなのかもしれない。
☆
ふと昔の事を思い出す。
中学生の終わりぐらいの時期だろうか。
昔から手毬はよく政治、経済関連の話題をする事がある。
その時彼女はこんな事を話していた。
「知ってる? 日本はまだ戦争中なのよ?」
「戦争? 何処と?」
「北のあの国と」
「だけど「国際法的には確かに戦争状態では無いわね。だけど実験と称して突然ミサイルを隣国の領土めがけてぶっ放すような国よ? その気になれば大した理由もなく町一つを砲撃で吹き飛ばすような国とある種の冷戦中なのよ」
前者はともかく後者は不勉強で何の事か分からなかったが後で調べてみると昔、国境沿いに配置してある海岸の砲台を使って休戦中の国の町を焼き払った事件があるらしい。普通ならば速攻で戦争物だ。
しかし戦争にならずに終わった。
政治の世界と言う奴は複雑怪奇らしい。
「考えすぎじゃ無いのか?」
「2001年の9・11の動画見た事がある? あんなの誰が想像出来たかしら?」
そう微笑を浮かべながらそう言う彼女。
当時は日本と言う国をあざ笑っているようにも見えた。
☆
気が付くと映画は終わっていた。
感動したとか面白かったと言うより見ていた二人は「とても興味深い映画だった」と言う感じだった。
「ロボット物でこんなシナリオを作り上げるなんて凄い大胆と言うか何て言うか。手毬さんの解説があったから面白く感じましたけどこれは本当に評価が分かれますね」
と、牛島 ミクさんは評価した。
彼女の評価はクリエイターとしても一般人としても普通の感覚だ。
「お二人(手毬、木里)が仰られた通り、日本の問題点を一本の作品に凝縮したような、間違っても子供向けの幼稚な作品とは言えない作品ですね。1990年代の初め頃に作られた作品とはとても思えないぐらいに、今の社会に思い当たる部分が多い作品でした」
一方の豊穣院 ミホさんはそう評した。
「ねえ、木里。次の作品はロボット物以外で頼むわ。前回のガンダ○UCと同じく偏ってる気がするし」
「お、おう」
そして手毬はそんな心配をしていた。
次皆で何を見ようかな?
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