第32話「編集部へ」

 Side 木里 翔太郎


 俺と手毬は盗作騒動、真っ直中の編集部への移動は少しばかり金が必要だったがそうも言ってられない状況だった。

 何とか事情を話して鑑 ほのかの担当と接触し、人がいない会議室で話す事が出来た。


 ほのかの担当は三十代ぐらいの軽薄そうな金髪のメガネを掛けてヒゲを生やしたおじさんだった。

 名前は「中村 ユウヤ」と言うらしい。

 何となくだが好感を持てる容姿だった。


「まさかクラスメイトが乗り込んでくるとはね。まるでラノベみたいな展開だな」


「はあ・・・・・・」


 軽い調子で言うがかなり疲れているのか深いため息をついて、机に座っている。

 少々頬もやつれ気味だ。 


「正直今回の一件は編集部も困惑しているよ。僕も含めてね・・・・・・それで彼女とはどう言う関係なんだい?」


「実は――」


 そこで俺はファミレスでの一件を話した。


「話の内容が曖昧すぎるが・・・・・・牛島さんって子や君達をゴーストライターにしようとしたのかい?」


「ああ。あの分だとプロット書いてるかどうかすら怪しいですよ」


 正直に俺は率直な感想を伝えた。


「君達の担任は?」


「丸投げされた。正直あの女は普通の教師の手に負えない」


 担当の中村さんは「そうか・・・・・・」と返した。

 この人も同じ事を考えていたかもしれない。


「本当は今回の一件静観するつもりだったんですけど、嫌な予感がして・・・・・・」


 続けて俺はそう言うと中村さんは「確かにレコーダーの内容を聞く限りでは僕も悪寒を感じたね」と前置きしてこう言った。


「最初初めて顔を合わせた時は驚いた。PNはともかくあまりにもイメージとは掛け離れているからだ。こんな子が大賞を取れる作品を作れたのかと思ってね。それに男だから女子高生だと分かってもあの容姿だ。どうしても鼻の下を伸ばしたくなる・・・・・・だからバチが当たったのかな。こんな大騒動が起きた」

 

 そしてハァと深いため息をついて話を続けた。


「編集部でも最初、担当は女性にしようかと言う意見があったが大賞を取ってこの世界に踏み込んでしまった金の卵だ。将来的に考えると早いうちに異性に馴らしておきたいと言う考えもあったんだろうな・・・・・・だからあえて男の僕になった」


「それで、接してみてどうだったんですか?」


 と、ここで手毬は珍しい事に丁寧な口調で尋ねた。


「ああ、打ち合わせの時最初のウチはまだ色々と不馴れなのかなと思った。だが・・・・・・おかしい点は多くあった。細かい部分で言えば小説の基礎知識の様な部分も知らなかったり、「自分で修正しないといけないんですか?」と首を傾げたり・・・・・・酷いレベルでは自分の作品のキャラクターや物語の事を理解していない部分があったりして・・・・・・そう、まるで他人の作品の内容を事前に暗記していたようにも感じた」


「編集長とかには相談しなかったんですか?」


 手毬は当然の事を尋ねた。


「一応はね。だけどこの業界、ラノベを何作品も雑誌に投稿している作家は少なくない。自分の書いた作品を断片的に忘れていると言うのは十分にありえる。それに「テキトーに書いたら大賞を受賞しちゃったんです」なんて言われたら信じる他無いだろ・・・・・・悪い愚痴る感じになって」


 手毬は「いえ、構いません・・・・・・続けてください」と話を促す。


 愚痴る気持ちも分かる。

 この人と同じ立場だったら俺は平静でいられる自信なんてない。


「ありがとう・・・・・・取り合えずこの一件は現在調査中と言う事になってる。盗作されたと主張している子にもコンタクトを取ってるんだが」


 俺は「だが?」と引っかかる物を感じ、手毬も「何かあったのかしら?」と疑問を持ったようだ。


「ああ。どうもパニックになってる感じなんだ。早口で怯えていて・・・・・・もう僕が盗作した側で良いですとか、盗作の主張を撤回しますとか・・・・・・此方の接触を拒否している感じなんだ」


 確かにおかしい話だ。

 

「その「もう僕が盗作した側で良いです」って言う言葉は本当ですか?」


 俺は念のため尋ねる。


「ああ、本当だ。震えた声で涙声でそう言ってたよ。おかしな日本語だとは思わないか?」


「何かあったのかしらね?」


 と、手毬は言う。

 俺は「あの女が手を回したのか?」と首を捻った。


「ともかく、分かった事があったら何か連絡をくれ」


 俺は「ああ」と返し、手毬も「約束するわ」と言って俺達は編集部を後にした。

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