第7話「作家志望者のお話」
Side 木里 翔太郎
手毬 サエの友人にも俺の周りにも作家志望の奴がいる。
クラスには必ず一人はいる、やたら絵が上手い女子とかイラストばっかり書いている男子とかの枠と友人なのだ。
今、俺たちは手毬 サエと一緒に小説の推敲作業をしていた。
文章データーを受け取ってそれを見る感じの流れだ。
と言うか俺はともかく、手毬 サエの毒舌を態々浴びたいがために小説を見せる自殺志願者が未だに手毬の友人をやっているとはその娘はドMか何かだろうか・・・・・・
その娘の名前は牛島 ミク。
おかっぱ頭でふくよかな体付きで癒やし系の分厚いレンズの赤いフレームメガネが特徴的な地味な女の子だ。デブではないが普通でも無い。ぽっちゃり系の可愛らしい系の女子だ。
そして胸が大きく、何気に人気がある女子である。
どうやら作家志望らしく、手毬 サエを通じて俺にも意見を求めに来たらしい。
サエ曰く「もっと多角的な評価が多い方がいい」らしい。
だそうだ。
「ど、どうですか?」
緊張した面持ちで、手毬 サエと俺の反応を待っている。
作品は短編。
題材は学園物。
あらすじ付きで完結させること。
仮題は手毬 サエが決めた。
そうなったキッカケは俺のせいだ。
と言うのも俺が遂夢中になって「小説(ラノベ)の何たるか」を熱く講釈したら、手毬 サエが「成る程ね」と言って勉強して課題を突き付けたのだ。
そして今、図書室――図書部が活動と言う名のオタク談義に花を咲かしているのを邪魔しないようにテーブルを挟んで牛島さんと対面している。
傍には手毬がいた。
牛島さんは緊張した面持ちでソワソワしながら此方の評価を待っている。
なるべく気にせずに俺と手毬はスマフォを眺めて牛島さんの作品を眺めて。
「そうね。先ず導入部が長い。短編なんだからスグにでも読者を引き付けなきゃ駄目。出来る限り省略する努力を心がけなさい」
「あうう!」
トップバッターは手毬だった。
容赦のない言い方に牛島さんは早く涙声になる。
「それと私は貴方が見て欲しいって言うから作品を見てるけど、ネットで流したら見向きもされないわよ」
「あうう!」
(エグイ・・・・・・)
牛島さんは既に涙目だ。
だけど、「もっと穏便に評価してやれよ」と言ったら「この程度で潰れるなら潰れた方がマシ」、「それで絶好になるなら遠からず絶好になるわよ」とか普通に口走りそうだなとか思った。
「てかこれ完結してないじゃない?」
「だ、だって、収まり切らなくて・・・・・・」
「アンタそれで本当にプロになる気あるの? 今はただでさえ混沌とした戦国時代なんだから、それでデビューしてやっていけると思ってるの」
「あうう!」
(鬼だ。鬼がいる・・・・・・)
牛島 ミクさんに同情しながら文章を読み進めていく。
「手毬の言い方は酷いけど、指摘事態は間違ってないな・・・・・・ラノベ作家か小説家、どちらを選ぶかは分からないけど、基本小説は出だし、あらすじが目に止まって初めてスタートラインに立てるんだ。雑誌に投稿するなら尚更だな」
様々なラノベやWEB小説を読んだ経験則だ。
こうして俺や手毬に意見を貰って読んでくれるのは正直まだありがたい方なのだ。
WEBに掲載して発表した場合、タイトルやあらすじで読者を惹きつけ、出だしの数行で読者の心を掴んで初めて読まれ、さらに人気が出るのは運が絡む厳しい世界なのだ。
「アンタ私の事、血も涙も無い悪魔とか思ってるんでしょうけど、アンタも結構厳しい事言うわね」
お前と一緒にすんじゃねぇ!(泣)
顔を引き攣る感覚を抱えながら指摘を続ける。
「それとキャラクターの設定は必要最低限に省略しないと、キャラクターの人数を絞った意味がないからな。それと起承転結を意識して書くのが難しいなら、いっそ、そう言う自分が動かしやすいキャラクターを配置するんだ」
「う、動かしやすいキャラクターですか?」
キョトンとした表情で今牛島さんがどう思っているかは分からないが俺は口を動かす。
「そうだ。ハルヒとかがそうだな・・・・・・正直物語は主人公と困難があれば作れるからな」
「ヤケに抽象的な言葉が出て来たわね」
手毬の言う通り抽象的な言葉だと思う。
「困難ってのは様々な解釈が出来る。学園物の場合、短編の場合は不良生徒をどうにかしたいとか、テストで点を取りたいとか、学園一の美少女に告白したいとかだな。その目的を達成するためにお助けキャラなりお助けアイテムを面白おかしく配置すれば物語は完成する」
「な、成る程・・・・・・」
「牛島さんのWEBで連載している小説全部みたよ」
「え?」
「たぶん牛島さんは物語のテンプレートを感覚的に理解しているから、ファンタジー小説をあそこまで書けるんだと思う。だけど勝手が違う畑違いのジャンルの学園物だと、その欠点が露呈してしまうだけなんだと思う」
「そ、そうだったんですか」
「この短編も悪く言ったけど、最悪ってわけじゃない。手直しすればきっと良くなるよ」
「は、はい!」
牛島さんはパァと新鮮な日差しを浴びたヒマワリのような明るい笑みで頷いた。
「傍から見ればまるで女を口説き落としているみたいね」
「お前は一言余計だ」
どうしてこいつはこうなんだろうか・・・・・・
☆
校舎内にある自販機。
そのスグ傍の壁に背を預け、自販機で買った紙パックのジュースを飲んで互いに肩を並べる。視線は合わせなかった。
牛島 ミクはスグに家に帰った。
たぶん新作の制作に取り掛かっているんだろう。
「まあ何にしても助かったわ。アンタ将来ラノベの編集部にでもなる気?」
「考えておくよ」
「ふうん・・・・・・で、どう? 牛島さんプロデビュー出来そう?」
「プロデビューするだけならな」
だがヒット作を産み出してアニメ化とかに繋げられるかどうかは本当に運次第だ。
とある漫画でも言ってたが漫画の連載は博打である。
ラノベもそうだ。
「週刊誌の連載だってそうだ。だけど長く続けられるか、人気が出るかどうかまではもう運次第だ」
「そう。なまじ中途半端に実力があるからタチが悪いか。私ももう少し評価を厳しくしようかしら」
「手毬らしい発想だな」
「小説なんて仕事選べば一生書き続けられるでしょう。趣味は趣味。仕事は仕事でって言うのもあるんじゃないかしら?」
「まあ確かにな」
それを否定できなかった。
それぐらいにラノベ業界は素人目から見ても厳しい世界だ。
「そもそもラノベの認知度は高くない。「ラノベってなに?」と言う人間も未だに多いしな」
「そうね。発行部数から見ても漫画の方が全体的な売り上げは圧倒的に上だけど。本屋に行けばどの書店もラノベよりも漫画に力を入れているのが現実よね」
「それでも文章を打つと言う敷居の低さのせいでプロデビューの夢を見る人間が後を絶たないと来ている」
「・・・・・・まあ税金とか法律云々とか考えたらプロデビューするのも考えものよね」
「まあな」
手毬が言うのはラノベ業界を題材にしたラノベとかでよく聞くお話だ。
「それに漫画よりも読者数の割合が少ない読者の奪い合いを行っている。漫画の出版社同士の競い合いが国家同士の戦争ならラノベの出版社同士の争いなんて紛争レベルかもしれない。比較は間違ってるかもしれないが・・・・・・まあ少ない領土巡って陣取り合戦してるのが現実だからな。今のラノベ業界」
「どんな業界でも一緒よそんなの。何時までも続く栄華なんて存在しないわ。大人はそんな現実知らないクセに、子供に夢を持ちなさいとか言うんだから」
何時もの手毬らしい意見が出た。
俺は「だな」とだけ返した。
「それにしても今日はお互い無駄話が過ぎるな」
「そうね。牛島さんの熱意に当てられたせいかも知れないわね」
そうかもなと思った。
俺達は十代半ばと言う年齢の割に何処か冷めている。
熱意と言う物がないのだ。
真剣に頑張る暇があるなら将来の事を考えた方が良い。
心の奥底でそう思っている人種なのだ。
俺も、手毬も。
だから何だかんだで牛島さんの事を羨ましく思っているかもしれない。
「・・・・・・私達も小説を書いてみようかしら」
「そうか・・・・・・って私達?」
おい、そこで何で俺も巻き込もうとする。
「正直あそこまで根性あるとは思ってなかったわ。詫びも兼ねて私達も小説書いてみせるのも筋よ」
「何なんだ急に・・・・・・てか別にそんな義理ないだろ」
「私もそう思うんだけど、「じゃあ、貴方が書きなさい」って言う創作者が使ってはいけないデッドワードを口走らなかったし、その礼も兼ねてよ」
「・・・・・・そ、そう」
顔を赤らめさせながら手毬はそう言う。
アレだな。
自分に付き合ってくれる友人の存在が嬉しいんだけど素直になれないから俺を巻き込んでまでこんな手に出たんだな。
素直じゃないんだから。
「んじゃあ勝負よ」
「え? 勝負?」
「そうしないとやる気出さないでしょ? それとも恐い?」
「挑発仕方が下手だぞ、手毬・・・・・・」
「ふん」
こうして俺達は牛島 ミクのために、勝負と言う体裁を保って礼として小説を書く事にした。
お互い素直じゃねえなおい・・・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます