第6話「アニメ鑑賞会」

 Side 木里 翔太郎

 

 よく手毬は俺の家に上がり込む。

 

 理由は様々だ。


 一緒に遊んだり。

 

 一緒にゲームしたり。


 一緒に勉強したり。


 飯を同伴したり。


 逆もまたしたりで俺もよく手毬の家に上がり込んだりしている。


 控えめに見てもギャルゲーならもう既にルート確定済みだ。


 で、今日は一緒にアニメを見ていた。


「最近の魔法少女物って変化球的な奴が多いわよね」


「まあな」


 整理整頓してちゃんと掃除された部屋で(そうでないと手毬が五月蠅いからだ)してちゃぶ台を挟んで宿題を片付けた後にアニメを見る事にした。

 

 手毬と見るアニメは大体テレビのHDに録画した奴を消化するついでに見ている感じだ。


 今は手毬のセリフのように魔法少女物でエグイ内容が売りのアニメだ。

 全部で魔法少女は十人以上いて、最初の一話で早速一人殺している飛ばし具合である。


「ねえ、普通の魔法少女って何かしら?」


「え?」


「いや、今思ったけど私普通の魔法少女物知らないなと思って」


「普通の魔法少女っていや・・・・・・そりゃ、魔法の力を授かって悪者と戦ったり、魔法の力で困った事を解決したりする奴なんじゃないかな?」


「成る程ね。で、その基本路線を維持しているのがニチアサのピュアリアシリーズで、変化球枠が深夜の魔法少女物なのね」


「まあそうなるかな?」


 ピュアリアシリーズは日曜の朝からやっている女児向けの変身バトル物で幅広い層にファンが多い作品だ。

 内容は一年周期で変わり、基本は異世界からやって来た妖精が普通の女の子をピュアリアに導いて異世界、地球を狙う悪者と戦うと言うストーリーである。


 ちなみに手毬はピュアリアシリーズの大ファンである。 


「まあ最近は韓国だか中国だかのアニメとかも見られ始めてるって言うけど、何だかんだで日本は漫画やアニメ業界のハリウッドポジションだからな」 

 

「否定はしないわ」


(あ、否定しないんだ)


 珍しい事に同意してくれた。少し嬉しいが話を続ける。


「毎年毎年色んな内容の新しい作品が発表されて、その作品一つ一つにヒットするための工夫を作り手達は大なり小なり努力しているわけだ。その一つが新しい方向性だ」

 

「方向性求め過ぎて迷走してる奴とかもあるけどね」


「まあ・・・・・・それは否定しない」


 そう言う作品が産まれるのも世の常なんだろう。

 一体手毬は何の作品の事を言ってるのかは聞かないようにした。

 自分も色々と思い当たる作品はあるが。


「変化球の話題は良いとして魔法少女物ってバイオレンスなのが多い気がするんだけど?」


「俺達が小学生ぐらいの時には既にそうだっただろ」


「解説よろしく」


「任された。魔法少女物は基本ピュアリアシリーズの時間帯以前に放映されて他のが正統派枠、手毬が言っているのは深夜枠の魔法少女物のイメージで俺と一緒に見ている魔法少女物は話題作、ヒット作でバイオレンスなイメージもたまたまそう言う作品のが多かったと言うだけだな」


「言われてみればそうね」


「以前はゴールデンタイムでもそれっぽい正統派物が放映されてたらしいけど、俺達が産まれた頃にはもう魔法少女はバトル物としての要素を確立していたからな。その中でも重要なのが「なのは」と「まどか」だな」


「ああ、昔見た覚えがあるアニメね。あのエグイやつ。私はまどかが好きかな? あの中学生の少女を騙して地獄に突き落とすスタイル、何だか監督と意見が合いそうな気がするわ」


(俺はこう言う時、どう意見を返せばいいんだ?)


 手毬は暴力系ヒロインじゃない。

 少なくとも軽口一つで男を無闇やたらに殴る女ではないが、昔の恐い姿がこびり付いてるせいで、無闇やたらに機嫌を損ねるような真似はしたくはなかった。


「そう言えば歌って変身して戦うアニメとかもあるじゃない。アレも魔法少女物?」


「いや、アレはピュアリアと同じ一種の変身ヒロイン物だな」


「変身ヒロイン物って解釈が幅広過ぎる定義ね。魔法少女物も変身ヒロイン物の一つの種類ってわけね」


「まあな――」


 あ、アニメの魔法少女一気に二人脱落した。

 手毬も「エグイけどクセになるわね」とかヤバイ事口走ってる。

 お前ピュアリアシリーズでこの展開やったら制作会社に殴り込みに行きそうだなとかどうでも良い事を考えていた。 


「どうしてそのアニメの話題が出るんだ?」


「いや、アレって面白いのかなって思って」


「面白いけど?」


「そう。話数どれぐらい?」


「今第四期の終盤だからな。三十話以上?」


「深夜アニメでそれって結構人気なのね。深夜アニメって一部を除けば数打ちゃ当たる枠確保の為のテンプレラノベアニメが氾濫してるイメージがあるし」


「お前ラノベ業界に何か恨みでもあんのか・・・・・・」

 

 俺は右手で顔を覆いながらため息をついた。

 ラノベ作家と制作会社に謝れ。

 アニメやるには誰だって社会現象が起きるような神アニメ作りたいんだよ。

 だけど現実と言う壁に押し潰されてそんなクソッタレな現実になってるんだよ。


「別に。ただ真実を言ったまでよ」


(まあ当然そう言う反応だわな)


 手毬はこう言う奴なのだ。

 例え相手が誰であろうと、残酷な真実を容赦無く突き付ける女なのだ。

 そんな女と付き合える手毬の友人の皆様、本当にご苦労様です。


「で? 何時までこの部屋にいるんだ?」


「今日泊まってこのアニメの撮り溜めしている分、全部一緒に見てくわ」


「マジかよ」


「マジよ」


 その後は結局その通りに家に泊まってのバイオレンス魔法少女アニメの鑑賞会が続いた。

 ちなみにその魔法少女アニメのラストは主人公がラスト一話前で死んでライバルキャラが生き残ってラスボスの魔法少女を倒すと言う衝撃展開だった事を記しておく。


 一番驚いたのは手毬が泣いていた事だ。

 余程この作品を気に入ったらしい。

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