第22話 暁の少女



 その後、フォルクス伯爵はくしゃく謀反むほんくわだてたつみ裁判さいばんにかけられ、処刑しょけいされた。

 古くよりノールフォールの森を任されていたフォルクス伯爵家はくしゃくけ爵位剥奪しゃくいはくだつとなり、長きフォルクスりょうの歴史に終止符を打つことになってしまった。

 フォルクス伯爵はくしゃくは己の愚行ぐこうにより、爵位しゃくいを上げるどころか、一族を消滅しょうめつみちびいてしまったのである。


くれないの民が他国と共謀きょうぼうして――のくだりは、くれないの民がじゃなくてアイツが考えてた事そのまんまなんだろうな」


 とはガヴィのだんだ。

 伯爵位はくしゃくいで王位におさまる事はそもそもできないだろうが、国王を亡き者にし、混乱に乗じて他国とつながり、取り立ててもらう気だったのかもしれない。

 隣国りんごくとの入口になるくれないの里はフォルクス伯爵はくしゃくが王子誘拐ゆうかい犯人はんにんうたがわれないためにいいように使われてしまったのだろう。

 

 何はともあれ事件じけん一件落着いっけんらくちゃくとなった。




 さて、もう一つこの事件じけんでまだ終わっていないことがある。


「おや」

「まぁ!」

「うわあ〜!」


 事件解決じけんかいけつ直後の薔薇ばらの庭園で、ガヴィとゼファーに連れられて、イルは緊張きんちょうずかしさではにかみながら国王一家の前に人の姿すがたで現れた。


「あ、あの……その……イ、イルと言います。

 ……ずっとだまってて、ごめんなさい」


 ガヴィにそうしたようにペコリと頭を下げる。


 シュトラエル王子はイルにぎゅっと抱きつくと心底うれしそうな顔をした。


すごい! アカツキ、人にもなれるの?!

 すごく、すごーく可愛かわいいよ!」


 人になれるのではなくおおかみになれるのだが、そんな事はこの際どうでもよく、王子が相変わらずイルに好意をせてくれるのがとてもうれしかった。

 王妃おうひも「可愛かわい貴女あなたに会えてうれしいわ」と抱きしめてくれた。



「……くれないの民の娘、イルよ。

 創世そうせいの時よりが国と歩んできた一族であるはずが、私の力およばず一族を守れなかった事、申し訳なく思う。

 ……辛い思いをさせてすまない」


 エヴァンクール国王はそう言って頭を下げてくれた。

 イルは思わずなみだがこぼれたけれど、ブンブンと頭をって笑った。


「いいえ……! 国王陛下へいかのせいじゃありません!

 ……すごく、すごく悲しかったけれど……森を出て、自分の国がとても綺麗きれい素敵すてきな事とか……陛下へいか王妃おうひ様や王子が本当に敬愛けいあいできる方なんだってことを知ることが出来ました。

 ガヴィや、ゼファー様にもやさしくしていただいて、私……本当にうれしかったです」


 イルの素直な言葉を聞いて、ガヴィはほほき、ゼファーはやさしく微笑ほほえんだ。


「シュトラエルが君にわたした親愛の証は今も有効だ。創世そうせいころよりつながっているきずなを、が子が再びむすべた事をうれしく思っている。

 ……これからもシュトラエルの良き友としていてしい。

 ……あかつきを名に持つむすめよ」

            

 エヴァンクール国王の深い翡翠色ひすいいろひとみに見つめられて、イルは胸が高揚こうようするのを感じながらハイっと元気よく返事をした。




「ね! イル! むこうで一緒いっしょに遊ぼうよ!」


 小さな手に引かれてはじかれたように緑の芝生にけ出す。

 あの日、暗い森の中となりにいてくれたのはこの小さな王子だった。


「おい! はしゃいで転ぶなよォ!」


 そして、いつもとなりで行く道をらしてくれたのは、燃えるような赤毛の剣士。

 

 一人ぼっちで泣いていた夜明けのおおかみはもういない。


 イルはやっと、一人ではなくなったのだった。



 ❖第二部へ続く❖

 2023.2.5 了 

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