第7話 銀の髪の公爵②



「ガヴィ!」

 しばらく待つと、城内じょうないから銀色ぎんいろかがや髪色かみいろのとんでも無い美青年が小走りにけて来る。

 銀髪ぎんぱつの青年は何やら門兵もんぺいと会話するとガヴィとイルの側にやってきた。

「……まったく君は! 先触さきぶれを出せばややこしくならないですむだろう!」


(う……、わぁ!! すごい……!

 こんな顔の人……いるんだ……!)


 銀髪ぎんぱつの青年は年のころはガヴィより少し上だろうか、たけもガヴィより頭半分位高い。

 見事な銀髪ごんぱつに深い翡翠色ひすいいろひとみをしており、不思議ふしぎな風格があった。

 こしには細工の見事なけんしていることから、彼も武人で有ることが知れる。

 服装ふくそうもアルカーナ伝統でんとう衣装いしょうを今風に品良く着こなしていて、まるで物語の中に出てくる精霊せいれいかなにかのようだ。

先触さきぶれだして、返事を待ってーなんてやってたら、余分よぶんに二日はかかっちまうだろ?

 王子待たせんのも悪いし、お前呼んだ方がはえーもん」

 人懐ひとなつこい笑顔でニカッと笑う。

 ……間違まちがいでなければ、先程の会話の中でこの銀髪ぎんぱつの青年は公爵こうしゃくだと聞こえなかったか?

 だとしたら彼はガヴィよりも格上であるし、王家の血筋を持っていることになる。失礼にも程がある。


「……君な……」

 しかし青年はそんなガヴィの態度たいどにもれっ子なのか、あきれはしているが気にした様子もなくガヴィの足元のイルに視線しせんをやった。

「……こちらの黒狼こくろう殿どのが例の?」

「おう。シュトラエル王子が名付けた。

 ――アカツキだ」

 ガヴィに紹介されて、銀髪ぎんぱつの青年公爵こうしゃくはなんとひざを折ってイルと目を合わせるとくちびるはしを持ち上げた。

「初にお目にかかります。アカツキ殿どの

 私はゼファー・ティグリス・アヴェローグと申します。以後お見知りおきを」

 黒狼姿こくろうすがたのイルなんかに、それはそれは優美に微笑ほほえむものだから、イルはなんだかドギマギしてしまった。ひかえめに尻尾しっぽる。

「おまえ……おれの時と態度たいどちがうなあ?」

 ガヴィがイルを見てどくづく。

「……君の接し方の問題じゃないのか?」

 やれやれ、とあきれた様子でゼファーはその綺麗きれいまゆを下げた。



 *****  *****



 アルカーナの城内じょうないは強固な石造いしづくりの城壁じょうへきとは対照的たいしょうてきに緑であふれていた。

 城内じょうないに森があるかのようにあちこちに木々がえられている。

 しかし、光もきちんとむように計算されているのか暗い印象いんしょうはない。

 落ち着いたレリーフの入口を抜け、わき回廊かいろうから階段かいだんを上がる。

 途中とちゅう兵士へいしの立っているとびらをいくつかけたが、もう三人を止める者はいなかった。


 ガヴィとゼファーはある部屋の前に立つととびらを開けた。

 そこは執務室しつむしつらしく、しつらえの良い執務机しつむづくえ応接おうせつセット、おくには続きで部屋があるようだった。

 ガヴィはれた様子でソファにドカッとこしを降ろす。

 どうやらここはゼファー・アヴェローグ公爵こうしゃく執務室しつむしつらしい。

 イルはガヴィに習い、ソファのそばこしを降ろした。

 イルが落ち着かない気持ちでいると、侍女じしょがお茶を持ってくる。

 ゼファーはお茶を受け取ると何やら侍女じしょに指示を出し、侍女じしょはかしこまりました、と下がっていった。

 部屋には二人と一匹いっぴきだけになる。

「……さて、アカツキ殿どのについてだが、私個人こじんとしては君が大丈夫と判断はんだんしたなら問題ないと思っている。

 だが……王子殿下でんかの側に置くとなればやはり見極みきわめは必要だ。

 まあ……君と、私のお墨付すみつきがあれば問題ないだろうが」

 一週間ほどガヴィと行動を共にし、危険きけんな行動がないと周りに知らしめつつ、二公爵にこうしゃくみとめているとなれば王子に会っても異論いろんはでないだろう(なにより王子自身も望んでいる)との事で、イルはこのままガヴィ預かりとなり、ゼファーの監督かんとくの元、しばらく王城内おうじょうないで生活することとなった。

「来週辺りに王子が庭園に出ている時にでもさり気なく引き合わせよう」

 王子からもおねがいしていただいてその内陛下へいかにも許可きょかをいただきましょう、とゼファーはイルの方を向いて微笑ほほえんだ。



「……ところで、」

 ゼファーは紅茶こうちゃを一口飲み、ティーカップを置くとガヴィに向き直った。

「今回の王子誘拐ゆうかいけんについてだが、実行犯じっこうはんは君の報告通り死亡しぼうしていて首謀者しゅぼうしゃつながるものは今の所出ていない。

 ……だが、気になる事はある」

 ふくんだ言い方に、ガヴィも顔を上げた。

「……避暑地ひしょちの北。国境近くにある小さな村が王子誘拐ゆうかいの同日に壊滅かいめつしている」


(――!!)


 ゼファーの口から思いがけず自分と関係する言葉がつむがれてイルは硬直こうちょくした。

「村?」

「……ああ、小さな村だ。

 黒煙こくえんが上がっていると目撃もくげきをうけて、森への延焼えんしょう危惧きぐされるため領地管理下りょうちかんりか伯爵家はくしゃくけ調査ちょうさに行ったらしいが、村ははらわれて住民は皆殺みながろしにされていたらしい」

 ガヴィが顔をしかめる。

 イルはむねの音がいやに耳にうるさひびいていた。

「……だれがやったのか……いくら小さな村とは言え、個人こじん仕業しわざではあるまい。

 ……しかし、むごい事件じけんとはいえ、国の最北端さいほくたんの部落とも言える規模きぼの村の話だ。

 普段ふだんなら中央まで上ってくる話ではない」


 だが――


「同日に王子の誘拐事件ゆうかいじけん

 ……実行犯じっこうはんげた方角が村の方向に一致いっちする。

 それに加え、……その村と言うのが『くれないの一族』と言ってな、アルカーナ創世記そうせいきにもある伝説でんせつつるぎを作ったと言われる一族のかくれ里なんだ」

 カツンとカップが皿にあたり、ガヴィが持っていた紅茶こうちゃが少しこぼれた。

「私は二つの事件じけんが無関係とは到底とうてい思えん」

「……確かにな」

 真剣しんけんな表情でガヴィも前を見る。


「王子殿下でんか誘拐事件ゆうかいじけんは君が未然みぜんふせいだ事、世間に広がれば陛下へいかへの求心力きゅうしんりょくの低下につながる可能性かのうせいかんがみて、一部の人間以外にはせられている。

 だが引き続き調査ちょうさは必要だ。

 ……陛下へいかより、君と私にめいが降りている」

 ゼファーから真剣しんけん視線しせんを送られて、ガヴィもゼファーと目を合わせた。

「……承知しょうちした」

 いつもとはちがうガヴィの真剣しんけんな顔におどろきながらも、里に起きた悲劇ひげきがまさかここで話に上がるとは思わなかった。


(――この人達といれば、犯人はんにんがわかるかも)


 父に言われた通り、あの場からげるしかなかった。

 知り合いも、たよる所もない。

 父がむすめの無事をいのり、最後にねがった黒狼こくろう姿すがたで命をつないでゆくしかないと。

 王子の側で彼の笑顔を守れたらと思っていた。


 けど、


かたきが、てるかもしれない)



 イルはむねに新しいほのおともったのを感じた。


 ────────────────────────────────


 ☆ここまで読んで下さって有り難うございます! ♡や感想等、お聞かせ願えると大変喜びます!☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る