第40話 秘密の小部屋③




「なに……ここ……」


 そこは小部屋になっていた。

 今、入ってきたばかりだというのに、壁には灯りがついている。ゆらゆらと揺れる火は自然の輝きとは少し違う気がする。魔法がかかっているのだ。

 部屋の壁には本棚。子どものものと思わしき絵や、狼の置物。小さな風景画。

あまりまとまりはなく、好きなものをただ置いたという印象だ。

 部屋の真ん中には座り心地のよさそうなひじ掛け付きの椅子と小さな机。

 まるで誰かの隠れ家のよう。


「なにこれ……なんで貴賓室にこんな部屋が……?」

 そうなのだ。今はイルが自室のように使っているが、元々は王家の個人的な客人をもてなすための貴賓室である。

その貴賓室の一角に、こんな隠し部屋があるなんて。

「……そういえば」

 王子がなにか思い出したように言う。

「父上がいっていたけど、イルのお部屋はむーかしむかし、のお部屋だったんだって」

「え?」

 最初のお城は今よりももっと小さくて、貴賓室に当たるところが初代国王の自室だったというのだ。

その後、アルカーナ王国はどんどん拡大し、それに合わせて城も拡張した。今現在国王一家の住まっている部分は歴史の中では比較的新しい部分らしい。

「じゃあ、ここって……初代国王様の隠し部屋?!」

 誰からもそんな部屋があるとは聞いていなかったし、もしそんな部屋があると分かれば世紀の大発見だ。そんな部屋にイルを入れるはずがない。

もしかすると凄いものを見つけてしまったのかもしれない。

 辺りをぐるりと見回すと、机の上に日記らしき物が置いてある。

イルは軽くホコリを払うと、そっと最初のページをめくった。


 そこには五百年も前の昔の日付が書かれていた。


 まだ、建国当時の日記なのか、最初の方のページには城付近の治水工事が上手く行った等の事が書かれている。

「これ、やっぱり本当に王様の日記なんだ……!」

 ドキドキしながらページをめくる。

「イル!」

 王子に呼ばれて顔を上げると、王子が部屋の隅の壁を指さしている。

「ねえ!!」

「――え?」

 部屋の隅の壁には、隠すように布がかかっており、めくると何枚かの肖像画がかかっていた。


 一枚は長い黒髪の少女。

 もう一枚は―――


「うそ……なんで……?」


 そこにかかっていたのは、今よりも幾分か幼い、少年と青年の間の顔をした、ガヴィにそっくりな少年の肖像画だったのだ。



 震える手で肖像画をそっと撫でる。

 肖像画の少年は、赤い癖のある赤毛、菫色の瞳をしていて、地面に立てた剣を両手で支えるような格好で枠に収まっている。

今のガヴィよりも幼い印象はあるが、どう見てもガヴィに瓜二つだ。

(なんで……? だってここは、初代国王様のお部屋なんでしょう?)

 初代国王の部屋であれば、日記の日付にあったように五百年も前に出来た部屋だ。

そんな所にガヴィの肖像画があるはずがない。

 しかもなぜ、国王の部屋にガヴィの肖像が貼られているのか。しかもひっそりと隠すように。


 イルはハッとさっき見つけた日記を広げた。

古くなっている紙を慎重にめくる。

 最初の方は、創世記に出て来た戦い後の頃なのか、国造りに関しての内容が多かった。

水路を作っただの、病院を作っただの、国が充実していく様がいきいきと書かれている。

(あの絵は他人の空似? そりゃそうだよね、ガヴィのはずが――)

 ある日の日記の一文に目が止まった。



――○月▲日――


ガヴィエインが怪我をして帰ってきた。

本人は大丈夫だと言うが、一人で討伐に行かせるといつも無茶をする。

少しは自分をかえりみてほしい。



 胸がドクンドクンと嫌な音をたてる。


 これは何?偶然の一致?


(ダメ、ひとつも意味がわからない――)


「何をしている!」

 突然の声にハッと振り返ると、階段からゼファーが降りて来るところだった。

「……部屋で声をかけたが返事がなかったから勝手に入らせてもらったが……なんだこの部屋は……こんな部屋があったとは……」

 ゼファーも知らなかったのか、周りをキョロキョロと見回す。

 イルは泣きそうな顔でゼファーに駆け寄った。

「ゼファー様!

 ここ、初代国王陛下の隠し部屋みたいなんです。王子が偶然扉の開け方を見つけて……それで、それで……」

 イルは混乱の極みにいたが、なんとかゼファーに伝えようと気持ちを落ち着けた。

「……なぜか壁にガヴィの絵が貼ってあって……国王様の日記にも名前が……ガヴィエインって、ガヴィの事ですよね…?」

「……なんだって……?」

 もたらされた情報の多さにゼファーも困惑する。

イルと王子に促されて見た絵には、確かに自分もよく見知った青年の絵が掲げられていた。

「ガヴィ……」

 絵を見て彼の名前を呟くゼファーに、イルはますます事実を認めるしかなかった。

「ゼファー様、ガヴィは、ガヴィは今どこにいますか?!」


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