第39話 秘密の小部屋②




「で? 何するの?」

 こうなったらとことん遊んでやるぞ! とイルは腰に手を当てて王子の方を向く。

王子はワクワクした顔で答えた。

「かくれんぼ!」

「かくれんぼ?」

 王子によると、先日平民の子どもたちに流行っている絵本を見せてもらい、その中の子ども達が遊んでいたのを見て一度やってみたかったらしい。子どもの遊びの定番中の定番ではあるが、確かに宮殿には子どもは王子しかいないし、大人とかくれんぼしてもあまり面白くはないかもしれない。

 しかも広い宮殿内でかくれんぼをすると探すのに丸一日かかる可能性もなくはない。見つかるのに時間がかかればそれはそれで危険だ。

よって、王子の初めてのかくれんぼはとりあえずイルの部屋と続きの庭限定で行うことにした。


 最初の鬼はもちろんイルで、隠れられる場所が限定されているため、大体の隠れ場所は解っているのだが、そこは年上の何とやらで「どこかな~? どこだ?」などと言いながら探すふりをする。

イルに見つかるまでの間が楽しくて楽しくて、イルの声が近づくと可笑しさがこらえきれずに笑いをこぼす。

もはやその声で隠れ場所が特定されるのだが、あえて気付かないふりをする。そうすると王子は堪えきれず「ここだよー!」と飛び出してきて二人で大笑いした。

 鬼役を交代したりして何度かかくれんぼを楽しんだところで、王子が「こんどは本気を出すからね!」と気合を入れて隠れる役をやった。

「いーち、にーい、さーーん……」

 定番のもういいかーい、を聞いて、元気に王子から「もういいよー!」と返ってくる。

「よーし! いくよ!」と返事をして、王子の捜索を開始した。

 とはいえ、部屋に隠れるところと言ってもクローゼットの中に隠れるか、テーブルの下、カーテンの後ろ、もしくは庭の茂みくらいしかない。なので今までと同じようにその周辺をわざとゆっくり回って探すふりをする。

どこのタイミングで王子を見つけようか、もしくは王子が先に飛び出してくるか。今度はどちらだろう?と思っていたのだが……


 見つからない。


「え?」

 いやいや。隠れられる場所は全て探した。

そもそもこの狭い部屋で見つからないはずがないのだ。

「王子? うそ、どこに隠れてるの?」

 にわかにイルは焦りだす。

しかし堪えきれなくなった王子がクスクスと笑う声は確実に部屋の中から聞こえているのでいるのは確かだ。

イルは王子に白旗を上げた。

「シュトラエル様降参! どこにいるの?」

 イルが根を上げると王子の笑い声が一層大きくなった。

イルは声のする方向にまさかと思ってのぞき込む。

「みつかっちゃったぁ~」

 見つかってしまったことをさして残念がっている風でもなく、王子は可笑しそうに口に手を当てた。

 王子が隠れているのはイルの寝台のヘッドボードと壁の間の隙間だった。

イルの天蓋付きの寝台には壁までにほんの少しの隙間がある。寝台の中央付近の壁には加えて他の壁より一段へこんだ部分があり、イルでは到底入り込むことは無理だが、王子の体格ならなんとか入れる隙間だ。王子はそこにしゃがみ込んで隠れていた。

そんな所に入れると思ってもいなかったイルは完全に隠れ場所から除外していた。

 流石子どもだ。発想が凄い。

「うわぁ~! 参りました! 王子は隠れるのが上手だねぇ!」

 本当に感心して言うと、王子は得意げに笑った。

しかし最高の隠れ場所は、小さな王子でもギリギリの隙間でちょっと窮屈そうだ。

イルは自分ではその隙間に入っていけないので、王子に「そろそろでておいで」と声をかけた。王子はうん、と返事をして立ち上がろうとして――

「いた!」

 急に王子が小さく声を上げたのでビックリする。

「王子?!」

 慌てて声をかけるとのんびりした声が返ってきた。

「だいじょうぶだよー。なんか床に出っ張りがあって手でぎゅってやっちゃった」

 なんだろこれ? と小さな手で床の突起物を好奇心からくるりと回す。

するとなんと、王子の背の壁がガコっと後ろに下がり、ぽっかりと穴をあけた。

王子は後ろの壁が後退したことにより、出来た穴に吸い込まれていく。

「王子っ?!」

 慌ててヘッドボードを乗り越え、王子の消えた穴に飛び込む。

 飛び込んで気付いたが、穴と思ったそこは穴ではなく、地下に続く階段になっていた。

慌てて薄暗い階段をかけ下りる。

 王子は階段を転がり落ちていたが、幸いにも階下には柔らかい絨毯じゅうたんが敷かれており、ちょっとびっくりした表情で転がっている他は大事なさそうであった。

「王子大丈夫?!」

 急いで王子の側に寄り怪我の有無を確認する。どこにも怪我はなさそうだ。イルはほっと胸をなでおろした。

「イル……ここ、すごおい」

 ひっくり返ったまま、王子が目を丸くして言うので、イルは初めて自分たちのいる場所を見渡した。



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