第18話 救出②




 イルは黒狼こくろう姿すがたで森の中を疾走しっそうしていた。


(早く、早く森を出なくちゃ! あの伯爵はくしゃくが気づく前に!)

 

 イルが小屋に戻った時、すでにガヴィの意識はなく、イルは最悪の事態を想像そうぞうしてひじからくずれ落ちそうになった。

 だが、かすかにガヴィの胸が上下している事を確認してホッと息をく。

 春告花はるつげばなどく致死性ちしせいが高いが、これもまた、この森に自生する植物で解毒げどく出来ることはノールフォールの森に住む者ならだれでも知っている。 

 幸い、野草をすりつぶための道具は小屋にそろっていた。

 しかしもし、刃にられたどくが、春告花はるつげばなどくでなければ効果こうかはない。

 助けをびに行ってももどった時には間に合わない。

 イルはいのるような気持ちでガヴィの口と傷口きずぐち解毒げどくの野草をすりつぶして飲ませた。

 解毒薬げどくやくと言ってもすぐにくわけではない。


 薬がく前にどくの成分が上回ってしまったら?

 そもそもこの薬草で合っていなかったら?


 最悪の未来ばかりがかんでは消える。


(大丈夫……大丈夫……ガヴィは、死んだりしない)


 しばらくすると、青白かったガヴィの顔に赤みが差してきた。呼吸こきゅうも心なしかおだやかになった気がする。


「薬……いたんだ……!」


 目の前がぼやけてくる。イルはなみだが落ちる前に頭をブンブンとってなみだこらえた。


(いてる場合じゃない! ガヴィが見つからなかったら、アイツがまたもどって来るかも!)


 薬がいたとはいえ、ガヴィはまだしばらくは動けないだろう。

 今の時点でフォルクス伯爵はくしゃくが戻ってくれば元の木阿弥もくあみだ。

 早急に助けがいる。


「……ガヴィ、待ってて……!」


 イルはガヴィを再びベッドの下にみ、姿すがたが見えないように布団ふとんをかけた。そしてガヴィの荷をかつぐ。

 イルは小屋のとびらに手をかけた。

 ガヴィがいるベッドの方をり返る。


(……絶対ぜったい、助ける!)


 イルはとびらをきっちり閉めると黒狼こくろう姿すがたもどけ出した。


 森の、外へ向かって。



 *****  *****



 イルは全速力で森をけていた。


 背にはガヴィのかばん

 これにはあるものが入っていた。


 王都へもどろうと思っても、どんなに速くても一週間はかかってしまう。それでは間に合わない。

 ドムの店での別れぎわ、ガヴィはドムにあるものをわたされていた。


『お前にはいつもご贔屓ひいきにしてもらってるからよ、これはおれからのサービス品だ』


 わたされたのは、見覚えのある筒。


狼煙玉のろしだま?』

『いやいや、ただの狼煙玉のろしだまじゃねえぞお?

 これはな、力を発動させると勝手に魔法陣まほうじんえがく』


 魔法まほうを使えない者でも術者の所まで道をつな魔法まほうの道具。

 まだ改良が必要だけどなと笑ってガヴィにわたす。

 まだ試作段階しさくだんかい魔法まほうの定着が不安定だから、使う時はドムの魔力まりょくが感じられる所、つまり森に来た時に開いた魔法陣まほうじんの入口に近いところで使用しろとのことだった。

 ガヴィは「人体実験かよ」とどくづいていた。


(ドムさんのお店まで行ければ助けがべる)


 イルは走って走って走った。

 一心不乱に走ったので、木の枝等を体のあちこちにつけたままであったがそんな事は気にしていられなかった。息が上がりはいも苦しかったが、森の終わりが見えた時には力がいた。

 ただ、森の外に飛び出すことはしなかった。

 フォルクス伯爵はくしゃくが手を回しているかもしれないからだ。

 イルは乱れた息をなるべくころし、辺りを警戒けいかいしてだれもいないことを確認する。

 しげみの中でガヴィの荷をろし、人の姿に戻った。

 黒狼こくろう姿すがたでは魔法まほうの筒が使えない。

 ドムに説明する事もできない。

 もう、後戻りはできない。


(父様ちちさま 、ごめん)


 平穏へいおんをとっても、そこに大切な人達がいなければ意味が無い。

 最後にくれた父の愛情を大切にしておきたかったけれど。

(大丈夫。父様ちちさまの気持ちはもう知ってるから)

 魔法まほうの筒をにぎ魔法陣まほうじんを発動させる。

 筒からあふれた光はあざやかな軌跡きせきえがいて魔法陣まほうじんいた。


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