第17話 救出①



 小さな猟師りょうし小屋の前で辺境へんきょうの森の伯爵はくしゃくは不気味にくちびるゆがめた。

 小屋の入口には、点々と血痕けっこんが落ちている。


(自らおりに入るとは……浅はかなやつだ)


 国で一、二を争う強さと言われているあの男に一太刀を浴びせることが出来た。

 深いきずではないが、つるぎには白い悪魔あくまんである。小さなきずでも無事ではあるまい。


(にがさん……お前を中央に帰すわけにはいかんのだ)


 中からは人の気配がする。

 フォルクス伯爵はくしゃく慎重しんちょうにドアに手をかけた。




 ドアを開けると、中は薄暗うすぐらほこりっぽい。

 いきなり中にむのは不味まずいと思った。

 あのおおかみが飛びかかってくるかもしれないからだ。

 中の暗さに目をらすように目を細める。

 小屋の中を見回すが、赤毛の侯爵こうしゃくは見当たらず、代わりに、近隣きんりんの村の少女だろうか。

 十四、五のむすめおびえた様子で泣いていた。

 部屋の床には血痕けっこん。部屋はらされている。


「……君、何があった?」


 ビクリと肩をふるわせて少女はフォルクス伯爵はくしゃくの方を見た。

 金のひとみに見る見るうちになみだまる。


「きゅ、急に……赤い髪の毛の男の人と、おおかみが入ってきて……」


 少女の話によると、赤毛の男は小屋内を物色し、薬草のたぐいつかむと出ていったらしい。

 よほど恐ろしかったのだろう、少女は可哀想かわいそうな程ふるえている。


「なるほど……。

 実はその男は凶悪犯きょうあくはんでね、私も行方ゆくえっている。どちらの方向へ行ったかわかるかね?」


 ひざまずいて少女の顔をのぞむ。


「こ、こわくて……どこに行ったかは……

 で、でも……」


 おおかみに向かって東に向かうと言っていた気がする、と少女は言った。


(来た道を戻るとつかまると思ったか……)


 フォルクス伯爵はくしゃくは立ち上がるとレイ侯爵はくしゃく追尾ついびため猟師りょうし小屋を出ていった。




「……」


 フォルクス伯爵はくしゃくの足音が遠ざかり、辺りに静寂せいじゃくもどってくる。

 少女、イルははーっと長い息をいた。


「……お見事……」


 ベッドの下からガヴィが顔を出す。


「……色々、っ込んで聞きたい所なんだけどよ。今はちといといて……とりあえずお前、ゼファーの所に……」

「ちょっと待ってて!」

「ってオイ!」


 ガヴィのセリフにかぶせるように言って、そのままイルは外に飛び出して行ってしまった。


 ガヴィはあらい息のまま、ゴロンと床に転がる。


「……なんだってんだ……あー……ダメだ、限界げんかいだ」


 頭がぼおっとする。

 アカツキがぎんくさりを首から抜いた途端とたん、ガヴィのの前でおおかみ姿すがたからみるみる内に黒髪くろかみの少女に姿すがたを変えた。どくおどろきで二の句が告げないガヴィに、少女はかべにかかっていた猟師服りょうしふくを身につけるとガヴィを無理矢理寝台しんだいの下にんだ。


(あいつ……アカツキだよな?

 やっぱ精霊せいれいたぐいだったのか?それにしては、気配がフツー……クソ、考えがまとまん、ねぇ……)


 どくのせいで朦朧もうろうとする意識の中で、ガヴィはとびらが再び開いた音を聞いたような気がしたが、意識はそこで途切とぎれた。



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