第16話 真実の姿



 前を走るガヴィの左袖ひだりそでがどんどん赤くまっていく。

 早く止血をしなければならない。

 しかしガヴィの歩みは止まらず、疾走しっそうし続けている。森には、ガヴィとイルの息遣いきづかいだけがいやひびいている。


(ガヴィ……ガヴィ! 止まって!

 ……手当てしないと死んじゃうよ!!)


 イルが語りかけてもガヴィには通じない。


 自分の姿すがたが人間で無いことをこれ程のろった事はない。

 しかしガヴィの疾走しっそうも長くは続かず、段々だんだん速度そくどが落ち、いよいよヨタヨタと歩くまでにスピードが落ちた。

 前方を見ると、猟師りょうしりのときに使う小さな猟師りょうし小屋が現れた。

 ガヴィは周りを確認すると素早くその小屋に身をすべり込ませる。


(――くそ……っ! ……しくったぜ!)


 小屋に入るとガヴィはイルも入れ、戸を閉めた。

 小屋はせまいながらも小さなかまと水場があり、猟師りょうし道具が置かれたたな仮眠用かみんようのベッドが置かれていた。

 簡素かんそな衣類がかべかっている事から普段ふだんから使われていたのだろう。

 ガヴィは切られた部分の服をやぶき、すぐさま傷口きずぐちを確認した。

 傷口きずぐち自体は大きくないが、血は流れ続け、傷口きずぐちの周りが不自然ふしぜんに変色している。

 ガタガタと猟師りょうし小屋の中を物色する。

 こういう小屋には、毒蛇どくへびなどにまれた時に対応するために毒消どくけしの草などが常備じょうびされている事が多いのだ。

 しかし残念ざんねんながらそれらしき物は見当たらなかった。

 ガヴィは舌打ちすると持っていた小刀を傷口きずぐちに当てすべらせた。


「ちっ……!! ぅ……ぐっ!」


(ガヴィ?!)


 開いた傷口きずぐちを広げ血をしぼる。

 オロオロしているイルを余所よそに、ガヴィは水瓶みずがめの水を傷口きずぐちにかけて血を流した。

 そのままドカリと座り込む。


(――即効性そっこうせいどくか。しろで使われた物と同じか?)


 走ったせいでどくの周りが速い。

 だが、あそこにいても切られて終わりだ。


「……おい!」


 ガヴィはイルをんだ。


「い、……いいか。

 ……おれは今、動けねぇ。どくが回ってるからな。

 ……でも、お前はまだ動けるな?」


 ガヴィはやぶいた服の切れはしに自分の血で何かを書き、イルの首輪にき付けた。


「ゼファーにこれをとどけろ。

 おれは……ここで休んでからいくから……」


 ガヴィの物入れもイルの体にき付け、中身の説明を簡単にするとわかったな、と言われたけれどイルは動けなかった。


 ガヴィを置いていく。それはすなわちガヴィとの永遠の別れを意味している。


「――はやく、いけっ!」


 肩で息をしながら急かすガヴィに、イルの身体がビクッとふるえた。


 その時――


「!」


 ザクッ……ザクッと人の足音が近づいてくる。


 もしかしてフォルクス伯爵はくしゃくが追いかけて来たのかもしれない。

 怪我けがをしたガヴィの血が点々と土間に付いている。小屋の入口にも落ちているかもしれない。


 この小屋には裏口うらぐちはない。

 とびらを開けられたら万事休すだ。


 足音は段々だんだんと近づいてくる。


(このままじゃ、見つかっちゃう――!)


 ガヴィはあらいきをしながらけんを支えに身体を起こした。ガヴィの額に脂汗あぶらあせにじむ。


 せまる足音、逃げ場のない猟師りょうし小屋。


 ハタと、イルはこの窮地きゅうちを二人で切り抜ける方法を思いついた。でもそれは、父との約束を反故ほごにする。


(でも、でも――!!)


 父との約束より、大事なもの。


 イルは、ガヴィの青白い顔を見て覚悟を決めた。



「……いいか、とびらが開いたらおれりかかるからお前はすきを見て外に出ろ。たのんだ――」


 イルはガヴィが支えにしているけんつかぎんくさりを引っかけると、スルリと首からくさりいた。


 そして、ねがう。


「……は……。お、おま……」


 目の前で起こった光景に、ガヴィは息の苦しさもわすれた。



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