第20話 王都へ



 めでたく無事にドムの店まで帰還きかんできた二人だったが、それでハイサヨナラ、と言うわけにはいかなかった。

 ガヴィは薬草がいたとはいえ、致死性ちしせいの高いどくを受けたばかりだったのでドムにきちんとどく消しの治療ちりょうをしてもらい、イルは湯を貸してもらって体を綺麗きれいにした。

 おどろいた事にドムの店には奥にまだ部屋があって、そこには座り心地の良さそうなソファと大量の本、そして水場やテーブルなど、人が住めそうな空間になっていた。 

 ガヴィとイルはお茶とドムを前に、そろってソファに座らされていた。



「………」

「さーて、あらいざらい話してもらいましょうかねえ!」

 ドカッとソファに腰かけ、ドムが足を組む。

移動魔法いどうまほうはちょ〜高度な魔法まほうなわけ。

 しかも人間では三日の距離きょりよ? それを日に三回もしたとありゃあねえ?」

 経緯けいいを聞く権利けんりはあるんじゃねえの? あーつかれた! と問われてはグウの音も出ない。

 ガヴィは物言いたげにこちらを見ているが口を開かない。

 イルはおそおそる口を開いた。


「あの……私は本当はイルって言います。

 くれないの民の一族で……ノールフォールの森からあの襲撃しゅうげきの日げてきたの」

「!」


 ガヴィがおどろいた目でこちらを見た。

 イルは母親が森の黒狼こくろうであるらしい事、父に言われ黒狼こくろうの姿に変化へんげして森をけた事、その途中とちゅうでガヴィに出会ってガヴィに着いて行った事を話した。

父様ちちさまが、黒狼こくろう姿すがたなら兵士へいしに見つからないだろうって、封印ふういんくさりをくれたの。……そのままおおかみとして生きなさいって。

 それに、ガヴィと一緒いっしょにいれば、里をおそった犯人はんにんがわかるかなと思って……」

 チラリとガヴィを見る。

「あの……だまってて、ごめんなさい」

 ペコリと頭を下げる。


 これで全てに合点がてんがいった。


 人の話が理解りかいできる黒狼こくろう。やけに人間くさいい仕草。一緒いっしょに着いてきた理由。

「……なるほどね」

 よく見ればまだ十四の少女。

 子どもと言っても過言かごんではない。そんな彼女が里を追われ、一人で森の外へ放り出されたのだ。どんなに心細かったにちがいない。

「……おこってねえよ。

 おれこそぬとこだったしな。助かった」

 ありがとな、と言われてイルはきそうになりながらはにかんだ。

「おじょうさんの事情はわかったけどよ、そもそもなんでその伯爵はくしゃくくれないの民をほろぼしたんだ?」

 ドムがたずねる。

 イルはハッとしてガヴィを見た。

「理由はわからないけど……

 ガヴィ! ガヴィが受けたどく春告花はるつげばなって花のどくなの。ノールフォールによくいてる花。

 おしろ陛下へいかのお茶に入ってたのもそれだよ。だからどく犯人はんにん伯爵はくしゃく間違まちがいないよ!」

 あのどくは人にはわからないけれど、けものの鼻には異臭いしゅうがする事も伝えた。

「……なるほど。おれらが謁見えっけんする前にフォルクス伯爵はくしゃく陛下へいかに会ってたしな。でもお茶にはどくは入ってなかったって言うし……おれ達もおんなじお茶を飲んでるしな……」

 あの日、陛下へいかとガヴィ達では何がちがっただろう。

 よーく思い出す。同じお茶を飲んだガヴィやゼファーと陛下へいかちがい。女官が紅茶こうちゃを持ってきて、いつも通りカップに注いだ。そして――

「……あ! お砂糖さとう!」

「あ?」

「あの時、陛下へいかだけが砂糖さとう入れてたよ!!」

 アルカーナ国王は仕事の合間にお茶を飲む時、いつも砂糖さとうを好んで入れている。

 国王に距離きょるが近い者は大概たいがい知っている事実だ。あの日、いつもと同じように女官は国王のカップに砂糖さとうを入れていた。

「なるほどね……」

 毒物混入事件どくぶつこんにゅうじけんの後、紅茶こうちゃと食器は調べがついていたが砂糖さとうまでは調査ちょうさされていなかったらしい。

 しかしこれで、全てがフォルクス伯爵はくしゃく犯人はんにんだと言う事を物語っている。

「……ガヴィ……早くこの事を陛下へいかに伝えなくちゃ!あの砂糖さとうがまた陛下へいかの口に入ったら……」

 イルが青くなる。

「ああ、その件に関しちゃ大丈夫だ。

 あの時現場にあったものは全て処分しょぶんされているし、今はゼファーや専属せんぞく魔法使まほうつかいが付いてるしな、国王一家の食べるものはちゃんと検分されてるさ」

 ガヴィの話を聞いて、イルはホッとした。

「お前ら……、国王陛下へいかと知り合いなの……?

 一体何者なんだよ」

 今までだまっていたドムが口をはさむ。

「ガヴィ、ドムさんに何も言ってなかったの?」

 イルはあきれてガヴィを見る。

「ここは客の詮索不要せんさくふようだもんよぉ」

 しれっとガヴィが答える。

「ドムさん、あのね。ガヴィはこんなだけど侯爵こうしゃくなんだよ」

「テメ、こんなは余計よけいだろが!」

 ガヴィはイルの頭を軽くはたいた。

 そのまま二人はギャーギャーと喧嘩けんかを始める。


「……マジかよ」

 ドムは呆然ぼうぜんとした様子で二人をながめた。

「とりあえず! すぐに陛下へいかに危険は無いとはいえ、この事は早急に陛下へいかに伝えなきゃいけねえ! というわけで、しろに帰るぞアカツキ! ……あー、イルだっけ?」

「……もう、どっちでもいいよ」

 イルはくちびるとがらせた。

 ガヴィは大分調子がもどってきたようで、フフンと人の悪い笑みで笑うと、今度はドムに向き直った。

「というわけでおっさん。

 おれ達を王都まで送ってくれ!」

 あまりにサラッと言われて、

「は、はあ〜〜〜っ?!」

 口をあんぐりと開けたドムに、イルは心底気のどくになった。



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