大谷さんはかく語りき「とにかく物を作りたいω」
田中子樹@あ・まん 長編3作品同時更新中
1話~10話
第1話 大谷さん、異世界に「落」ちる
5年前に自分でこだわり抜いて建てた家のローンがあと30年残っている大谷さん。イケメンだと周りに言われ、女性もたくさん寄ってきたが、仕事に夢中で気が付いたら、モテ期が過ぎてしまったようで、30代前半になった今でも独身のままだったりする。
ビルの建築工事中に同僚のミスで利き手が使えなくなった。同居している母はパートで働いているのに建築の仕事ができなくなった不甲斐ない自分に嫌気がさし、橋の欄干の上に器用に立って海を見下ろしていると背後から声をかけられた。
大谷さん、こう見えて結構頑固なところがあるから「はやまるな」と言われても、素直に言うことを聞かないかもしれない。
って、なにこの人!?
うさんくさい。なんか、映画で見たことのある中世の貴族みたいな服を着ている。こういう者です。と名刺を差し出してきたので読んでみる。
『異世界斡旋人、ジャル=ジャルジャルジャル』
ジャルって何回言った? ……それより異世界の斡旋人?
大谷さんに声をかけたのは金に困っているなら異世界……それもゲームのような世界でお金を稼いでみないか? というスカウトだった。
すごく怪しいが大谷さん、藁にもすがる思いで異世界の斡旋人についていくと返事をした。
すると、斡旋人ジャルは笑いながら、ポンと大谷さんの肩を押した。当然、どぷんっと海へ落ちた。でも大丈夫、大谷さん実は結構、泳ぎが得意なので、水面へ浮き上がったら、異世界だった。
湖で泳いでいる。
大谷さん、湖岸へ向かって泳いでいる時に違和感に気が付いた。潰れて使えなくなっていた右手が使えるようになっていた。
湖のほとりまで泳いで、湖からあがると、頭に声がした。
(どうやって稼いでいただいても自由ですからね。口座への送金方法は......)
大谷さん、あまりゲームとかやらないから、よく知らないが、斡旋人に言われた通り、ステータスオープンと言うと目の前に半透明な板が浮いて現れた。
メニューの一番下のところに「送金」と書いてあったので、これでお金を母親に送金できるそうだった。
大谷さん、どこに行けばわからないかので、とりあえず森の中へ入って、適当に歩いていたら「キャァァーッ!」と女性の悲鳴が聞こえた。急いで声が聞こえた方向へ行くと、ひとを乗せたまま興奮して暴走している馬が向こうからやってくる。大谷さんの目の前を横切ろうとしていたので、慌てて飛び乗り、手綱を引いたら馬が止まってくれたので、ホッとした。
「ありがとうございます」
いえいえ、と馬から降りて馬をなだめていると気がついた。乗っていたのは人間ではなくゴブリンだった。
カラダが小さいのと、耳が尖っていて肌の色が薄い緑色以外は人間と外見は似ていた。
大谷さん、ゴブリンが悪いヤツって、なんとなく映画などをみて知っている。だけど、目の前のゴブリンの女の子は、両手を胸に当てて、まっすぐ立ってこちらを見ているので、いいゴブリンだとすぐにわかった。
ゴブリンの女の子に勧められるまま、一緒についていくと、森の中を切り拓いた集落へ案内された。
ゴブリンの村長の家は他より少し大きいが、構造がしっかりしてないので、箱をいくつかくっつけたような形をしていた。
助けたのは村長の娘さんで、この村に好きなだけいていいよと言われた。
空いている家も貸してもらった。借りた家のなかを軽く片付けたあと、ステータスバーのところで気になるものがあったのを思いだした。
「レンガ」
ステータスバーを開いて、レンガを押すとレンガがひとつ目の前にポンっと現れた。
「レンガ」
「レンガ」
「レンガ」
「レンガ」
「レンガ」
「レンガ」
「レンガ」
「レンガ」
「レンガ」
「レンガ」
「レンガ」
「レンガ」
「レンガ」
押せば押すほど、レンガがポンポンと目の前に現れ、山のように積み重なっていく。何気なくレンガをひとつ手に取って、別のレンガの上に乗せると接着面が光ってピタリとくっついた。何回やってもレンガ同士がくっつく。
これならモルタル要らなくてすごく楽……。大谷さん、ゴブリンの村長さんに相談して家を建てていい場所を確保した。
村の中でも、最近、木の根っこを掘り起こしたばかりのところへ案内された。大谷さんが真っ先にやったのは整地。いくらレンガで高く積めるといっても足元が平らじゃなかったり、傾斜があったりしたら、建物がしっかり建たないから。
基礎をおろそかにすると建物だけじゃなく、どんなことだってよくないと大谷さんは知っている。学問だって、料理やスポーツ、音楽など基礎がちゃんとしていないといけないものは数多い。
それら基礎、基本は時間をかけて行うことも共通してあげられる。
地盤もしっかりしてないと、木よりも重いレンガの家を支えるのが難しい。なので基礎は時間をかけてしっかり行うのが建物造りの一番重要な工程である。
でも大谷さん、さっき自分のステータスバーをのぞいた時にいいものを発見していた。
「ショベル」──その名のとおり、現実世界では、土を掘るのに使うが、発動させてみると半透明な巨大なアームが、腕と連動して土を掘ったり、整地に使える。
どうやら、ゴブリン達は鉄を作る技術がないため、彼らの手を借り、木の手製のスコップや「タコ」と呼ばれる地面を突き固める道具を使っても、数日は掛かるところをひとりで1日で終わらせることができた。
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