第43話 大谷さん、勇者と交渉する
「ラクレン聖教国の政教分離にチカラを貸します」
パラメア王国へ戻って3日後。大谷さん達はグリモール教をラクレン聖教国から追い出すためにミルズ皇子に協力することにした。大谷さんの決定に異論は出ず、国境から進軍を始めるのは10日後に決まった。
ミルズ皇子たちに話を聞くとグリモール教自体は道徳的な教えで個人の心の安寧と社会的秩序の維持に役立っていると感じる。なのでグリモール教自体はけっして悪いものではない。でも思考や行動に制限をかける教え……マインドコントロール要素が巧妙に組み込まれている。個人の疑問や探求心を薄めさせ宗教に依存させようとするのはどこの世界でも同じなんだなと大谷さんは思った。グリゴール教はこの大陸にのみ普及している教えでラクレン聖教国を中心に他国にも強く影響している。何百年と続いているグリゴール教自体の教義を変えるのは難しい。
ミルズ皇子が無事ラクレン聖教国内を平定できれば現在、ベルボン共和国と戦争しているカンデナ獣王国への支援にもなる。パラメア王国からベルボン共和国へ使いを出しても効果は薄そうだが、大陸の宗主国であるラクレン聖教国からの話であれば彼らも考え直してくれるだろう。
「オータニ様、ご報告が」
伝令が城内の謁見室に走って入ってきた。狼煙による合図でラクレン聖教国のパラメア大森林への侵入を確認したようだが、目的が不明との一報だった。
急いでケーケーにお願いして、聖女ミイのポータルを使い、国境付近の村まで転移して丸一日調査してもらう。その結果、ラクレン聖教国の軍と民間人が混じった集まりはパラメア大森林南部にあるパラメア王国には向かっておらず、大森林北方にあるノバロフ山という活火山あたりで不穏な動きをしていることがわかった。
(ユー、ひさしぶりじゃの)
「なんだ、今の声?」
ケーケーの報告を元にノバロフ山まで進軍するかを皆で相談していると頭のなかで声が聞こえた。他の人たちに聞こえていないが、聖女ミイだけが声に反応した。この声は以前、森のなかで穴に落ちた時に宇宙に大谷さんを連れて行った……えーとなんだっけ?
(カルベじゃ、忘れてると思っとったよ、そこの聞こえている者と一緒にここへ来るが良い)
「え、今、忙しいんだけど」
(ユーたちが滅亡するかもしれん、と言ったら?)
「はい、行きます。でもどうやって?」
(……用意する。ふたりだけ周りから離れて立っとれ)
大谷さん、嫌がるミイを引っ張って周囲のひとに「宇宙の蟻みたいなのに呼ばれたから行ってくる」と伝え、他の人たちから距離を取る。すると足元に黒い穴ができて、スコンと落ちた。でも大谷さん移動方法はだいたい予想はついていた。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!」
「元気な娘じゃの……ミーの名はCGT─841、識別番号は665F713H01……カルベと呼ぶがよい」
「どこ?」
「ここじゃ」
足元に宇宙空間が広がり、惑星を見下ろしている。宇宙船のなかで聖女ミイは声のした方向に近づいていき、四角い柱の上を凝視してようやくカルベを見つけた。
「なんだコレ?」
「コレ……じゃないわ馬鹿者」
お約束なやり取りをして、カルベがひと通りここがどういったところなのかを聖女ミイに説明した。
「今回来てもらったのはノバロフ山にいる連中のことでなんじゃが」
カルベいわく、彼らがこれからやろうとしているのは〝星獣〟の復活……。神話という形でこの惑星の人間たちにも伝わっているはずだが、ある魔族の計略により情報がねじ曲がって伝わってしまっているらしい。
「元々、この惑星には大陸が
今は3大陸しかないそうで、数千年前にその星獣を稼働させたのが原因で大陸がひとつ海のなかに沈んでしまった、とこの世界の歴史を教えてもらった。
大谷さん、魔族と聞いてある人物を思いだした。この大陸を支配できないなら壊してしまえ的な発想はやはりあの司祭しかいない。
「なんとしてでも止めて欲しい。古代人の住居もあの大陸にあるしの」
阻止するために聖女ミイも左手人差し指に〝謳舞〟という印をもらう。大谷さんのようにスキルがバージョンアップされるはず。
「あと〝勇者〟のチカラが必要なんじゃが……」
カルベも勇者シドーの悪事を知っているらしい。手伝えと言っても素直に応じるどころかこちらの作戦を邪魔する可能性だって十分にあり得る。
✜
「千田ちゃん、俺の前によく
「交渉にきました」
「オッサン……あんたは生きて帰れないぜ?」
聖女ミイの前を遮るように大谷さんが立った。カルベの提案を受けてさっそく勇者シドー……獅童龍弥のいる外海の孤島へカルベのワープ技術で転移した。
「親が作った借金のせいで異世界へ来たそうですね」
「……だったら?」
惑星の
「勇者の能力はこの世界の管理者の手によって封印してもらいました」
大谷さんは借金分を肩代わりするので、〝勇者の権利〟を委譲するよう依頼した。カルベの話だと能力を封印するのは可能だが、権利の移譲だけは相手の了承が必要という話だった。
「断ったら?」
「
「チカラづくってか。ヤレるもんならやってみろよ」
交渉が決裂した。大谷さんがお仕置きしてもいいのだが、
「獅童君……いや、獅童……」
大谷さんのうしろにいた聖女ミイが笑顔で勇者シドーへ宣告した。
「全
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大谷さんはかく語りき「とにかく物を作りたいω」 田中子樹@あ・まん 長編3作品同時更新中 @47aman
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