第42話 大谷さん、敵陣で無双する


 勇者シドーとウズロ司祭との戦いから10日が経過した。

 その間にミルズ皇子や騎士たちは心を入れ替えて街のなかで色んな人たちと交流したり、手伝いをしてくれた。


 これならラクレン聖教国ともこれ以上を争わなくて済みそう。


 ただ、ミルズ皇子が言うには父王とそのまわりの側近や国王よりも権力を持っているグリゴール教の大司教が彼のいうことを素直に聞いてくれるかが心配だそうだ。結婚を誓い合ったアミノはパラメア王国にしばらく残して、心配事が片付いてから迎えに来ると約束した。


 母親には「まあ、なんて決断力のある皇子なの。誰かに見習って欲しいものだわ(チラリ)」と早く結婚しろ圧力をかけてくるが、大谷さんもいつまでも独身というのも変なので、そろそろ結婚しようかとも思う。だが希望者がたくさんいて、どうしたらいいのか分からない。こんなオッサンのどこがいいのか大谷さん理解に苦しむ。


 夕方になり、聖女ミイのスキル〝ポータル〟で宰相オズがラクレン聖教国へ転移した。夕方までにミルズ皇子以外の騎士たちの金貨を受け取ったのちに捕虜を解放する段取りを立てていた。だけどいつまでたっても宰相オズが戻ってこない。なので大谷さん、このパラメア王国最強戦力を揃えた。古代魔王の末裔龍人族アピ、王国騎士団長バフォン、森林統括守護者アルメ、国境守備隊長ケーケー、宮廷魔導士カナヲ、聖女ミイと付き人の魔族ペダ。聖女護衛がしらの女戦士レビン、カンデナ獣王国大使の兎人バビットルゥと王国錬金術師筆頭のマエロンというフルメンバーと念のためミルズ皇子を連れて黒い穴のなかに飛び込んだ。


 オズが戻ってこなかった時点で予想した通りの展開だった……最初から身代金なんて払うつもりはなく、ポータルから出てきた斎藤さん達をラクレン聖教国は数に任せて捕らえるつもりで待ち構えていた。


 場所は円形闘技場の真ん中。丸い闘技場を囲うように無数の兵士たちがいて、奥の方に縄で縛られたオズを見つけた。


「皇子や騎士たちの命は要らないのですか?」


 大谷さんが呼びかけると闘技場の高い壁の先にある貴賓席の聖職者の恰好をした太った老人が答える。


「彼ら勇敢な騎士たちはアナタ達、魔王とその軍団によって無残な死を遂げたのです」


 大谷さん、ちょっと意味がわからない。ミルズ皇子もこの通り元気だし、騎士たちもまだ生きてるけど?


「彼らの無念はグリゴール教とラクレン聖教国が必ず晴らします」

「大司教、父は……王はどうしました?」


 たまらず、ミルズ皇子が大司教を問い質した。だが……。


「はて、どなたですかな? ラクレン聖教国国王は昨晩、崩御してミルズ殿下も名誉の戦死を遂げましたが?」


 やっと理解できた。お金は払いたくないし、負けるのもイヤ。なので、捕虜とお金の引き渡しの場ですべてを無かったことにしてしまおうと企んでいる。ついでに王族を滅ぼして教団がこの国を実効支配しようという悪者らしい発想をしている……。


「では後は頼みましたよ」


 大司教が壁の向こうへ姿を消すと、まわりの兵士がジワジワと包囲網を縮め始めた。


「くっ放せ」


 おや? あれはたしかミルズ皇子の側近のヴォルなんとかってひと。直前まで計画を知らされてなかったみたい。オズの隣で捕らえられていて必死に足掻いている。


「みなさんに質問です。痛いの・・・痛くないの・・・・・はどちらがいいですか?」


 選ばせてあげる。大谷さんなら痛くない方を選ぶが彼らは……。


「貴様らはここで皆殺しだ」


 兵士を指揮している男が残忍そうな表情を浮かべた。うん、痛い方にしよう。


「死なない程度でお願いします」

「「「「「はい」」」」」


 兵士たちにとっては不幸な出来事が始まった。そもそも勇者シドーが遠く外海の孤島に飛ばされた時点でパラメア軍の精鋭に勝てるわけがない。アピ、バフォン、ケーケー、アルメ、レビンの5人で1,000人以上はいる兵士たちを蹂躙する。


 人間相手にモンスターボックスは使わない。使うと魔獣は加減ができないので人間側に死人がたくさん出てしまう。


 大谷さんやカナヲ、魔人ペダで協力して聖女ミイを守りつつ、マエロンには秘密兵器の準備をしてもらう。


「できたダボ~!」


 マエロンが完成させたのは組み立て式の〝起振機〟──元居た世界では大型船舶や航空機、高層ビルや橋などで振動を人為的に発生させて、対象物の動的安定を計測、照査するために使うものだが、錬金術師マエロンが作った起振機はあるモノを発動させるための装置。


 マエロンが機械を始動させると地面が揺れ始めた。すると立っていた闘技場の石でできたタイルがめくれて盛り上がり人のカタチへと姿を変えた。


石偶兵ゴーレムたち、行くダボ」


 3メートルくらいある石でできた10体のゴーレムは動きはそこまで速くないが人間の持つ武器に質量で勝っているため、腕を振り回すだけで猛威となり、兵士たちを小石のように吹き飛ばしていく。


 ゴーレムの投入でパラメア王国側の陣営に余裕が生まれた。大谷さんがお願いしたわけでもないのに状況を各自で見極めてすばやくふたつの影が動いた。


「いっちょ上がりっす」

「今、はずすでしゅ」


 ケーケーが宰相オズと老騎士を取り押さえていた兵を昏倒させて、兎人ルウがふたりの手足に着けてあった拘束具を一瞬で解錠した。


「ゴーレムは丸一日ぐらい動き続けますからその間、闘技場に入らないでくださいね」


 大谷さんはラクレン聖教国の兵士たちにそうアドバイスをした。捕まっていたふたりを回収して聖女ミイにもう一度ポータルを発動してもらい、パラメア王国へ引き返した。



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