41話~最終話
第41話 大谷さん、地下室へ案内する
次の日の朝、ミルズは城のある一室を訪れた。
ノックして「どうぞ」と返事があったので、扉を開けて中へ入った。部屋のなかにはベッドやクローゼット、椅子とテーブルがあり、ベッドからカラダを起こした状態のアミノがいた。
「カラダの調子はどう?」
「これは殿下、はい、すっかり良くなりました。それよりも……」
ちゃんとボクの身を守れずに申し訳ないと話すアミノ。だけどボクにとっては命の恩人であって、申し訳なくされることなんて微塵もない。
昨日、中庭で蜂の魔獣ケラトリの襲撃でボクを庇い負傷したアミノは、彼女の姉カナヲという宮廷魔導士に運ばれていった。彼女の代わりにケーケーという身軽そうな男が護衛としてついたが、その後も上空から中庭へ侵入してきたケラトリをあっという間に撃退したので驚いた。あんな動きをできる人間はラクレン聖教国にはひとりもいない。唯一可能だったのは異世界人の勇者シドーひとりのみ。この国の一番の実力者なのかと本人へ訊ねたところ、もっとすごいひとがゴロゴロいますよ、と返事をもらって再び驚いた。
「不肖ながら、また殿下のお傍につかせていただきます」
「うん、ありがとう」
ケーケーというひとには悪いけどボクはアミノに傍にいて欲しい。自分の命を顧みずに他人のために危ないと分かっててその身を投じることができるか……多くのひとは大事なひとを守るためならできると答えるだろうが、人間はそんなに崇高にはできていない。普通はカラダが固まり、頭のなかでいろいろと考えるはずだ。それなのに彼女ときたら一切のためらいなく行動した。
「おはようございます殿下、昨日は大変だったみたいですね」
アミノと一緒に城内を歩いていると廊下でオータニ国王と会った。
「いえ、アミノが私を守ってくれたので助かりました。オータニ国王、ひとつご相談が」
ボクはアミノさえ良ければ、ラクレン聖教国へ彼女を一緒に連れて帰りたいと相談した。
「それは侍女としてですか?」
「いえ、妻として彼女を迎えたい。もちろん彼女が良ければの話ですが」
ここまで話したところで少し後方にいるアミノへ振り返ると顔が真っ赤になっている。
「アミノはどうですか?」
オータニ国王の問いに彼女は少し躊躇いを見せたが、意を決しては口を開いた。
「私も同じ想いです。どうか殿下へついていくのをお許しください」
よかった。ボクだけじゃなかったんだ。
国王は「オズ宰相の娘の結婚相手からお金を取るのもな。ミイ……じゃなくて自分で考えないと……うーん、どうしよう?」とコチラに聞こえる大きなひとり言をブツブツとつぶやいている。
結局、オータニ国王はボクにつけられていて最高額の身代金は取らないと約束してくれた。ラクレン聖教国としては財政負担がだいぶ減るので、多少余裕は生まれると思う。ボクは彼女を連れて帰って、誰がなんと言おうと彼女を幸せにする。たとえグリゴール教団や父王からなんと言われたとしても。
「オータニ様」
「どうしました?」
「実は……」
身長は150センチくらいだが、綺麗な髭をたくわえた貴族然とした雰囲気をもつ中年の男性がオータニ国王へ耳打ちした。
話を聞くと国王がコチラへ視線を向けた。
「では行きましょうか。地下室へ」
地下室への階段は奥まった通路の途中にある壁を押すと回転する仕掛けになっていた。回転扉の先には折り返しの階段があり、その先には頑丈な扉がある。その横の壁に穴が開いており、オータニ国王が手を入れてガチャガチャと音を鳴らすと、目の前の重厚な扉が開いた。
扉は2重構造になっていて、今度はこちらから簡単に施錠を外せる仕組みになっていた。思うに2枚目の扉は地下室からの脱獄を防ぐためのものではないだろうか?
「ミルズ殿下よくぞご無事で」
扉を開ける前から少し音が漏れてはいたが、2枚目の扉を開くとけたたましい大声が鳴りやんで歓声の音に変わる。
「彼らは皇子の身を案じて騒ぐので見張りの者が困っていたようです」
個室になっている檻は、ラクレン聖教国の不衛生な牢獄と違って時間と自由こそ拘束されるものの、病気や負傷していない限りは命を失うことは無さそうな造りをしている。
部屋には寝具と椅子、テーブルはあるが、排せつする場所はなく、一度檻から出て地下室の端に用を足す場所がある。隣にはカラダを洗う場所らしきものもある。
「心配しないでくれ、ボクはこのとおり無事だし、ずいぶんと良くしてもらっている」
「しかし、殿下、この国には魔王がいるそうです。お気をつけください」
「魔王?」
「はい、そこの獄卒が話していました〝オータニ〟という魔王だそうです」
地下の貴族階級の騎士たちの間で、オータニ国王のことを遠い昔にこの地を支配していた魔王が再びこの地に現れるというグリゴール教の勇者と聖女伝説に登場する魔王の再来だという噂が流れているしい。
「大谷ですが、なにか?」
「え?」
そのため、オータニ国王が名乗ると騎士たち全員の思考がいったん停止した。
「「「「「ええええええええええええええっ」」」」」
「魔王ではありませんよ、魔王の末裔が仲間にいるだけです」
「みっ見た目に騙されてはなりません!」
騎士たちが格子にしがみついて、抗議をしているが、オータニ国王は特に気にしている様子はない。ボクにはもう彼らを解き放ってこの場を抜け出そうという気はない。オータニ国王に許可をもらって時間をかけて彼らを説得する。
「では、すべて魔族であるウグノ司祭が仕組んだことだと……」
「うん、だから引き渡しの日まで大人しくしておいてくれ」
「わかりました」
騎士たちは心から納得はできていないようだが、理解は示してくれた。
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