第15話 大谷さん、兎人を助ける
パラメア大森林へのルートは、ヴズロ司祭率いるグリゴール教を信仰しているラクレン聖教国の兵士たちが固めていて、そのまま通り抜けるのは難しいかもしれない。
「では、カンデナ獣王国を経由して戻るのはいかがでしょう?」
カナヲからの提案を受けた。彼女は父親の町長からパラメア大森林東方について話を聞いていたそうだ。獣人族という亜人が治める国であるため、エルフやドワーフの山や森の民とも多少の交流があり、オーガやゴブリンといった魔物と敵対しているという話は一度も聞いたことがないと。
まあ、誰でも捕まえてすぐ拷問して殺そうとする狂信者のいる人間よりははるかにマシだと思う。
そういう訳で、さっそくカナヲの提案どおり、東の方へと進路を変えた。
──東へ2日ほど進んだところで、獣や魔獣の類ではない足跡が増えてきた。用心のために近くの岩山へのぼり、そっと陰から遠くを見渡す。すると見える範囲で人間の砦が3つあった。
いよいよラクレン聖教国とカンデナ獣王国の主戦場地帯に侵入することになる。見つからないよう慎重に行動しようと大谷さんが考えていると、ここからいちばん近い砦から火の手が上がった。
「おーい」
大谷さんが大きな声を出すと、一緒にいる人たちが焦りだす。
「ちょっ大谷、アンタなに考えてんの?」
聖女ミイ、聖女にしては自分のことばかり考えている元同級生で、誰もツッコんでくれない大谷さんにちゃんとツッコみを入れる担当になりつつある。
「ほら?」
大谷さんの指をさす方向を皆が視線で追うと、兵士たちに追われた獣人族の女の子がコチラへ全速力で向かってくる。
「聖女様、スキルをお願いします」
大谷さんの考えていることに真っ先に気が付いたのは町長の娘カナヲ。ミイは言われるがまま、スキル〝ポータル〟を発動させた。皆、そこに飛び込み始めて、大谷さんが最後まで残って獣人族の女の子に飛び込むよう合図して自らも穴の中にその身を潜り込ませた。
「はい、解除」
「わかってるわよ!」
聖女ミイが、穴から飛び降りてきた大谷さんの言葉に反応してスキルを解除する。するとすぐに空中に浮かんでいた黒い穴が閉じた。
この場所は人間の兵士たちに見つかった場合を備えて、1時間前に聖女ミイがスキルの到着口を生成した場所になる。
2メートルくらいの高さに浮いている黒い穴から降りたあと、離れて身構えている獣人の女の子。カナヲが相手を刺激しないように声をおさえて説明をはじめる。カナヲ自身とケーケーが元ゴブリンだったり、大谷さんとミイが別世界の人間だから安心してと呼びかけた。するとすぐに警戒を解いて近づいてきた。──大谷さん達だからいいが、もう少し用心した方がいいと思った。
「ありがとでしゅ」
「大谷です。お名前は?」
「
外見は愛くるしい耳と尻尾以外は人間に似ている女の子。白い髪とマロ眉でたしかに白ウサギを連想してしまう見た目をしている。背は140センチくらいでとても身軽な印象を受けた。
「それでルゥはなぜ人間に追われてたのですか?」
「実は……」
獣人族の英雄に与えられる剣の奪還が目的だそうだ。彼女の兄はカンデナ獣王国最強の英雄と讃えられて長く国民の憧れだった。しかし、人間たちとの争いのなかで数日前に獣人族を人質に使った卑劣極まりない手により無惨に殺されてしまった。国中が悲しみに包まれるなか、彼女にとって兄の遺品であり、国宝である剣を追って、ひとり敵地までやってきたそうだ。
「手伝います」
「なぜでしゅか?」
「見返りを期待しています」
大谷さん、ここは素直に行こうと思う。英雄の剣奪還を手伝う代わりに彼女の口利きでカンデナ獣王国への安全な入国と国内を経由してパラメア大森林へ向けて出国をサポートしてもらおうと思う。
「じゃあ、よろしくでしゅ」
素直でいい子だ。一度、失敗しているから、警備は厳重になっていることだろう。ひとりでは厳しいと思うし、なにより死なすには惜しい人材だと感じる。大谷さん、だいたいだが、相手の力量がわかる。ルゥは英雄の妹というだけあって、すごく動きに無駄がない。ケーケーやエルフの戦士並みの実力じゃないかと大谷さんは予想する。
──次の日の夜に砦が
陥没させたのは大谷さん。昨日から大谷さんずっと地下で穴を掘っていた。ショベルで掘削した土を新しい〝ストックヤード〟という亜空間収納スキルに土をどんどん収納しながら掘り進めて、砦の真下に巨大な空洞をこさえた。
砦のいちばん高い監視塔の最上階にあったので、その部分だけ地下に埋まらず、地上の近くに斜めに横たわっていたので、気絶している兵士を横目に英雄の剣をゲットした大谷さん達は他の砦から応援が駆けつける前にすぐさま砦を離れて、カンデナ獣王国へと向かった。
「ここまできたら安全でしゅ」
国境でもあるそこまで大きくない川を大谷さんのレンガを繋ぎ合わせた即席の橋で渡ったところで、
無事にラクレン聖教国を脱出できて安心した。大谷さん達は、カンデナ獣王国の王都へ寄ったあと、国王から多額の褒賞として、この大陸ではカンデナ獣王国でしか採掘されていない真銀……ミスリルをたくさんもらった。そして、もうひとつ、大谷さん達、パラメア大森林の新たな街を〝国〟として同盟を結びたいと申し出があった。いちおう、仮で了承したが、エルフの女王やゴブリンの町長、ドワーフの長などにも相談しないといけないので、正式な回答は使者を送るということで、互いに同意した。
ちなみにカンデナ獣王国の大使として、本人の強い希望もあって
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