第19話 大谷さん、畜産を始める
日時計が出来たら、次はそれをベースに水時計を作る。
大谷さん、サイフォンの原理という言葉は知っているが、原理を説明せよと言われても答えられない。だけど使い方なら知っている。
まず銅でできた四角い
完成した漏刻……水時計を時報というカタチで国民へしらせる。これで日中だけでなく曇り空や雨天時、夜間でも時間をおおまかに知ることができるようになった。街のほぼ中央に鐘を設置して、1時間ごとに鳴らすようにした。
「この肉ってなんですか?」
大谷さんが、自分の創作をするためにつくった街の外れにある作業小屋……通称「オータニ部屋」に夕食を届けてくれたカナヲに質問した。
「それは赤いミートスライムの抜け殻です」
大谷さん、ミートスライムという魔獣をエルフの戦士アルメの指導のもと、何度か狩りの練習で狩ったことがあるが、抜け殻を食べられるなんて初めて知った。ミートスライムは村や街の近くであまり見かけない魔獣だが、レアというほどでもない。また遭遇しても危害はなく危険を察知すると逃げようとする習性がある。ちなみに草食で草ばっかり食べているイメージがある。
大谷さんがわざわざ質問したのは、このミートスライムの抜け殻……どうみても肉なのだが、これが向こうの世界でいう国産牛サーロインステーキばりに美味しいというところにある。赤いミートスライムは牛肉の味で青いミートスライムは鶏肉の味など、色によって肉質が変わるそうだ。
そこで大谷さんは閃いた、というか疑問に思った。
「畜産をしたら、もう肉に困らなくならないですか?」
「畜産?」
そういえば、最初に訪れたゴブリンの村でも家畜を飼っている様子はなかった。どうやら家畜を飼うという概念すら彼らにないことに今更ながら気が付いた。
大谷さん、翌日になってミートスライム捜索隊と牧場整備班を結成して、ミートスライムの畜産の準備に取り掛かった。ミートスライムに性別はなく、二匹以上同じ場所にいると、数日で数が増えるそうなので、牧場班は飼育するうえでミートスライムの個体数を管理するために仕切り柵を計画的に整備する必要があった。意外と手間取ったが、捜索隊もスライム自体を見つけるのも大変だったらしく、結果、どちらの班も早くも遅くもなく同時に準備を完了させた。
畜産といっても乳用牛を酪農するイメージ。牛や豚を屠殺したりニワトリの卵を採卵したりするわけではなく、あくまでミートスライムが成長する時に残る抜け殻を頂戴するというものだから、悪い話じゃない。
ミートスライムをたくさん増やして、肉を加工したら、水人族やカンデナ獣王国と交易品として扱うのもいいかもしれない。
「真面目すぎる」
「誰が?」
「この国のひと全員だよ。わかんないの?」
「さあ?」
大谷さんが、いよいよ城づくりのために設計を始めていた。そもそも城があった方がカッコイイんじゃない? と大谷さんに城づくりを勧めた聖女ミイが、牛乳を飲みすぎてお腹を壊したような顔で大谷さんの製図作業の邪魔をしている。
「娯楽がないんだよ。娯楽が」
「娯楽……たとえば?」
「そうだなぁ……うーん酒とかギャンブルとか?」
ギャンブルは、ハマると真面目な人ほど危ないので、この国の人はみんなアウトだと思うからパス……となるとお酒、ね。
大谷さん、製図を一時中断して、酒づくりを考える。大谷さん、飲めないわけではないが、お酒を目の前に出されない限りは自分で買って飲もうとは思わないくらいあまり興味がない。だが、聖女ミイは「しかたない。酒だけで我慢してやる」と舌なめずりしながら口から垂れた涎を拭っていて、すでにお酒を飲めるつもりでいる。
「お酒ならカンデナ獣王国にあるでしゅよ?」
それは助かる。大谷さん、図書館に足繁く通い、モノづくりの本を読みまくったので、製造方法は知っているが、日本では1%を超えるアルコール度数のお酒を造ると法律で罰せられるので、試したことはなかった。すでにあるならそれを取り寄せれば済む。
──と思っていたが、最近、カンデナ獣王国とラクレン聖教国との間で小康状態にあったのに急に争いが激化して、大谷さんたちパラメア王国との交易も現在途絶えてしまっている。急変した理由は噂では勇者がその戦いに投入されたとのこと。そういえば聖女ミイが中学校の教え子が勇者でこの異世界にきたと言っていたが、とても手がかかる問題児だと言っていた気がする。
大谷さん、やむなく自分で一から作ることにした。パラメア王国は、国土の大半が森の中ということもあって、蜂蜜はたっぷりあるので
数はそこまでないものの大麦と小麦、あと日本ではあまり馴染がなく沖縄で少量生産されている東南アジアで採れるレンブによく似た果実が森の中にあったので、酵母を作るためにリンゴやレーズンの代用として準備してみた。
ちなみに塩も水人族との交易で潤沢にあるので、水、小麦、酵母、塩がそろっているので、ついでにパンも作ってみようと思う。
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