第18話 大谷さん、紙と日時計をつくる


 謎の種族を撃退したあと、洞窟のなかを調べると魔法陣があった。──大谷さん、魔法陣というものを見たことはないが、たぶんそうだと思う。よく似た模様を映画で見たことがある。


 ──とりあえず消しておく。赤い砂のようなもので描かれているが、つま先で触れると簡単に崩せた。大谷さん、なんとなくだが消しておいた方がいい気がした。


 洞窟のなかはその魔法陣以外には何もなかったので、暇なので試しに洞窟の壁面をスキル〝ハンマー〟で壊してみると赤褐色の鉱石が混じっていた。特徴からして、たぶん鉄……これまで銅は3か所で見つかっていたが、ようやく鉄鉱石を掘り当てた。銅は加工が難しく、強度が鉄より足りないため、大谷さんの構想段階のモノが作れないのがたくさんあったが、これでさらにいろんなものが作れるようになる。


 街からかなり離れた場所にあるので、もしかしたらこの一帯を調べたら他にも鉄鉱石の出る鉱山が見つかるかもしれない。大谷さん、洞窟のなかに炉や保管庫を建築するためのレンガを大量に積んでおいた。今では大谷さんが作らなくても、単純な造りの建物であれば、腕利きの子方たちがサクッと作ってくれるので、頼もしい。大谷さんの方は早く街に戻って新たな構想をモノにするため、足早に鉄鉱山をあとにした。








 大谷さんは街に戻ると以前から聖女ミイにお願いされていた〝紙〟づくりを始めた。彼女は学校を本格的に運用する前にどうしても紙が欲しいとのことで、大谷さんも街のいちばん中央にスペースを残してある城の建築のために設計図を描きたかったので、ちょうど良かった。日本ではカミガヤツリと呼ばれる植物によく似たもので繊維を編み込んだパピルス風な紙で代用しているが、手間が掛かりすぎる上にギザギザしていて、滑らかさがないため、製図をするには不向きなものになっている。


 紙づくりは工程よりもどの植物が適しているのかが、ひと目でわからないところが難しい。和紙であればこうぞ三椏みつまたといった低木の内皮にある繊維が適していると知ってはいる。

 

 まず原料を銅でできたナイフで切り刻み、灰を水に混ぜて上澄みをすくったもの……灰汁で煮て、繊維を取り出す。次に石を丸くえぐった臼で丹念にすり潰し、A4サイズの木枠に張った水のなかで繊維をバラバラになるまでほぐして、細かく編んだカゴでく。最後に天日で干せば完成となるはずだが、天日干しの工程まで来ないと紙づくりに適した植物なのかが、わからないため、植物採取班と実験班に分かれ、人数を動員してなんとか3日で型崩れせず、手触りもそれなりの樹種を発見した。


「オータニ様、例のものが水人族から届きました」


 紙の問題が片付いたと思ったら次は「時間」の問題に取り掛かる。


 ──届いたのは磁気を帯びた石。


 鉱山で磁気を帯びた石……磁石を方々探してみたものの見つからず、かといって自然の雷を利用して、金属に磁気を帯びさせるのは非常に難しく、やっても危険なだけで成功するとは思えない。まあ雷を操る魔獣が見つかれば可能かもしれないが今のところ見つかっていないので、カンデナ獣王国や水人族アクアに聞いて回ったところ、水人族が沖合に浮かぶ無人島でそれらしきものを発見したと報告があったので、お願いして取り寄せていた。


 何度か水人族と共同で生活している海辺の村に足を運んでいるが、その時に大谷さんはある疑問を水人族に質問していた。海で方位磁針も持たずになぜ迷子にならないのか? 常に空が晴れ渡っているなら太陽の位置や夜なら星々の位置で方角を割り出せるだろうが、常に空が晴れ渡っているとは限らない。すると、水人族の村の責任者であり、最初に大谷さん達と交渉をした水人族の姫シェナから感覚的に迷ったことがないと耳よりな情報を教えてもらった。

 

 だとすると彼女たち水人族は、大谷さんが知っている渡り鳥やウミガメと同じく広大な海で迷わない特殊な能力〝磁覚〟を備えていると整理してみると合点がいく。その情報を以前、耳にしていたので、本来の惑星の磁場……N・S極以外の乱れている場所を知覚できると考え、それを伝えたら、みごと探し当ててくれた。


 今や大谷さんの腕では足元にも及ばなくなった精錬と鍛冶の匠となった鉱山全体の責任者であるドワーフの長〝ベイマン〟にお願いして、方位磁針を作ってもらった。


 これで日時計が作れる。

 まず、大きめの銅板を用意してその銅板の真ん中に建築で使う〝下げ降り〟で垂直に銅棒を立てる。


 その銅板を一度、横に寄せておいて、地面を水平器で測りながら水平に地面を均す。そのあと銅棒をコンパスで確認できたほぼ真北を指している北極星と同じ動かない星を見つけ、銅棒をその星に向けるために銅板を支える支柱の長さを細かく調節する。銅棒が真北にある星に垂直になったら、日中に太陽の日の出と日没までを12等分に刻むと、この世界の1時間が導き出せた。ただこの方法は惑星の大きさ次第で1時間が地球の1時間とは違ってくる。だけどこの世界の1時間を出せたら、大谷さんはそれでいいと考えた。

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