第17話 大谷さん、巨大な冷蔵室をつくる


「オータニ様、屋根を平たくしているのはなぜですか?」

 

 大谷さん直属の弟子のひとりが、大谷さんに質問した。

 

ろく屋根にしているのは、川と井戸が利用できなくなった時の保険です」

 

 戦火時の都市防衛において水と食糧の確保が重要になると大谷さんは考えている。都市を包囲された場合、川の上流やスパイが潜入して井戸に毒を投げ込まれると、以前、大きなゴブリンの村が壊滅的打撃を受けたように被害が甚大となる。そのリスクを下げるために各建物の屋根をフラットにして、外周をぐるりとレンガを数段積み上げ、屋根全体を大きな貯水槽に見立てる造りにした。

 

 幸い、大谷さんのスキル「レンガ」は防水性が抜群で、防水処理なんてしてないのにいっさい雨漏りしないのが、この発想の生まれるヒントだった。

 

 数か所、ルーフドレインを設け、栓を抜くと排水できるような仕組みにしており、食事や飲用水に限って使用すれば、少なくとも水で苦しむことがなくなるはず。

 

 あと水の浄化処理方法を国全体に伝えた。

 活性炭は炉の管理者から定期的に配布される。それを使って布、川砂、活性炭、川砂利、小石、もう一度布の順番で銅製の容器に積み重ねて、ろ過を行い10分以上の煮沸消毒したあと急速冷凍する。これで熱に弱い菌と熱に強くても急速冷凍で死滅する菌がいるので、完全ではないが、そのまま飲むよりははるかに飲用水として水質が保たれる。

 

 大谷さん、アウトドアが好きなので、なるべく自然のものを使って、いかに川の水を安全に飲めるかを試していたので、この辺はぬかりない。

 

 急速冷凍の方法は、各所に氷室ひむろと呼ばれる半地下室を作って、中はマイナス1度から3度くらいに冷やした状態を保っているので食材や氷を保管できる大型の冷蔵庫となっている。

 

 パラメア大森林は大谷さんが半年くらい太陽の位置を観測した結果、地球でいう赤道に近いところにあることがわかった。なので雪が降ることがない。自然の雪や氷が利用できないため、ずいぶん前から複数の調査隊を派遣して、パラメア大森林から外れて西方にあるコルマチク山脈で氷を操る魔獣を発見していた。なんとかその氷を操る魔獣を捕獲できないかと悩んでいたが、先月、聖女ミイのスキル「モンスターボックス」により捕獲できて無事、その問題が解決した。そして今月になって巨大な冷凍室……氷室を運用する運びとなった。

 

 これまで常温で保存するために燻したり、塩漬けして水分を抜いたり、天日干しをしたりしていた。だが氷室の登場で生の肉や野菜が冷凍保存できるようになった。雑菌の繁殖をおさえつつ、料理のバリエーションが増えたので、高温多湿なパラメア王国では大変ありがたいものとなった。

 

 氷系の魔獣捜索の調査隊がコルマチク山脈に向かう途中で、大谷さんがもうひとつ発見したら教えてくださいと頼んでいたものがあった。

 

 巨大な湿地帯……大谷さんは見つかった湿地帯へ直属の子方と一緒に訪問して、ある計画を練った。

 

 堤防を造り、溜まっている水を新たに掘った人工水路で湿地外へ排水して干拓を行う。そうすることで広大な水田と畑地にする。堤防は地形をそのまま利用しつつ人工で囲い込まないといけないところを大谷さんのスキル「ショベル」で土砂を盛って、完成させた。その間に湿地帯内を他の元ゴブリンやオーガ達が畑と水田の準備に取り掛かる。

 

 この世界は大谷さんがいた世界と違って品種改良をしなくても原生の稲が食用可能なレベルなので、苗代や本田など基本的なことを伝えた。大谷さんの母親が東北出身なので、子どもの頃に何度か田んぼに行ったことがある。だから水稲農業がとても難しいことは知っている。でも大谷さんはどうしても美味しいお米が食べたい。何年かかるか分からないが、十分な量の米が安定的に収穫できるよう、国民から希望者を募り、ここで農家として働いてもらう手配をした。


 









 

 大谷さんは湿地帯から街へ戻る途中、大雨が降り出したので、急いで近くに洞窟を見つけたので、雨宿りをしていた。奥から声が聞こえるので、様子を見に行くといきなり襲われた。相手は見たことのない頭に二本、角が生えた者で大谷さんへいきなり剣で斬りつけてきたので、オーガの英雄バフォンが大きな斧で受け止めてくれた。

 

 バフォンと謎の襲撃者が激しく剣げきを交わしていると横からエルフの戦士〝アルメ〟が矢を放って襲撃者の肩に刺さり、動きが鈍った相手にバフォンが急所を狙い倒した。

 

「見たことのない種族ですね」

 

 エルフの戦士アルメが、サラサラと湯気が昇っていくようにゆっくりと消えていく異種族の男を見て、大谷さんに教えてくれた。

 

 元オーガのバフォンも知らないそうなので、このパルメア大森林のものではない可能性がある。それにしても攻撃性が非常に高かった。人間……いや、それ以上に危険な種族かもしれない。

 

 大谷さんは横たわってまもなく消えてなくなろうとしている異種族を見てある想像が沸き上がった。

 

 ──悪魔に似ている、と。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る