第9話 大谷さん、野盗に襲われる
えーと、町長の娘は〝カナヲ〟足の速い元ゴブリンが〝ケーケー〟そしてオーガの英雄が〝バフォン〟ね、覚えた。
浮遊床はどういう原理なのかわからないが
浮遊床は水中でもそのまま上昇を続け、水面まで浮上し終えると今度は岸へ向かって進み始めた。
ほぼ丸い形と水深からカルデラ湖だろうと大谷さんは予想した。地底にマグマが無いのは古代人と呼ばれる昔の人たちが大谷さんも想像できないような未知のテクノロジーで地底に住処を造ったんだろう。
浮遊床は湖のほとりへ着岸するとそこで動きを止めた。大谷さん達が岸へ上がると静かに岸から離れ湖の水面へと沈んでいく。
「ここはどこだろうね?」
「ここは我が住んでいた所……に近い」
オーガの英雄バフォンはそう言い、大谷さん達を人間の住む町へと案内しようとすると大谷さんの足元に矢が突き刺さった。
「おっとぉー、おまえ等、どっから来たんだ?」
この世界へやってきて、初めて遭遇した人間……5人いるが、全員顔つきは夜の街でたまにいる危なそうな人種にそっくり。兵士の恰好をしているが、鎧や服がやけに汚れている。
「死にたくなかったら食いモンとカネ、あとその女を置いていきな」
ゲヘヘッと、下卑た笑い声をあげなら、町長の娘、カナヲを舐めるように視線を這わせたので彼女は大谷さんの背に隠れた。
やっぱりそうだ。追いはぎなんてやってるということは、脱走兵で道行く人を襲う野盗にでも落ちぶれたひと達なんだろうなきっと。
大谷さん、相手は人間なので手荒な真似をどこまでしていいのか加減がわからないため、腕組みをして悩んでいると、オーガの英雄バフォンが一歩前に進み出た。
「我に任せろ」
「デカいな、だけどお前ひとりで俺たちを相手に……ひゅぐっ!」
あ……どうしよう。大谷さん、元いた世界では完全に警察に逮捕されてしまう光景が目の前で繰り広げられている。だけど考えてみると向こうが先に仕掛けようとしたから正当防衛ということであまり気にしないことにした。
「おっと! 危ないっす」
パシッと飛んできた飛矢を無造作にケーケーが捕まえた。飛んできた方向と矢の軌道を考えるとケーケーがキャッチしてくれなかったら、大谷さんの胸に矢が刺さっていた。
「炎精の
町長の娘……カナヲが詠唱して炎の矢を飛ばすと茂みに潜んでいた弓使いが木の上から落ちてきた。
皆、すごく頼りになる。やっぱりバージョンアップされた「子方」の影響なのかな?
あっという間に6人の野盗は金品や女性を巻き上げるどころか自分の命をあっさり巻き上げられてしまい、その辺に転がっている。
さて、と……野盗とはいえ、弔ってやるくらいはしようと大谷さんはスキル〝ショベル〟で数十秒で6つの穴を掘り、彼らを弔ってあげた。その代わりと言ってはなんだが、彼らが装備していた剣や斧、弓矢をありがたく頂戴した。どっちが追いはぎかわからないような行為だが、道具は有効活用してあげた方がいいという大谷さん独自のポリシーがその行動を導いた。
やっぱりなー。
大谷さんたちはカルデラ湖から移動すること1日、人間の軍がウロウロしている辺りまでやってきた。
大谷さん達は武装しているので、最初に呼び止められた時に「冒険者なのか?」と質問されたので、「はいそうです」と答え、以降、冒険者ということで通してきた。
「あの……そのひと達をどうするのですか?」
鉄格子つきの馬車……その中にゴブリン達が閉じ込められている。女性や子どもばかりしかいない。普通に考えたら、大人の男性ゴブリンは殺されてしまったのだろう。
「コイツらは奴隷だ。現地売買は禁止されているんだ。買うなら街で買うこった」
カナヲに横柄に答える見張りの兵士が、槍を向けてここから立ち去るよう促す。カナヲがスカートの裾をギュっと握り、なにかを言いかけた時に足の速い元ゴブリン……ケーケーがカナヲの腕を取り、「そうっすよね、失礼しました~」と見張りの兵士に伝えて、彼女を大谷さん達のところまで連れ戻してきた。
「カナヲさん、まわりを見てくださいっす。人間だらけの中であの人たちを救えないっすよ?」
「でも、見捨てるわけには」
「うーん」
大谷さんはケーケーとカナヲが少し離れたところにいる人間たちに聞かれないよう小声でやり取りをしているのをみて考える。
カナヲの気持ちはわかるがここで暴れてしまっては人間の街に潜入することが難しくなる。もしここで事を起こしたら自分達はなんとかこの場から逃げ出せても、女子供を連れて全員が無事に逃げ出せるとは思えなかった。ここはケーケーが言っていることが正しい。──ならば。
「じゃあ、街に行って買って助ければいいと思うよ。その方が他の人たちも助けられるし」
大谷さんがそう伝えるとカナヲは少し考えたが、それがより多くのゴブリンを助け出せるならやむを得ないと自分自身を説得したようだった。
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