第8話 大谷さん、バージョンアップする
「蟻がしゃべった!?」
「蟻じゃないわい、バカもん」
蟻じゃないならこの小さな生き物はなに? しゃべっているんだけど?
「ミーは、CGT─841、識別番号は665F713H01……覚えられんじゃろうからカルベと呼ぶがよい」
「それでカルベ、ここはなに?」
「思ったより順応早くて助かるの……ここはケイセン、
「ふーん、どこかに
「興味薄ぅぅっ!! ……まあよい、ユーはかなり変わっている子だとみた。くくっ地上へ戻りたいのか?」
カルベが小さすぎて大谷さんが目を凝らしてよく見ても、表情がよくわからんが、声はたしかに意地悪そうに笑っている。
大谷さんは戻りたいと答えると、カルベはひとつ頼みを聞いてくれたら教えてやると言ってきた。
「じゃあ手短にお願い」
「それ、ひとに物を頼む
大谷さんにいい感じにツッコんでくれる人……いや、虫みたいなのを腕にくっつけたまま、言われた場所へ向かう。
さっき、大谷さんたちを襲おうとしてきた蜘蛛型のロボット、その壊れて動かなくなったのが、公園のあちこちで見かける魔法陣のようなサークルの上で横たわっている。
「コイツを退かしてほしい」
「これでいい?」
スキル「ショベル」は以前よりも格段にレベルアップしていて、異世界に来たばかりの頃は、ミニショベルカー程度のパワーとアームの長さ、バケットの大きさしかなかったが、今では大きな岩を掬えるほど大きくなっている。
軽々と蜘蛛型のロボットを横へ動かした大谷さんにカルベは興奮する。
「おお、さすが古代人の血を引く者」
「古代人の血なんて引いてないよ」
「いんや、引いておるはず、
守護者? いや、大谷家の祖先は、昔から代々大工職人だったと聞いているけど?
カルベに魔法陣のうえに立つように言われて、皆で魔法陣に入ると気が付いたら、大谷さんだけ宇宙空間に
足元はしっかり床を踏みしめている感触が伝わってくるし、手を伸ばせば窓のような手触りがある。大谷さんはカルベにここはどこなのか質問した。
「宇宙じゃが?」
やっぱり宇宙なんだ。さっき地底にいたのに、テレポートしたのかな?
「あ、そう、じゃあ皆のところへ帰して?」
「つくづく変わった男だの……ここは惑星操作船」
話を元に戻す。このカルベ……虫みたいなのもなかなか人の話を聞かない。
古代人が作ったこの宇宙で周回軌道を描いている操作船だそう。古代人がこの惑星から去った今、惑星が滅びるまで観測するのが
「ユーさえ、良ければここを好きに使ってもよいぞ」
「え、いいよ別に」
本当にどうでもいい。大谷さん、異世界でお金を稼いで早くローンを返済して、母親を安心させたい。
「……まあよい、とりあえずこれを授けよう」
ちょっと熱い……大谷さんの右手人差し指の中に模様が浮き出た。
「古代人の系譜にのみ与えられる印……その名も
中二病感染者なら踊り狂って喜びそうだが、残念ながら大谷さん、趣味はアウトドアで、ソロキャンプが好きなので、興味が湧かない。
「ふーん」
「興味無さすぎぃぃっ!」
そんなこと言われても興味が湧かないのは仕方ない。大谷さん、嘘をつくのはギャンブルの時だけだと決めている。
「じゃあ帰る」
「達者でな」
次に気が付いた時には、先ほどの魔法陣のうえに立っていた。
足の速いゴブリンや町長の娘が大丈夫かと気を使ってくれるが、大谷さんは平気だと答えた。
それはそうとあの虫……カルベが地上まで連れていってくれる約束だったのに大谷さんだけ地底に戻ってしまった。
「オータニ様、それは?」
町長の娘に聞かれて大谷さん気が付いた。あの右手人差し指の爪の模様が光ってある方向へ赤い光が伸びている。
この光に向かって行けばここから出られるってことかな? 大谷さんたち一行は障害物などを迂回しながら真っ直ぐある方向を指している赤い光の先を辿っていく。
「えーと、この鳥のモニュメントに意味があるのかな?」
大谷さんの呟きと同時に立っていた床が上昇し始めたので、同行しているメンバーはすごく驚いている。でも大谷さんはエレベーターのようなものだろうとすぐに割り切る。それよりも……。
「カルベじゃ、ユーのスキルをバージョンアップしてやろう」
浮遊して上昇している床の中央にある鳥の石像の目が光ったかと思うと、先ほどのカルベの声がスピーカーのように辺りに響く。
鳥の石像の目からビームのようなものが大谷さんのおでこに照射された。すると右手人差し指の紋様が反応し、七色に輝きだした。
「ユーのスキル〝子方〟を連れの者どもにもう一度やるとよい」
子方のスキルは、魔物限定のスキルでエルフやドワーフに効果はなかった。だが今のバージョンアップで彼らにもその権能が及ぶようになったそうだ。
「じゃさっそく」
大谷さんは行動をともにしている〝町長の娘〟〝足の速い元ゴブリン〟〝オーガの英雄〟に子方のスキルを発動したら、バージョンアップ前は一日置かないと効果が出なかったが、大谷さんの目の前ですぐに変化が訪れた。
「名前?」
魔物たちは、言葉は話せるのに固有の名前を持っていない。それはこの世界の理なのか、彼らもこれまで、ひと言も口にしなかった。
「お名前をくださり感謝いたします」
「俺っちも嬉しいっす」
「感謝……これからはより一生懸命、
三人とも見た目は変わらないが、頭の上に名前が表示されるようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます