第7話 大谷さん、穴に落ちる



「人間の街、ですか?」

「はい、どの程度の建物を造れるのかが見たくて」


 建築物をみれば相手の文明レベル……もう少し言うと相手の軍事力がだいたい把握できる。亜人や魔物が石器時代でしかないのに、彼ら人間が中世レベル以上の武器を……。例えば銃火器を開発していたら、頭数や体格で勝っていても、例えどんなに策を弄したとしても人間には敵わないだろう。それぐらい彼ら人間の文明レベルを見ることが大事だ。まともに戦える相手なのか、逃げの一手を打つしかない相手なのかを接敵する前に見極める必要がある。


 それと大谷さん、単純に見たこともないような建築様式が見れないかとドキドキわくわくしている。


 大谷さん、見た目は人間なので、上手く入り込めると思う。ゴブリン達も人間の姿をしているので、大きく目を見開かない限りは元魔物だとバレる可能性は低いと思われる。


 行くメンバーの相談をした。ゴブリンの今は町長になった元村長の娘と足の速いゴブリンと大谷さんとオーガの英雄の4人。


 オーガというのは、大谷さんたちが水人族のいる海へ行っている間に街にやってきたこの町では一番の新参者になる。一人ひとりが屈強な戦士で、身長が全員2メートル以上ある。彼らはゴブリンの上位種にあたる種族だそうで、人間たちとの争いに敗れ、この街まで逃げ延びてきたそうだ。


 彼らの敗因は、ずばり人数が少ないこと。オーガ達の住んでいた村には、女性や子ども、お年寄りを合わせて20人くらいしかいなかったそうだ。戦えるものは10人にも満たないのに対し、人間は数百人という軍勢で村を襲撃して、ほとんどのものがそこで命を落としたそうだ。


 この街に流れ着けたのはわずか3人……素手で人間を数十人を戦闘不能に陥れたオーガの英雄と屈強な女戦士。あとオーガとは思えない程、カラダの細い男性の3人のみ。


 彼らも大谷さんの子方にすると姿かたちが人間に変身した。体格が大きすぎて目立つが、護衛にはもってこいだと大谷さんは思った。



 ──町から出て、森の中を歩くこと10日あまり、問題が発生した。


 大谷さん達は穴へ落ちた。

 それもただの穴ではなく地底深くまで……。不幸中の幸いなことに真っ逆さまではなく、どちらかというと巨大な滑り台を滑り落ちていく感じだったので、地底に到着しても怪我することなく全員無事だった。


 それにしても、あの穴って、罠の類だったのだろうか? 歩いてたら突然、足元が無くなるように巨大な穴が出現した。


 これについては、元ゴブリンの町長の娘が教えてくれた。

 昔からこの広大な森では、行方不明になるものがたくさんいて、巨大な魔獣に喰われたとか、大谷さんの元いた世界でいう神隠し的なものにあった等と噂があり、この落とし穴がその正体なのでは、と教えてくれた。


 そうなると、二度と地上に戻れないって意味になる。

 地底深くに落ちた割には、床や天井、壁などにキラキラと光る粒の模様みたいなのが散りばめられている。そのため、満月の夜くらいの明るさはあるので、歩いたりするぐらいには問題はなさそう。


 しばらく洞窟の中を歩いていたが、角を曲がったところで驚いた。

 ドア、それも自動ドアで近未来的な形をしている。質感は金属のようだが、金属特有の冷たさがなく、色んな内装の建材を扱ってきた大谷さんでもなにで出来ているのかがわからない。


 自動ドアに町長の娘、足の速い元ゴブリン、オーガの英雄は身構えているが、ただの自動ドアだ。なんてことはないが、勝手に開いた瞬間、皆、ビクゥゥッとカラダを震わせていた。


 自動ドアの先は大谷さんを驚かせた。


 感想をひと言で表すと「不自然な自然」──空には太陽が昇って燦々と降り注ぐ陽光と熱気で目を細めてしまう。見渡す限りどこまでも続く森林公園のような景色……緑が生い茂り、花が芽吹いた様は美しいといえる。それなのに大小とサイズがまちまちな球体が、空中に浮かんでいて、幻想的な光景なのだろうが、どこか生々しさが拭えない。


『ブゥーーーンッ』──聞くだけで不安になる異音が鳴り響くと空が赤くなり、四方から大砲の弾のように大谷さんたちのところへ飛来してきて、地面に落ちる瞬間に6本の脚が生えて手前で着地するともの凄い速さで大谷さんたちを取り囲んだ。


 これが、おそらくこの地底に落ちたものが誰ひとり帰ってこなかった理由かも!?


 魔物や魔獣ではない。どちらかっていうとSF映画とかに出てきそうなロボットにみえる。

 赤外線のような光が大谷さんたちを頭のてっぺんから、足のつま先までスキャンすると、物々しい赤い空は、元の透明な空に戻り、まわりを取り囲んでいた蜘蛛型のロボットも赤かった目が青くなり、何事もなかったかのようにゆっくりと四方に散っていった。


「よお来たな」

「ん?」

「ここじゃ」

「どこ? イテっ!」


 大谷さんの腕がチクっとしたので、まじまじと見ると黒い点……蟻くらいの生き物が大谷さんの腕にくっついていた。





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