11話~20話
第11話 大谷さん、森の中を行く
「異端者はどこですか?」
「いえそれが……」
グリゴール教の司祭がようやく先ほどの異端者たちを追いかけた兵士たちに合流した。
谷底に落ちたそうで、深さは底が見えないほどなので、まず助からないはずなのだが……。
「これは?」
「はい、ヤツらが谷底へ落ちた時にいつの間にかそこにありました」
谷底の近くにある大木へ繋がった縄が谷底へと続いている。
「この縄を切りなさい」
「先ほど試したのですが、切れませんでした」
大きな斧で何度も切断を試みようとしたが、ダメだったらしい。触ってみると、なるほどたしかにただの縄ではないのはわかった。鉄、よりも硬いもの……こんなものがこの世に存在してはいけない。ましてや異端者がこのようなものを扱うなど、教団として到底看過できるものではない。
「木の方を伐りなさい」
「ですが……うっ」
「そこのアナタ」
「は、はいっ」
「すぐ木を伐りなさい」
「わかりました」
司祭に説明していた男が倒れたのをみていた近くの男は司祭から指示されて、怯えながらすぐに行動に移った。司祭は大木を切り倒す準備をしている兵士たちから目を背け、崖下に視線をやった。
「逃がしませんよ、絶対に……」
大谷さんたちは、崖の途中にぶら下がっている。
谷底へ落ちる瞬間、間一髪でスキル〝テレハンドラー〟でワイヤーロープを近くの木に巻き付けたので、助かった。だけど、鉄格子の車体に繋がれた二頭の馬が下で苦しそうにもがいているので早く谷底へ降りなければならない。
大谷さんは、ワイヤーロープをどんどん伸ばしていき、しばらくしてようやく谷底へ到着したと同時にワイヤーロープが緩んでしまった。直径50ミリの極太なので100t以上のチカラに耐えられるものを彼らの武器で切るのは難しいはず。可能性があるとすれば、木の方を伐ったんだと思う。
「心配しないで、私たちも元ゴブリンです」
バフォンの怪力で、鉄格子のカギを壊してもらったカナヲが、檻の扉を開けても怯えて出て来ないゴブリン達に優しく声をかける。
ゴブリン達は恐るおそる檻から出てきて、始めにカナヲがこちらの事情を説明したうえで、捕まった経緯を教えてもらった。
この辺りでは一番、規模の大きなゴブリンの村にいたが、数か月前に人間たちが攻めてきたが、人間より数に勝るため、数度に渡る戦いで人間たちを撃退できたそうだ。
しかし、ある日、死にかけの人間の子どもが村の前で倒れていたそうだ。
すぐに殺すべき、という意見があがる一方、野垂れ死にしそうになっている子どもを人間だからといって酷い仕打ちはできないと、人間の子どもを保護するべきだという意見がゴブリンの女性陣からあり、村長がやむなくその人間の子どもを保護したそうだ。
人間の子どもはとても素直でゴブリン達も数日で心を開いたが、1週間後に村の中央にある井戸から汲み上げた水を飲んだゴブリンが次々と血を吐いて倒れて、大騒ぎになっているところにあちこちで火の手があがったそうだ。
その後、人間の子どもの姿がこつ然と姿を消して、翌日、人間の兵士たちが攻めてきて、そこでほとんどのゴブリンが殺されたそうだ。
そして、その場で戦いに敗れて死んだゴブリンがまだマシに聞こえるほど悲惨な話を聞いた。捕虜として捕まえた戦士ゴブリン同士をどちらかが死ぬまで闘わせたり、勝った方も一斉に弓矢で射られて誰が仕留めるか競ったり……女性のゴブリンは大谷さんでも耳を塞ぎたくなるような酷い仕打ちをしたりと、彼ら人間がゴブリン達を蹂躙して楽しんでいるのがわかった。
うーん、やっぱり人間は残酷だなぁ、大谷さんの元いた世界でも中世以前はこういった略奪行為は当たり前だっただろうけど、こちらは相手が魔物だからなのか、それとも頭のおかしい司祭のいる宗教が危険なのかはわからないが、たぶん大谷さんがこの世界に最初にやってきた時に人間の街に訪れたとしても異端者として拷問に掛けられていたかもしれない。
大谷さん、人間とも争わずにあわよくば上手く交易を結びたかったが、ちょっと無理かもしれない。
「この場所……知っている。我が連れて帰る」
バフォンはこの辺りの地理に明るいらしい。この谷底を北へ向かえば人間たちの生活圏へ、南に下れば、大谷さん達の本拠地である村や町に戻れるそうで、彼が捕虜にされていたゴブリンの女子供を自分達の町へ連れて帰ると申し出てくれた。
「じゃあその前に」
捕虜にされていたゴブリン達に〝子方〟の説明をして、納得してもらったうえでスキルを使った。今の子方は、例の虫みたいなの……カルベにバージョンアップしてもらったものなので、途中で魔獣や人間に襲われても自力で逃げるくらいはできると思う。
バフォンと捕虜にされていたゴブリン達と谷底で別れた大谷さん達は、谷底を北に向けて進み始めた。途中、天気が悪くなり、近くにあった洞穴で雨宿りしたりしながら約2日進んだところで先が行き止まりになっていた。そのそばに谷底から上がる坂道を見つけて、谷底を抜け出せた。
大谷さんと行動をともにしているのはカナヲとケーケーのふたりだが、彼らもこの場所は初めて訪れる場所なので、3人とも慎重に森の中を歩く。
ちなみに大谷さんとケーケーは、エルフの生き残りで腕利きの戦士に森の中での潜伏方法や弓矢や自然の枝などを利用した罠での狩りの仕方……樹液がそのまま飲める樹種の見分け方、食用に適した葉や木の実、キノコの見分け方などひと通り教えてもらっていたので、装備の大半を人間に追いかけられた時に落とし、手持ちの少ない食料もバフォン達に全て渡したが、問題なかった。
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