第22話 大谷さん、対魔兵器を作る


 角の生えた連中は意外と強かった。大谷さんたちパラメア王国の精鋭を相手にかなり粘りをみせたが、こちらは数が多い。多少の犠牲は出たが、角の生えた種族を倒すことができた。それにしても最後のひとりまで向かってくるなんて、とても危険な存在だと感じる。人間なんかよりよほど厄介な相手だと言わざるを得ない。そんな連中が国の中枢であるこの街の外れに現れたのは由々しき事態だと捉えねばならない。大谷さんたちって、もしかしてかなり危険なことに首を突っ込んでしまったかもしれない……。


「ありがとう。助けてくれて」


 白い羽を生やした少女。歳は15・6歳くらいだろうか。今の戦闘で足を怪我したのをみたので、カナヲにお願いしてポーションで治療を行うと驚いた顔をみせた。


「よければ、なぜ争っていたのか理由を教えてもらえ……」


 大谷さんが言い終わる前に気を失って崩れるように倒れてしまった。


 










 彼女が次に目が覚めたのは、次の日の朝……。

 昨夜はカナヲが町長オズの屋敷にある客室へ連れて行き、面倒を見てくれた。彼女が目が覚めたということで、大谷さんが指揮を執っている城建設の現場事務所へふたりで顔を出した。


「アピ・ドラコル、たぶん龍人族最後の生き残り」


 龍人族というのは遠い昔、この地を含めた大陸すべてを支配していた種族で、数千年前に神の使いに敗れ、ここから西にあるコルマチク山脈よりもさらに奥にある秘境で今日こんにちまで隠棲していたそうだ。だが半年ほど前に魔族と名乗る連中が隠れ里を襲い、そこで多くのひとが犠牲になったそうだ。アピは龍人族の王の血を引く父親にかばわれながらコルマチク山脈を抜けたが、その父もついに討たれ、残されたアピはひとりでここまで逃げ延びてきたそうだった。


 灰色のショートボブで前髪で右側の片目が隠れている。華奢な体つきだが、昨日みた時は2メートル近い魔族を一撃で仕留めていた。


 魔族たちの狙いがわからない。彼女だけをターゲットにしているのか、でも半年前鉄鉱山の洞窟のなかでみた赤い魔法陣はいったいなんだったのだろうか?


 大谷さん、北に人間の勢力、東に友好国であるカンデナ獣王国に隣接しているため、北にのみ防衛意識が向いていた。なので国家が存在していない西側はほとんど手付かずのままにしていた。


 大谷さん、魔族の強さを見て正直驚いた。大谷さんの子方……スキルの能力は聖女ミイの分析によると子方になる前後で約10倍以上の能力の差があるのではないか、とのことだった。ちなみに頭の上に現れる名前は本来なら異世界……大谷さん達の元居た世界の住人にしか現れないものを大谷さんが〝ネームド〟処理をしたことで、彼らゴブリンやオーガのみならず、エルフやドワーフたち亜人にもその効果が現れたのではないか、ということを教えてくれた。

 

 まだ攻めてくるとは限らないが、あの好戦的な連中がみすみす近くにある国を見逃してくれるのか? 大谷さん的には最悪の事態を想定した方がいいと自分の勘が言っているので信じることにした。昨日、彼女……龍人族アピ・ドラコルが襲われている時、仮に彼女を見殺しにしていたとしても連中の矛先は次に大谷さんたちに向けられていたのではないだろうか?


 大谷さんが以前、人間の開拓の街ラクエリトスに向かった時に拝見した人間の平均的な戦闘能力は大谷さんの元居た世界のひとと比べてもそう変わりはなかった。だがこのパルメア王国の元魔物や亜人たちの強さは人間のチカラの比ではないほど逞しくて頼もしい。地球の人類最強の人間よりおそらく強い。そんな化け物のような集団でも彼ら魔族……それも素手のもの相手に圧倒できなかった。


 だとすると非常にまずい。まず彼らの〝数〟がわからない。大谷さん達パルメア王国は遠方に住む異国で虐げられている魔物や亜人たちがこの国の噂を聞きつけて、どんどん増え続けていて現在、5,000人を超える規模になっている。その内戦闘に参加できるものは半分より少し多いくらい。仮に万の単位で攻めてこようものなら、一か月も持たずにパルメア王国は再び滅び、この2年で芽吹いた文明が潰えてしまうだろう。


 現在、カンデナ獣王国はラクレン聖教国と全面戦争に突入しているため、助力を受けることができない。


 大谷さんの打てる手はふたつ。西側の防衛体制を整えつつ、強靭な魔族を打ち破る〝兵器〟の開発を行うこと。


 大谷さんは、エルフのアルメとバフォンに西側の農耕地帯に長城を築くようお願いして、自身は兵器づくりに精を出すことにした。


 









 聖女ミイにお願いしてポータルを作ってもらい、それをアルメに持たせ、アルメやバフォンが農耕地帯に到着後、ポータルで移動した大谷さんは、100個単位のレンガを10万個生成した。長城づくりは彼らに任せて、ポータルで戻った大谷さんは、バリスタと呼ばれる据え置き式の大型弩砲と連弩と呼ばれる機械式の連射するいしゆみを作り始める。


 バリスタは大人の背丈ほどの長くて極太の矢を放つ装置で、試したところ、数十メートルくらいの距離ならレンガの壁を貫通できた。バリスタを荷車の荷台に乗せてそれを三眼狼サーヴォルフと呼ばれる大型の魔獣に曳かせる。


 次に連弩だが、バリスタよりも構造がやや複雑で大谷さん、自動で全矢を射出するフルオートタイプではなく、中国の三国志に登場するあの有名な軍師、諸葛亮孔明が改良したとされる諸葛弩という連弩を模倣してみたら上手くできた。


 開発と迎撃準備に注力する。できる限りのことを自分達の限界ギリギリで行っていく。





 ──そして3ヵ月が経った。

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