第5話 大谷さん、街づくりを始める
村から少し離れたところに木材を調達する場所として使用しており、他に利用できないかと広場を以前から少しずつ拡げていた場所がある。そこに怪我だらけでやせ細ったゴブリンとドワーフの人たちが休んでいる。
200人以上はいるこのひと達は、北方にある山と森の住人だそうだ。人間との争いでここまで逃げてきた人たちで怪我人も多く抱えている。
大谷さんのことを事前に村の元ゴブリン達がきちんと説明してくれていたのにもかかわず、大谷さんを見ただけで、剣呑な空気が彼らに流れた。
彼らから先に話を聞きとりした村で一番足の速い元ゴブリンが彼らの経緯を大谷さんに説明してくれた。
ドワーフとゴブリンも北方でも山と森に住んでいて、良き隣人として山で採れる山菜と森の果実を交換したりと多少の交流もあったそうだ。この世界のドワーフは、イメージ通り背が低いがチカラが強く手先が器用だが、鉱物を精製する技術は持っておらず、ゴブリン達と似たり寄ったりな生活を山の洞穴で送っていた。
ある日、太陽にキラキラと反射する鎧を着た人間がたくさんやってきて、ドワーフたちを洞穴から追い出したそうだ。
ここまでの話を聞いて分かったのは彼ら人間は鉄などの金属でできた鎧で身を包み、鉄でできた剣や斧、槍で武装しているということ。
対するドワーフたちは木と石でできた原始的な武器のみ。いくらチカラが強くても人数が少なく武器の性能もはるかに劣っていたので、まったく勝ち目がなかったそうだ。
その後、隣人であるゴブリン達と合流したものの、それでもまったく歯が立たず、南側の森の奥深く……ここに逃げてきたそうだ。
人間がわざわざ彼らドワーフの住処を奪うのは、たぶん鉄とか希少金属が眠っているからではないだろうか? 人間というのは資源のためなら平気で戦争を起こし、人々を苦しめる生き物。この世界の人間もそう遠く外れていないだろうと考える。
前々から思っていたが、この世界の人間って、彼らゴブリンやエルフから聞いた限りでもかなり悪い存在のように聞こえる。「オータニ様は人間だけど良い人間」とよく言われる。まるで大谷さんの元いた世界で語られる悪魔のような存在だと言わんばかりに聞こえる。
逃れてきた彼らとひとつの村で生活するのは無理がある。そもそも十分な広さがなく、森を切り拓いて畑を開墾するにしても、かなりの時間がかかるだろう。
「村長、こういう場所はありませんか?」
大谷さんは、村長やエルフの女王たちにある土地の条件を質問した。
✜
「ここなら大丈夫ですね」
北方から逃れてきたゴブリン達も「子方」にした大谷さんは、炭鉱と村に30人ばかりを残し、避難してきたゴブリン全員を連れてこの場所へやってきた。
ちなみにドワーフ達は20人ほどいたが、全員、炭鉱へ預けた。なんとなくだが、それが正解なような気が大谷さんはした。
大きな川に面した平たい場所で、川の両岸に橋を架けて、この場所に「街」を造ろうと考えている。
大谷さんは、この場所についてすぐにスキル〝ショベル〟で、地面を溝状に掘っていき、地面に巨大な設計図を描いた。住居エリア、商業スペース、耕作地、道路、憩いの場など……。あと、来ないに越したことは無いが、人間たちが攻めてきた時に備えて、川の上流から水を引き込み、堀と外壁を造ることにした。
「では、皆さんは先にこちら側の岸の建築や造成をしていてください」
「はい、オータニ様はなにをやられるのですか?」
「私は橋を架けたいと思います」
「橋……ですか?」
「はい、少し時間はかかりますが、ひとりで造ります」
大谷さんには既に10人の腕利きの子方がいて、彼らが率先して、新しく参加した元ゴブリン達に建築のいろはを教え始める。
大谷さんは建築が専門であるため、建築の一部として、人が通れるような小さい橋なら作ったことがあるが、大きな橋を造った経験はない。
でも、同じ構造物だし、なんとかなるでしょ?
常にポジティブな大谷さん、普通なら失敗するのが関の山だが、大谷さんにはスキルと言うこの異世界では反則級の技がある。
大谷さん、始めにこちら側に高さ20メートルくらいの大きな塔を建てることにした。家の基礎よりもはるかに下、5メートルくらいの深さまで掘って、河原の石を敷きならしたあと、銅棒を鉄筋の代わりに並べて配置して。数センチの厚さになるようコンクリートを流し込む。その後、また数十センチほど土で埋め戻して、また銅棒、コンクリートと同じ工程を繰り返す。
コンクリートを作るのはかなり苦労した。炭鉱で銅と一緒に掘って出てきた石灰石を砕いて炉で焼成させてできた生石灰に加水、熟成させて消石灰を作った。それに川砂と水を混ぜるとモルタル、更に河原の石を混ぜるとコンクリートができた。大谷さん、コンクリートができた時はちょっと嬉しかった。
基礎をしっかり造ったあとは、割と作業は早かった。積み木感覚で、ピタピタとレンガを円形に積み重ねていき、10日ほどで片方の主塔が完成した。
その後、小舟を造って、対岸に渡り、まったく同じ大きさの主塔を造った。
あとは、そこまで難しくなかった。両方の主塔に取り付けた縄を編み込んで、木の板を並べると吊り橋が完成した。
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