31話~40話
第31話 大谷さん、決着をつける
「ここで我と戦うとは不憫なものよ」
「どこだろうと関係ない。私はもう負けない」
アピは翼を広げログロームの元に接近し真横から頭部へ蹴りを放った。だが、激しい衝撃による風が吹き去ると、蹴り足とログロームの頭部の間には薄い氷が邪魔をしていた。
「無から氷を生成もできるが水があれば、我に触れることはもはや不可能」
アピは軌道を複雑に変えながら背後へと後退する。アピのいた場所に水面から次々と氷の槍が突き上げられていく。
アピはこれまで何度も誰かに助けられてきた。秘境の隠れ里から逃れる時に村の人が犠牲になり、コルマチク山脈を抜けたところで父がアピを庇い命を落とした。パラメア王国でも兵士たちに助けられ、つい先ほどもオータニ様に危ういところでその命を拾ってもらった。
ずっと己の非力さに嘆くだけだった。
でも、オータニ様からに先ほどある言葉をもらった。
過去に守ってもらった分を直接返せなくても、これから他の誰かをそれ以上に守ってあげれば、キミを守ってくれたひとはきっと喜ぶはずだよ、と……。
オータニ様は地球の日本という異世界の国で生まれ育ったそうだが、その国には「恩送り」という言葉があるそうだ。
恩を受けたら、別の誰かにその恩を送る。その温かい心を受け取ったひとはまた別の誰かに善意を送り、その先へと繋げていく。それが社会のなかに溶け込み奉仕する精神と徳性を高めることになると。
だからアピは受けた恩をオータニ様とそのまわりのひと達へ送ろうと思う。この世界でかつて〝魔王〟と呼ばれた一族の末裔だけど、今度はこの世界を守れる存在になりたい。
チカラで土地や人間を支配しようとする連中なんてロクな輩がいるはずがない。オータニ様を……そしてあの誰もが笑いあえている国を無くそうなんて、ふざけた所業を私は断じて見過ごせない。
強い想いが引き金だった。オータニ様の「子方」を頂戴し、自分の中に眠る蕾が開花する。
龍人族において稀に顕現する才能
かつて遠い祖先がそれぞれ覚醒したものがいたと聞いていたが、同時に覚醒したのは、史上初となる。
アピを串刺しにしようと氷の槍が無数に襲ってくるが、触れることすら敵わない。煙となって霧散していくのを尻目に右手の拳にありったけの力を込める。
ログロームもまたその尋常ではないエネルギーの塊に最大の警戒をもって応えようと彼のまわりに何十枚と氷の障壁を展開しはじめた。
傍からみたらおそらく赤い流れ星にみえるに違いない。赤い軌跡を残し、幾重にも張られた氷の壁を貫きログロームを討った。アピは直線軌道でそのまま水中に没し、それでもなお空洞の壁を穿ち貫通するとコルマチク山脈の山々の麓に飛び出していた。
アピが風穴を開けたことにより、そこから大量の水が山の麓へと凄い勢いで放水されていく。アピは皆の元にどうやって戻ればいいのか分らなかったので、この場で待機することにした。地底湖と思っていた山の中にたまった地下水がある程度抜けたら、この穴を辿って戻ればいい。
水の勢いが減っていき、チョロチョロと細い放物線を描きはじめたので、そろそろ穴の中に潜ろうかとしているとオータニ様と他の人たちがアピが開けた穴から顔をだした。
「アピはこれからどうします?」
「私は一生この身をオータニ様に捧げたいと思います」
「げっそれって生涯契約……結婚って意味じゃ」
「いえ、そんな私ごときが、オータニ様の奥方になんて……末席にでも加えていただけるなら本望というかその……」
「人間はわかりませんが、亜人や魔物は
大谷さんがアピの今後の身の振り方を確認したら、聖女ミイが興奮しだして、アピも動揺し始めてたがカナヲがまとめてくれた。え、なんの話をしているんだろう?
「ではパラメア王国は龍人族アピ・ドラコルを正式に国民として歓迎します」
「オータニ様、ありがとうございます」
泣くほどのものだったのか、アピは涙でくしゃくしゃになった笑顔を大谷さんに向けた。
「それでコイツはどうするの?」
「は? 別にどうでもいいし」
バフォンに担がれているのは魔族幹部のペダ。大谷さんがバフォンにお願いして連れてきてもらった。聖女ミイが今後の扱いを決めなくていいのかと発言した。
「どうします? 改心するなら国民として迎え入れてもいいですよ」
「べ、別に改心しろって言われたら改心してやってもいいし///」
大谷さんが話しかけたら、なんか顔が真っ赤になっている。
「ほう……よし、大谷、コイツの
聖女ミイが邪悪そうな笑顔を浮かべた。なんか性格が似ているからいいかもしれない。聖女ミイに魔族ペダの世話を一任した。
さて、すぐにパラメア王国へ戻ろうかとも考えたが、龍人族アピも故郷のことが気になっているだろう。一度彼女の故郷へ寄ってから帰国する方向で皆に相談したら、快く了承してもらった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます