第32話 大谷さん、隠し部屋をみつける


 アピの生まれ故郷に着いた。

 滝の裏、さらにそこからに水中を潜らないと辿り着けない秘境。


 ほぼ垂直にそそり立った岩山で、空を飛べるか、大谷さんのいた世界でいうエイドクライマーでない限りは先ほどの出入り口を使わないと辿り着けない。


 争ったあとがいまだに生々しく残っている。カラダの大きな遺体は男性だと思われるが、中央に伸びた通りにたくさん横たわっており、女性や子供の遺体は焼け落ちた建物の灰の中から発見された。


 彼らは空を飛べるはずだが、空中に飛び上がることさえ許されないような奇襲を受けたのか……その真実をアピの口から聞くのを今はやめておくことにした。


 大谷さんは奥の方にある龍人族の墓地にスキル〝ショベル〟で人数分掘り、手厚く弔った。

 

「これは?」

「それは私たちの守り神とされている像です」


 無残に荒らさ焼きただれた村の中で唯一、まったく影響を受けていない像があった。像、と言っても卵みたいなカタチをしていて、なんの像なのかよくわからない。


「やめた方がいいし、雷が落ちるし、べっ別に心配なんかしてないし///」



 大谷さんが近づいて触ろうとしたら魔族のペダが声を上げた。


 ペダに詳しく事情を聞くと、魔族がこれを触れようとしたもの全員が天から雷が落ちて消し炭になったという恐ろしい話を聞いた。


「いえ、私たちが触っても問題ありません」


 そう言いながら龍人族アピが無造作に像に近づき表面を撫でてもなにも起きなかった。


 龍人族以外のものが触ったら、感知して裁きの鉄槌を下す的なものかな? 大谷さんが腕組みして考えていると、聖女ミイがこう言った。


「ケーケー、触ってみろよ」

「え、いやっす」

「おりゃ」

「ぎゃぁぁぁぁ、ってあれ? なんともないっす……ってか、聖女様、ど畜生っすね?」


 聖女ミイに突き飛ばされて、像に触れて叫ぶケーケー。なんともなかったが、ケーケーはますます聖女ミイに不信感を持ったと思う。


「オータニ様!?」

「ほら、なんともない……ってあれ?」


 カナヲが呼び止めたがもう遅い。大谷さんも触れてみたがなんともなかった……わけではなかった。


 石像がひび割れる。ひび割れた部分が七色に光り輝くと、あまりの眩しさに目を瞑っている間に光が消え失せた。もう一度、卵のカタチをした像が乗っていた台座を見たが、卵の像がこつ然と姿を消していた。


「あそこでしゅ」


 兎人ルゥの見上げる方向に目を向ける。大谷さん達のかなり上に反り立った崖の上に金色の鳥が止まっていた。あの眩い光のなかで金色の鳥が上空へと舞い上がったのを見届けたのは、斥候の鑑といえる。


「なんだかずっとコチラを……いや、オータニ様を見ている」


 視力が遠くの草むらに見え隠れする昆虫さえ見分けることができる。エルフの戦士アルメが金色の鳥を見上げながら教えてくれた。


「金色の鳥の言い伝えなら聞いたことがあるでしゅ」


 兎人ルゥは、獣王国カンデナの王城にある書庫の奥にある所蔵庫に保管されているという神獣の伝説を噂で聞いたそうだ。


 ルゥも人から聞いた話なので、はっきりとした情報ではなさそうだが、金色こんじきの翼を持つ神獣がこの世界に現れる時、異界の扉より魔王が現れ、この世に渾沌と死をまき散らす。と言われていて、ラクレン聖教国やその北方にある人間が統治する国々で信仰されているグリゴール教でも勇者と聖女伝説の中に金色の聖獣に関係する話が出てくるそうだ。


 魔王……それってあの魔族第2万なんたら師団の師団長のことかな? アピが倒しちゃったけど?


 でもまあ遠くにいるし、動けるようになって喜んでいるんじゃないかな?


 ──だと思っていたけど。


 隠れ里から出て、パラメア王国へと帰国するべく東へ進んでいるとずっと後を尾けてきた。すごく遠くにいるが大谷さん達を追ってきているのは間違いない。さびしいのかな? それとも大谷さん達についてくる理由が他にあるのか?


 数日ほど後ろから尾けてきていた金色の鳥がコルマチク山脈の麓に差し掛かった辺りで先回りして前の方へいたので、気になった。


 動かない。ゴツゴツとした岩場の上に止まっているが、大谷さんの目測では20メートル以内まで近づいても逃げようとしない。この距離まで近づいたのは初めて。


「下になにかあるでしゅ」


 兎人のルゥが、金色の鳥が止まっている岩場の下あたりに不自然な点を見つけたようだ。彼女が近づいていくとようやく金色の鳥が飛び立った。


「隠し扉があったでしゅ」


 ルゥが扉を開けると、コンマ1ミリの継目もない滑らかな自然石が扉の外側にくっついていたので、この場所を何万回通っても大谷さんは気が付かない自信がある。


 先には小部屋があって、奥の壁に円形の壁画があり、太陽と月と星の印が描かれている。アナログ時計のように12に分けられて模様と文字が刻まれており、太陽は12時の位置、月は4時、星が8時の位置にそれぞれあって、読めない文字がその他の9か所を埋めている。


 手前には書見台のような台座が据えてあり、奥の壁の模様と同じカタチの円盤が載っている。唯一の違いは台座の円盤にはてっぺんの部分に逆三角の印がついている。


 その隣に空を見上げる少女の絵が描かれており、夕陽が沈み、月が昇り、星が瞬いている。


 大谷さん、試しに台座にある円盤を動かしたら、奥の壁の壁画も同じ動きで回転する。読めない文字のところは、なにも反応しないが太陽と月、星のところを通ると、毎回ではないが、奥の方で「ガチッ」と重苦しい金属の音が聞こえた。


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