第25話 大谷さん、敵地へ潜入する
「さて……儂の出番のようじゃの」
ドワーフの長ベイマンが自ら鍛え上げた巨大な大斧を肩に提げて割れるように下がっていく兵達の間を進む。
「●す、●す、●す、●す!」
全滅した魔族の兵などお構いなしに敵将である金髪の少年が両手に小型の剣を持って叫びながら突撃してくる。激しく火花を散ったがすぐに止んだ。
「むっイカン!」
「テメェが大将だな!」
ベイマンと一度だけ切り結んだ敵将は、ベイマンを無視して町長オズに突進してきた。オズは戦闘面に自信がない。彼を守ろうと敵将の行く手を遮る元ゴブリン達が一瞬で切り伏せられていく。
「うぐぅ!」
うめき声をあげる敵将……かろうじてオズのそばに駆け付けた元オーガの女傑レビンが敵将の短剣を盾と剣で受け止めたうえ、オータニ様が改良した仕込み盾から飛び出した長針が敵将の左目を奪った。
レビンが追撃に移ろうとすると、目の前に真っ赤な砂がばら撒かれる。予測のできない攻撃だと判断し、後ろに飛び退いてオズを守ろうと待機する。
「名前は?」
「オーガのレビン」
「ボクはワリエリ……ボクに傷をつけたことをゼッタイに後悔させてやる……ゼッタイにだ」
そのセリフを残し、紅い砂で地面に描かれた円形の模様の中にズブズブと沈んでいった。
「ふぅ、一時はどうなることかと……レビン殿、助かりました」
「問題ない、これもオータニ様のため」
オズは頬に滴る汗を拭いながら、魔族の侵攻を撃退できたことを心のなかで
オータニ様、こちらはうまく行きました。オータニ様もどうかご無事で……。
大谷さん達は今、コルマチク山脈を越えて、龍人族最後の生き残りアピ・ドラコルの案内で魔族の発生源を直接叩こうと少人数で行動している。
魔族の軍の方は、町長オズやベイマンに任せているので大丈夫。ちょっと変わってるけど頼りになるマエロンとオーガの戦士レビンもついている。なので侵攻が
ただ今回の奇策は二度と使えないので、二度目の侵攻が始まる前にその根源を叩く必要があった。
大谷さんの見立てでは彼ら魔族は、利他行動を示すアリやハチのようなものではないかと考えている。人間のような飽食からくる慈善とは違い、より強固なもの……
「たぶんこの先……でも霧が邪魔してわからないの」
「ふーん、でも大丈夫」
このあたりはアピが住んでいたところからそう遠くない奇岩石地帯だそうで、魔族が現れる1か月前あたりから、晴れることのない謎の霧がかかったそうだ。中に入ると迷子になりそうで、誰も中に入って確認していないが、この奇岩石地帯から魔族たちがやってきたとアピは語る。
大谷さん、方位磁針を持ってきた。霧のなかへ入る前に高いところから全体を見渡したので、だいたいの地形も把握できた。
霧のなかに入ると足元や隣にいる人くらいは見えるので、はぐれないように固まって移動する。
奇岩石はまるで迷路を形作っているような形状で、右に左に、時には分岐路を選択して前に進んでいく。何度か魔族に遭遇したが大谷さん達に気が付かずにすれ違う。
今回の潜入前に大谷さん、水人族からイカやタコのような頭足類の海棲魔獣の皮衣を手に入れた。普段はほぼ透明な布のような質感だが、上から被ると周囲と同化して見えづらくなるという特性を備えている。都合できた数は8つ。なので潜入班も8人にした。
オータニさん、カナヲ、バフォン、アルメ、ケーケー、聖女ミイ、兎人ルゥそして龍人族のアピの8人。
今のところ、順調に奇岩石群の奥に進んでいたが、大谷さんどうしても方角的に行けない場所があるので、首をひねった。
「それならさっき怪しい場所があったでしゅ」
皆に相談したら兎人のルゥが教えてくれた。そこまで引き返してみるとなるほどたしかに岩陰に不自然なスペースがあった。だけどそれ以上は怪しいと感じてもどう怪しんでいいのかさえわからなかった。
「ここでしゅ」
あっさりと岩の隙間に手を伸ばしてカチリという音とともにただの岩壁だった場所が侵入路に早変わりした。
ルゥって頼りになる。元々カンデナ獣王国では日本でいう忍者のような仕事をしていたと聞いてはいたが今回の働きで納得がいった。
洞窟のなかに入った。地面に淡く光る石が敷きならされているので、真っ暗ではないのだが……。
「まずいかも」
「オータニ様、どうされました?」
大谷さんのひとり言にカナヲが反応した。うん、これはまずい……。
そう思っていたら、さっそく魔族がきた。おそらく見回りだと思うが、まっすぐこちらへとやってくる。
「バフォン」
「承知」
バフォンが一瞬で魔族を斬り捨ててくれた。だけど……。
「ギキィーーーッ」
「走ろう」
完全に見つかってしまった。水棲の魔獣の衣を被っているとはいえ、砂利の足音と光っているはずの砂利石の真上に複数の黒い足跡があったら気づかれるのも無理はない。離れているところにいた魔族が奇声をあげた。
こうして大谷さんたちの追走劇が始まった。
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