第27話 大谷さん、スキルを授ける


 また変なところに出ちゃった。

 岩の橋が中央の島に架かっていて、下をみると底がまったくみえない。石でも投げてどれくらい深いか調べたかったけど、先客が中央の島のうえで待っていた。


「配下には手出しをさせないから、一騎打ちしようよ?」


 金髪の少年……角が2本生えているのを除けば人間と外見は変わらない。

 ってか嘘だろ……どストライクな美少年じゃん……お姉さん、こういうシチュじゃなければ、キュンってしちゃうところだったぜ?

 

 背後の魔族の気配が消えた。どうやら目の前の金髪美少年にまんまとここへ誘導されてしまったらしい。私の今期推しのアニメキャラに似ているのに敵だなんて実にもったいない。


 サイコ改め、金髪美少年はどうやらバフォンに執着しているみたい。さきほど話の出た元オーガのレビンから手傷を負ったと聞いている。左目に眼帯をしているのは、中二病を発動しているからという訳ではないらしい。


「バフォンちょっと」


 私が岩橋を渡ろうとするバフォンを呼び止めて、ゴニョゴニョと相手に聞かれないようにアドバイスをしてあるモノを握らせた。バフォンは気に入らなさそうだが、金髪美少年の先ほどの部屋での行動を考えると念のための準備はしておいた方がいいと思う。


「ねえ、オバサンまだ?」

「お、オバ……て、テメェ」


 少しカッコいいな、なんて思った私がバカだった。あの野郎ぉぉぉ!


「ちなみにオバサンの方は異世界の人間でしょ? 上から連れて行くように言われているから待ってて」


 そう言われると逃げたくなる。バフォン、マジで負けんなよ?

 悠然と岩橋を渡り、大斧をゆっくりと構える。相手は短剣が2本……うん、なんか勝てそうな気がする。


「……バフォンだ」

「別に名乗る必要なんてないよ、すぐに引き裂くだけだから、ね?」


 他の魔族よりも速くて短剣なのに攻撃が重そう。バフォンは大斧で受けているが、押されているようにみえる。


「なんだ。あのレビンって女よりたいしたことないじゃん」

「……」


 バフォォォォーーーン。アンタ、オーガの英雄なんだろ? なに相手をイキらせてんだよぉぉぉぉ? 


「聖女様、ご心配にはおよびません」

「え? だってアイツ……」


 私の心配というか、絶望に対してカナヲが声をかけてきた。よせやい、なぐさめの言葉なんてッ!


「オータニ様から?名前?をいただいた時に一緒に特別なチカラを授かりました」


 全員ではないらしい。もともと才に秀でているものほど特別なチカラに目覚める確率が高かったそうだ。カナヲは精霊魔法。そしてバフォンは……。


「我もまだまだだ……」

「自分が情けなくて泣きそうなの?」

「ああ、〝スキル〟を解除しないと・・・・・勝てない自分が情けなくてな」


 バフォンはそう言うと、自分にかけていたスキルを解除したようだ。彼のまわりで白い膜が弾け、周囲に轟音と爆風が同時に襲った。


「それでバフォンのスキルってなんなの?」

「彼は普段、自分を中心に〝重力〟スキルを常に発動しています」

 

 重力は普通、真下に向かって作用する力だとよく誤解されているが、本当は惑星も人やモノでも引き寄せる力……引力を持っていて、地球があまりにも大きいので下に向かって働く力がすべてだと勘違いしてしまう。ニュートンの万有引力もニュートンは「リンゴに働く重力」を発見したのではなく、「リンゴに働いている引き寄せる力が月や他の天体にも作用している」ことに気が付いたのが万有引力の法則発見の正体となる。太陽と月が並ぶと新月や満月になるがその両方の引力が地球に作用することで海面に潮汐現象でいう満潮の状態になる。リンゴの木から落ちたリンゴもごくわずかな引力を持っている。そして当然、人間だって引力……重力を少なからず持っている。


 バフォンは、対象の人やモノに任意で対象物を中心に重力を掛けるスキルを持っているそうだ。そのスキルの効果範囲を自分の皮一枚以下に限定したうえで、自らを鍛えるために寝ている時も含めて絶えずかけ続けていた。効果は質量を実際より重くすること。疑似的に質量を大きくできるので、同じ動きをするにしてもエネルギーがまったく変わってくる。彼はそれを自分に課したうえでこれまで戦っていたということはつまり……。


 ──メッチャ強くなった。


 動きも速いし、先ほどまでと違って、相手の短剣を軽々と受け止めている。


 なので金髪の美少年、再改め、やっぱりサイコな少年は卑怯な手に走った。

 ワリエリが指笛を鳴らすと羽音が聞こえてきて、穴の底から巨大なカマキリの魔獣が現れた。


 ──フラムマンティス。パラメア大森林北方の火山地帯に生息している稀少魔獣……動きが恐ろしく速く、炎の鎌が厄介なのでパラメア王国内でもSランクの危険魔獣と位置付けられている。


「アハハッ! どうだいボクのペットは? コイツを捕まえるのに下級魔族をたくさん犠牲にしたよ」


 フラムマンティスの背中には鞍が取り付けられており、ワリエリがそこに騎乗して、声高々に被害自慢をしている。


 バフォンがこちらを見る。私は握った拳に親指を立てて下に向ける……「れ」と。


 バフォンはフラムマンティスにテニスボールくらいの黒い箱〝モンスターボックス〟を投げるとフラムマンティスがその箱のなかに一瞬で吸い込まれた。


 一瞬で消えたフラムマンティスに取り残されるように宙に浮いた状態から着地したワリエリは状況が呑み込めず呆然としている。その傍らで……「ボックスオープン」とバフォンが唱えるとフラムマンティスが再び現れると同時にワリエリに焔鎌を振り下ろした。だがワリエリは腕一本だけを残して足を踏み外し、叫びながら奈落の底へと落ちていった。

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