第28話 大谷さん、ギャンブルバトルに挑む


「そちらはたしか異世界の客人ですね」

「なんで知っているんですか?」

「それは答えられません」

「じゃあ、名前はなんですか? それと目的を教えてください」

「それなら答えられます」


 うーん、丁寧に名前を名乗ってくれた。彼の名前はグードモール、魔族第20,948師団の幹部だそうだ。


 彼らの目的はこの世界を支配下に置くこと。なのでこの世界を支配しうるチカラのある龍人族の抹消と異世界人……大谷さんや聖女ミイの確保が目的だそうだ。異世界人の確保については彼も師団長という上司のような存在から詳細は聞かされていないらしい。


 彼ら魔族も異世界からやってきたんだそう。でも大谷さん達の世界とは違うところからやってきたらしく、この世界にきた彼らは何万という師団のひとつにすぎないと大谷さんたちに説明した。


 万単位の軍が何万ということは少なくとも1億以上はいる計算になる。


「それではおとなしく排除されてください」

「イヤに決まってるわ」

「そうですか、ではお手伝いしましょう」


 丁寧な言い方だけど、要は●す、と言ってるので、やはり魔族とは分かり合えないと確信した。


「ですが、ただり合うのもつまらない。ここはゲームをしませんか?」


 グードモールの提案を聞いて大谷さんはピンときた。──どんなゲームかは知らないが、間違いなくイカサマかなにかを仕掛けてくるだろうと……。


「アピ……〝オータニX〟をやりますよ」

「はい、わかりました」


 大谷さんには秘策がある。下手に話すと敵に勘付かれるかもしれないので、あらかじめ符牒を決めていた。


 大谷さん、ギャンブルバトル系の漫画はネットカフェで多くの作品を全巻読破した。なので、アピよりはイカサマに気がつく確率が高い。


「まず向こうを見てください」


 この部屋は人工物でできているが、端っこの方に自然の鍾乳石が露出している場所がある。


 つららのように垂れ下がったつらら石とその下に長い年月をかけて、つらら石から垂れてきた水に含まれる石灰が、人間の腰ほどの高さまで成長した石筍せきじゅんと呼ばれる方解石の柱があった。大谷さん達が観察している間にもポタポタと「ドリップストーン」と呼ばれる水滴が垂れている。


「このロウソクの火が消えるまでに交互に計って水滴が落ちた回数が多い方が勝ちというのはでどうですか?」


 出た。公平性の盲点をついた疑似公平性トリック。条件を相手が提案した時点で、すでに仕掛けられている・・・・・・・・と思った方がいい。


 グードモールはまったく同じ長さの短めのロウソクを二本持っている。鍾乳石の近くにたいまつがあり、ロウソクの火をつけてスタートするとの話で、まあ普通はロウソクの方に仕掛けがあると疑うだろう。そして当然ながらこう言ってくる。


「どちらのロウソクにするかはそちらが選んでもらって構いません」


 ふむ、と言うことはロウソクの方に仕掛けはない。ロウソクの火をつけた後になにか仕掛けをするのか、またはつらら石側に仕掛けを施している可能性がある。だが、いくら観察してもつらら石の方は規則的に水滴がポタポタと垂れているだけで、仕掛けのしようがないと思う。


「イカサマはしません。もしイカサマを見つけたら私の負けでいいですよ」


 イカサマをしないと公言してイカサマをするパターンなのか、イカサマ以外になにかトリックが隠されているのか、今までのグードモールの発言では読み取れなかった。


「いいですよ、じゃなくて……いいですわ」


 アピの返事を聞いて、グードモールはニッコリと笑う。うーん大谷さん、以前もこういう無意味に笑顔をみせる司祭にひどい目に遭った記憶が軽くよみがえってきた。


「どちらが先にやりますか?」


 これも選んでいいよ、と選択権をコチラに与えているようにみえるが、相手のカラクリがまだ分からない。相手の出方を見るためにアピは二番目を選んだ。


 ──十数分後。


「私は96回でした。間違いありませんね?」

「はい、間違いありません」


 大谷さんとアピも数えていたので間違いない。たいまつに火をつけて、それにロウソクを近づけて火を灯しロウソクが消えるまでに水滴はたしかに「96回」だった。


 水滴の回数もそうだけど、グードモールがなにか仕掛けないかと、注意深く様子をうかがっていていたが、なにかしているようには見えなかった。


「ではどうぞ」

「ちょっとタイム……じゃなくて待って」

「ええ、いくらでもどうぞ」


 アピがスタートを遅らせるよう交渉したらあっさりとグードモールは了承した。うーんどうしよう? 「仕掛け」がまったくわからない。ひとつだけ分かっているのは、そのままゲームをはじめたら水滴の垂れる回数は確実に先ほどの96回未満になるということだけ。相手が射幸心のみでゲームを仕掛けてくるような楽天的な存在とは思えない。かならず〝〟がある。


 いくら考えても答えが出ないと高をくくっているのか。それとも別の「なにか」があるのか。



 あ、大谷さんわかったかも……。








【ご連絡】


 このグードモールのカラクリは「ノックスの十戒」を破っておりません。

 ミステリーではないのですが、十戒を守って書いてみました。

 

【ノックスの十戒】

(1)犯人は物語の序盤に登場していなければならない。

(2)探偵方法に超自然能力を用いてはならない。

(3)犯行現場に秘密の抜け道や扉を用意する場合、2つ以上作ってはならない。

(4)未知の薬物や、一般人が理解しづらい難解な化学技術を用いてはならない。

(5)中国人を登場させてはならない。

(6)探偵は偶然や勘で事件を解決してはならない。

(7)探偵自身が犯人であってはならない(犯人に変装するなどの場合は除く)。

(8)探偵は読者に明かしていない手がかりによって事件を解決してはならない。

(9)探偵の助手にあたる人物は、自身の判断を読者に知らせなければならない。

(10)双子や一人二役の人物を出す場合、存在をあらかじめ読者に伝えなければならない。


 →中国人を登場させちゃダメって、かわいそうな気が……。

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