第2話 大谷さん、魔獣と戦う
大谷さんが異世界へやってきて1週間が経った。
たった1週間で2階建てのレンガ造りの家を完成させた。
大谷さん、家を造っている間に新しいチカラに目覚めた。
「チェーンソー」と「ハンマー」……ステータスバーをよくみると
ゴブリン達は、これまで石の斧で少しずつ木を切り倒していたそうだ。一か月以上放置して枯らした根を石や木の棒で掘りおこして、馬で引っ張り、木の根を除去するというすごく原始的な方法で時間をかけて、森の中にあるこの村を少しずつ拡げてきたそうだ。だけど、大谷さんのスキルを使えば、木を切り倒すのに1秒もかからない。これは元いた世界のチェーンソーを使っても、そこまで太くない木を切るのに数十秒はかかるので、スキルの方がすごく効率がいい。
家の屋根は半円状にすることで、より壊れにくい構造にした。チェーンソーで近くで伐採した木を使って家具を作ったら、中世のひとたちが生活していたであろう家が完成した。
「これを我々にですか?」
「はい、まだ粗が多いですが」
「ありがたいのですが、それでは割に合いません」
色々と世話になっているので、お礼のつもりだったが、村長は丁重に断ってきた。
レンガ造りの家は彼らにとって、これまで目にしたことのない素晴らしい家。頑丈で燃えにくく、雨風を確実に遮り、安心して住めるもの。それを食事や寝床を提供しているだけなのにもらうことはできないという話をしてきた。
「それでは、こうしましょう」
大谷さんはいいことを思いついた。
ゴブリン達のわだかまりもなく、大谷さんの懐にやさしいウィンウィンな妙案。
彼らの食糧源は、獣の狩猟と粗末ながら果物や野菜といったものを畑から収穫する作物だと以前教えてもらった。だが、獣を狩猟するにせよ、畑を耕すにせよ、彼らの石や木でできている弓矢や鍬ではあまりにも効率が悪すぎる。
そこで大谷さんは、銅や鉄の精錬方法を彼らに教え、狩猟による獲物の毛皮や耕作物が過剰になった分を大谷さんがもらう条件でどうかと持ち掛けて、村長さんはそれで了承してくれた。
話がまとまった翌日、近くの洞窟へ案内してもらった。近くといっても歩くと結構時間がかかる。
到着すると案内人兼護衛担当のゴブリンが、森のなかに大谷さんと他のゴブリンを待機させて、単独で洞窟の中へと入っていった。
この洞窟は昔からあのゴブリンの集落のなかでは知られているところだが、洞窟の中にたまに魔獣がいることがあるそうなので、安全かどうかを調べに行ってくれているそうだ。
ちなみに大谷さん、ゴブリンたち魔物と魔獣の違いがよくわからないので待機している護衛のゴブリンに聞くと丁寧に教えてくれた。
ゴブリンたちのような言葉を話せて高い知性を持つものを魔物と呼び、攻撃的で言葉を喋れず、意思疎通もできない存在を魔獣と呼び分けているそうだ。──なるほど、大谷さん、この異世界にやってきて、魔獣じゃなくてゴブリンと最初に会えたのはラッキーだったと初めて知った。
他にもなにか教えてもらうべく護衛のゴブリンへの質問を考えていると洞窟の中から、犬の遠吠えのような声が外へ響いた。
ほどなくして、洞窟の中に入ったゴブリンが走って出てくる。その背中を追って狼のような魔獣が3匹、飛び出してきた。
待機していた護衛のゴブリン達が矢を放ち、1匹を射抜いた。だが残り2匹の魔獣は左右に散ってしまう。
かなり大きい。大型犬くらいの大きさで動きも速い。残り2匹といえど油断は禁物といえる。
一方、ゴブリン達は身長が120センチくらい。人間の子どもくらいの大きさしかなく力も弱い。手に握っている武器は、木と石でできた弓矢や斧、槍とそこまで殺傷力が高くない。先ほど1匹倒せたのは洞窟から急に出たせいで、まぶしさに反応が鈍ったところへ石矢が運よく魔獣の目に命中したので、残り2匹を弓矢で倒せる確率はかなり低いと思う。
ところで大谷さんは武器を持っていない。自分を守ってくれる3人のゴブリン達も大きな狼の魔獣を相手だと頼りなく感じてしまう。
他の2匹は、言葉が話せなくても狡猾に動いている。円陣の周りを弓矢に狙いを絞らせないようにぐるぐると回って時折、フェイントを入れ、逆向きに向きを変える。
とても残念だが、焦ってしまったゴブリンが矢を放って次の弓矢を
ゴブリンが落としてしまった弓矢を拾った大谷さん、
ぬらりと茂みから出てきた2匹の狼の魔獣は、その口に血を滴らせている。
2匹の狼の魔獣は先ほどと同じように大谷さんたちのまわりをぐるぐると回り、こちらのミスを誘発させようとする。
怯えて慎重になっているゴブリン達を気にもとめずに持っている弓矢で魔獣を狙って矢を放ったが、外れてしまった。やはり改良の余地があるな、と大谷さんが弓を見ている間に大谷さんを森の中へ引きずり込もうと、狼の顎がすぐそばまで迫る。
『グシャ』──砕けた音がした。それは大谷さんが襲われた音ではなく、スキル〝ショベル〟で魔獣を潰した音なのだが、大谷さんはあまりうれしくない。
大谷さんの流儀としては、仕事道具を他の用途に使いたくなかったが命に関わるものならやむを得ないと割り切った。
潰された仲間を見て、残りの1匹が即座に背を見せ逃げ出した。本能で分かったのかも、1匹では到底かなわない存在が紛れていることに。
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