第3話 大谷さん、炭鉱をつくる
魔獣のいなくなった洞窟の中で、スキル〝ハンマー〟を使って岩壁を壊すとすぐに鉱物が出てきた。
大谷さん、あまり鉱物の種類は詳しくないが、赤銅色で光沢があるので多分、銅だと思う。
残ったゴブリンのふたりの内、ひとりに応援に来てもらうよう伝言を頼んで村に向かってもらった。
さっそく洞窟の入口近くでスキル「レンガ」で炉を造り始めた。すぐに完成させて、炉の隣に地面を掘って炭窯を造る。
ほどなくして村から応援でやってきたゴブリン達に洞窟の中で破壊しておいた鉱石を運び出しをお願いした。そして彼らの現在の技術で設営が可能な藁葺小屋を建ててもらい、その中に鉱石を保管してもらう。
炉と炭窯ができると、さっそく炭づくりと銅の精錬方法をゴブリン達に教えはじめた。炭窯や精錬なんて実際やったことはないが、大谷さん、モノづくりの知識だけは頭に詰め込まれている。記憶を頼りにやってみたら、多少改良の余地がありそうだが、うまくいった。
青銅製の鍬や弓矢の
10日ほど試行錯誤を繰り返して炭づくりと銅の精錬が軌道に乗ったので、ゴブリンの中でも特に物覚えが早く腕の確かなものにお願いして、運営を任せた。
他にも村と鉱山を繋ぐ経路を完成したばかりの青銅製の斧やスコップを使い、道路を作るようにお願いした。いずれは馬車も作れるようになるはずなので、今のうちにすごく時間と労力のかかる道路を作っておいた方が、これからなにかと都合がよかった。大谷さんは元いた世界で、地方の建築を請け負った時に狭くてデコボコな道路より広くて平らな道路が大事であることを痛感したことがあった。
村に戻ると、さっそく銅製品が普及し始めて、村も豊かになり始めていた。
「我々の
ゴブリンの村長が大谷さんに頼むが、その申し出を断った。
「
子方とは、建築業で親方に付き従う部下のこと。大谷さんの建物づくりに協力する形であれば、了承すると答えた。
大谷さんは以前から気になっていたが、自分のステータスに〝子方〟というメニューがあって、そのボタンを押すと、ゴブリン達の頭の上に三角の矢印が浮かんでいるので、村にいる全員を大谷さんの子方にできた。
次の日、起きてびっくりした。彼らゴブリン達は身長が150センチ台になっていた。さらに緑色の肌や尖った耳もどうみても人間になっていた。ただ唯一、目だけ緑色なので、彼らと人間を識別するには目の色を見るしかない。
彼らは体格が大きくなったことで、腕力も増し、狩猟にしても、農耕にしても効率が格段とよくなった。炭鉱にいるゴブリン達も数日に分けて村まで来てもらい子方になった。
大谷さんは村人たちにスキルなしで、雨風をしっかりしのげて、かつ頑丈な家を建てるための技術を教えた。
まず地盤が大事なこと、地形により地盤が固い場所と柔らかい場所があること。柔らかい場所に建てる場合は、なにより地盤を締め固める
それをゴブリン達に教えていたら、村のまわりを見回りしているゴブリンが走ってやってきた。
「エ、エルフが村の前で倒れています!」
「くっこの人間めッ! 貴様らの施しなど誰が受けるか!」
「待ってください、私たちはゴブリンです」
村の外れまでやってきた。
エルフは木杯を渡そうとした村長の娘の手を払いのけた。
「ゴブリンだと? 憎き人間にしか見えないが?」
人間が憎い? エルフって、人間のことが嫌いなんだ。
大谷さん、一般的なエルフのことはよくわからないが、普通は人間には友好的な気がするがこの異世界ではそうではないらしい。
「それで森の隣人よ、なぜ我らの村へ?」
ゴブリンの村長さん、人間になると白髪交じりのナイスミドルになっている。村長さんの説明でエルフの男は、ようやく目の前の人たちが元ゴブリンだということを理解できたようだった。
「実は我らエルフの里に、大量のゲバラトが現れて……」
エルフは気位が高く、他の種族を見下す傾向にあり、彼らがゴブリンに助けを求めるのは相当な出来事なのだろうと、村長が大谷さんに耳打ちして教えてくれた。
ゲバラトというのはネズミに似た魔獣で30センチくらいの大きさなので一匹ならたいした脅威ではないらしい。だが、ゲバラトは数千匹から数万匹という単位の群れで行動するらしく、ゲバラトに襲われた村は、食べ物はおろか木でできた建物もかじってしまい、跡形すら残らないそうだ。
「我々が救援に行ってもたいして役に立たないと思いますが……」
この村と炭鉱にいるものを合わせて100人くらいの元ゴブリンがいるが、全員で応援に駆けつけたとしても、たいして役に立たないと村長が指摘する。
「そんなことはわかっている。だが、女王を救わねば」
エルフの里は、大樹を中心にその周りの木々のうえ……樹上で生活をしているそうだ。ゲバラトが押し寄せた際、女王が逃げ遅れてしまい大樹のなかで籠城しているので、一刻も早く救出せねばと目の前のエルフの戦士は力強く語る。
「少しよろしいですか?」
「なんだ貴様は?」
大谷さんはエルフの戦士に質問した。訝しむエルフに空気を読む気のない大谷さんはエルフの詰問を無視して自分の問いを優先させた。
「いくつか質問に答えていただければ、なんとかなるかもしれません」
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