第36話 大谷さん、電気をつくる


 大谷さん、ようやく電気をつくる準備が整った。

 街のなかに4か所設けた〝発電場・・・〟──空からみると小さな競馬場のような形をしている。10レーンあり5頭ずつマッドボアがその中をぐるぐる回り、マッドボアの突進する力を数百本のバーに伝える。バーはタービンに連結しており、電気抵抗による送電損失を抑えるために3相交流発電という方法で磁石をまわし、3つのコイルを巻いた金属……U、V、W相のコイルで交流の電気を作り、取り出す。

 3本の電線は、架空させずに最初から中が縦に3つに区切られたコンクリートのU型側溝で半地下状に埋設して各建物の近くまで電気を送電する。だいたい10棟くらいを1ブロックとして道の端っこへ電話ボックスくらいのコンクリートで作った変圧器を立ち上げて、変圧して各建物へ配電する仕組みを作った。


 マッドボアは、マグロやカツオのように止まると死ぬ魔獣で常に走り続ける性質を利用した。マッドボアはおそらくマグロやカツオと同じで夜は右脳と左脳を交互に休ませることで常に動き続けていると考えられ、食事は雑食なので果物や野菜なども釣り竿で垂らして給餌する。個体によってはバテてしまい遅くなったりするものもいるので、各レーンをシフトさせる装置をつけているので、低速帯や高速帯などうまく速度をコントロールしている。


 各家庭に送られた電気の使い道は今のところ、明かりしかない。ちなみに大谷さん、電球は作れないので、水人族から大量に譲ってもらったハリセンボンに似た魔獣〝ポリキュール〟を電球替わりにした。中身を取り、おがくずを詰めて10日ほど風当りのよい日陰で干したあと、おがくずを取り除いたら完成。ポリキュールは針の部分に電流を受けると表皮が発光するので、各建物の屋内照明や道路を照らす街灯として普及させた。


 そろそろ「お金」の導入をしようかと大谷さんが、低コストで製造する方法の模索と導入後に混乱が起きないよう、かつ「お金」に振り回されないようにするアイデアを頭のなかで整理していたら、街の端っこにある外壁のうえにある物見台から急を報せる鐘の音が鳴り響いた。大谷さん、建物の外へ出ると遠く北の方で煙信号……狼煙が上がっている。


 大谷さんの今いるところからでは煙しかみえないが、狼煙を上げる位置は夜間でも気が付くようにちゃんと炎が見えるように各拠点を配置してある。炎色反応を利用しているので炎の色をみたら、どういう意図なのかがわかるようにしておいた。そして今回、物見台の鳴らした鐘のパターンは「人間の侵略」……ついに人間がこのパラメア王国に足を踏み入れたことを指している。










「どんな感じですか?」

「ええ、おおむね予想どおり・・・・・・・・・です」


 パラメアの街以外に住んでいる村や炭鉱にいる一般人の避難を済ませ、パラメア森林のちょうど中央付近の王国国境までやってきた。


 カンデナ獣王国の北にあるベルボンという人間の国がカンデナ獣王国へ進軍を始めたとは聞いていたが、2国相手だとさすがにキツイのか、完全に防衛体制に回ったカンデナ獣王国を置いといて、今の内に亜人や魔物の新興国を潰してしまうという企みなんだと思う。


 彼らが強気な理由は、勇者シドーが前線に立っているという1点のみ。彼ひとりのせいで、カンデナ獣王国はかなりの犠牲を払ったと聞いているので、充分用心しなければならない。


 不用意に勇者の前に立たないということだけ決めて、森のなかの道で間延びした隊列の真ん中や後方を何度も何度も奇襲を行い。「無力化」作業にさっそく取り掛かっている。


 森のなかの奇襲部隊を指揮しているエルフの戦士アルメや元ゴブリンのケーケーといった野営戦の得意なひと達になるべく相手が死なないようにして欲しいと頼んでいた。


 できれば足首、難しそうならどちらかの手を狙う。人間の兵士の多くは徴兵で無理やり参加させられているものも多いと思う。でも、話し合いなんて応じる国ではないのはカンデナ獣王国との争いをみてハッキリしている。なので彼ら兵士が傷痍兵として、今後戦争に加担することなく国から保護が受けられるようにという苦肉の策を取った。


 行軍をぐちゃぐちゃにかき乱された人間の軍は森の地形のせいで縦長の行軍を強いられているため、指揮がメチャクチャになっていて、軍そのもののコントロールが不可能なところまできている。


 人間の数は、森のなかなので正確な数は読み取れないが、おそらく5千くらいはいるのではないかとの情報を斥候部隊からもらった……。


 大谷さんは、聖女ミイと一緒に元オーガの英雄バフォンや龍人族アピに護衛をしてもらいながら、人間が侵攻してきている地点から少し離れたところで指揮をとっていた。人間側には予測できないだろうが、エルフによって鍛えられたパラメア軍は森林戦闘のエキスパートであり、いつどこから奇襲されるかわからない不安のなかで24時間、その身を置いている。この分ならパニックの限界がまもなく訪れると思う。集団での敵前逃亡が起きれば、こちらの勝利となる。


 問題は宗教という〝枷〟──熱心な信者だったり、宗教自体が苛烈な教え……例えば敵前逃亡は本人の死罪に留まらず、家族、親戚にまでその罪を被せたりするような内容であれば、強固な枷だと認識しなければならない。


「オータニ様、ご報告が!」


 斥候グループは森林戦闘において重要と考えている。数十の部隊に分けて、細かく網を張り巡らせている。そのひとつの伝令が大谷さんのいる本陣の天幕へ入ってきた。


 ケーケーが彼の部下とともに一緒に捕まった?


 大谷さん、ケーケーは高速で移動する能力を持つことから〝閃光〟の異名を持つ。そんな彼を捕らえるなんて、ちょっと信じられなかった。


「勇者シドーが動きました」






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