落し物

次回以降は毎朝9時のみの更新です!( ̄^ ̄ゞ


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 朝からクラスメイトからの視線が酷かった。

 もちろん、原因はクラスの中でも人気者な綾瀬による過剰なスキンシップだろう。

 普段はせめて対面に座って話す程度だったのが、日を跨げばあの光景。

 聞くところによると、もうある程度学校全体の噂になっているらしい。

 流石は、学校全体で人気者な綾瀬だ。あまりにも早すぎる。


(……ほんと、あの変わりようはなんなんだ?)


 なんてことを思いながら、疲労感を携えて一人屋上へ続く階段を登っていく。

 ちなみに、綾瀬は「あのサイト当てにならないから、友達に聞いてくる!」と言って他の女子と一緒にご飯をたべるらしく、今は一緒にいない。

 俺の恥が拡散されないか心配ではあるものの、少し一人になりたかったのでとりあえずそれはそれでありがたかった。


(間違いなく、あの時のことがバレたからだとは思うんだが)


 きっかけは分かっても、どういう心境の変化が綾瀬の中で生まれたのかが分からない。

 安直に考えれば「好きになったか?」とかに行き着くのだろうが、勘違いの可能性だって否定できないのが現状である。


(それに、綾瀬だったらすぐに「好き」って言いそうなんだよなぁ)


 綾瀬が昔助けてもらった初恋相手のことをどう思って、どれだけ想っていたかは知っている。

 元々素直で、思ったことはすぐに口に出すタイプだ。

 もしも心境の変化が恋愛感情だった場合、それこそ昨日の時点で言ってきそうなもの。

 加えて―――


(……告白されたらされたで、ちょっと困ったかもしれないけど)


 もちろん、綾瀬は魅力的な女の子で、付き合いたいかどうかで言われたら「付き合いたい」のは間違いない。

 だが、本当に昔の話なのだ。今の俺に対してではない。

 、というのが素直な気持ちである。

 昔のことを引き摺って、今の自分を好きになって過去との相違にショックを受けるかもしれないし、苦労するかもしれない。


 友達は友達でもなんだかんだ一番仲もいい。

 綾瀬は大事な人だから……

 まぁ、俺の勘違いって可能性があるから、これはこれで余計な心配かもしれないが。


「……………」


 階段を上がり、屋上前の踊り場へと足を踏み入れる。

 屋上へ出るための扉と、吹き抜けの大きめな窓。そこから差し込む陽射しを受けて、どうしてか脳裏に仲のいい女友達の顔が思い浮かんでしまった。


「……あんまり、昔のことを気にしないでほしいんだけど」


 そんなことを思いつつ、吹き抜けの窓枠に手を伸ばす。


「……ん?」


 その時、考え込んでいたからか。

 今になってようやく、窓枠付近に一つのキーホルダーが落ちているのを見つけた。


(誰か先客いるのか?)


 この学校の屋上は普段出入りができないようになっている。

 もちろんフェンスがしっかりとあるため「危ない」ということはないのだが、行き来できるドアは鍵がかかっているのだ。

 ただ、吹き出しの窓の鍵は劣化によって壊れていて、そのこと知っている人はここを潜って屋上へ出て涼んだり休んだりしている。

 おかげで、たまに人目を気にするカップルとかが来るのだが……その瞬間に出くわした時が本当にいたたまれないのだ。もう、視線が合った時の沈黙具合いよ。

 早く帰れ、と言われてないのに早く帰らなければいけないという気持ちと申し訳なさと妬みが湧いてくるというかかなんというか。

 そういうのがあるから、最近はあまり来なかったのだが……今日に限っては少し一人になって考えたかったから、足を運んだ次第。


 話は戻すが、恐らくこのキーホルダーは先客が潜ろうとした時にどこか引っ掛けて落としたものなのだろう。


「にしても、このキーホルダー……懐かしいなぁ」


 落ちているキーホルダーは、何年か前に放送された女児向けのアニメのもの。

 一時大人にも人気を博しており、うちの母親も熱心に日曜日の朝、わざわざリアルタイムで追っていたのを覚えている。


(そういえば、昔ことあったような……?)


 確か、俺の記憶が正しかったら中学入る手前。

 近所の公園で必死にこれと似たようなキーホルダーをなくしたと泣いていた女の子がいて、放っておけなくて結局両親にこっぴどく怒られるまで一緒に探したような気がする。

 しかも、それがなんでもだったらしいのだ。

 事故で亡くした母親と一緒にそのアニメを欠かさず一緒に観ていて、母親が最後まで「娘とお揃いがいい」と大事にしていたそうな。

 そういうことを聞いて、絶対に見つけ出さなきゃって思って―――


「結局、近くの川の中にあったんだっけ? 誰かが落ちていたのを捨てたから、ずっと歩いた道を遡っても見当たらなかったんだよなぁ」


 昔のことを懐かしく思いながら、俺はキーホルダーを拾ってとりあえず吹き出しの窓を開ける。

 先客がいるなら他の場所に行こうかと思ったが───


(……もしかしたらこれを落とした先客がまだ屋上にいて、探してるかもしれないしな)


 渡すだけ渡して退散しよう。

 そう思ったのは、きっと昔ことを思い出したからだろう。

 だから、俺はそのまましゃがんで吹き出しの窓を潜―――


「……ッ!?」

「いたっ!?」


 ―――ったその時、勢いよく何かにぶつかった。

 それはもう───恥も外聞も関係なくのたうち回ってしまうほど。


「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅッ!?」


 痛いっ! いや、本当に痛い! ゆっくり潜っていたとは思えないほど頭が痛い!

 こんなの、絶対に猪か何かが勢いよく突っ込んでこなきゃ味わえないぐらいの痛み……真剣に相対して病院に行こうか一考するレベル……ッ!!!


「~~~~~ッ!?」


 そして、痛みに悶えていると……ようやく。

 同じように、吹き出しの窓の近くで頭を押さえて悶える一人の女の子の姿に気がついた。


「……い、痛い」


 艶やかで長い銀の長髪。

 美しく整った顔立ちと長い睫毛、潤んだ桜色の唇。

 表情が乏しいのか、それともおっとりした雰囲気を醸し出しているからか、クールビューティーという言葉がよく似合うほど綺麗な女の子だった。

 ただ頭をぶつけたことによって涙目を浮かべる姿は、可愛らしいというギャップを生み出し、自分も頭が痛いにもかかわらず……思わず固まってしまうほど見惚れてしまった。


(確か、この子って……)


 見覚えのある女の子だ、と思った。

 ただ、それは学校で出会ったからとかではなく、普段よく目にする見たような―――


「……あっ」


 その子もようやく俺のことに気が付いたのか、顔を見るなり申し訳なさそうに頭を下げた。


「……ごめん、なさい。ちょっと急いでて、入ってくる人を確認してなかった」

「あ、いや別に……逆にそっちこそ、頭大丈夫か?」

「……うん、昔からよく「鉄でも流し込んでるのか疑うぐらい石頭だね」って言われてた」


 なるほど、だから病院に行こうか真剣に一考してしまうほど痛かったのか。


「……ごめん、あとでちゃんとお詫びするから。今、探さないと……お仕事始まったら探せなくなる」


 そう言って、その子は俺が入ってきた吐き出し窓へ潜ろうとする。


(……ふむ)


 とりあえず、俺はくぐってどこかに行かれる前に、女の子の肩をつついた。


「なぁ、落としたのってこれか?」


 そして、女の子が振り返ったのと同時に先程拾ったキーホルダーを見せ―――


「~~~~~ッ!」

「……へっ?」


 ―――


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